朝起きたら
まず、窓を開けます
太陽が出てくるのね
お岩木様も見てね
それからご飯炊きもね
ずっと続けていることですよ
『岩木遠足 人と生活をめぐる、26人のストーリー』(青幻舎)P.15“初女さんの言葉”より
新刊『岩木遠足 人と生活をめぐる、26人のストーリー』(青幻舎)には、
2009年から2013年にかけて、青森県の弘前市を出発点に開催された
遠足形式のイベント〈岩木遠足〉に登場した、26人の物語が収録されています。
はじめの言葉は、弘前で〈森のイスキア〉を主催する
佐藤初女(はつめ)さんの言葉。
“お岩木様”というのは、広い広い津軽平野のどこからでも見える、
県内で一番高い山のことです。
その麓には、岩木山を仰ぎ見るようなかたちで神社があり、
山頂には奥宮が建てられているのだそう。
津軽の人たちの暮らしに溶け込み、古くから慕われきた山です。
『岩木遠足』は、この岩木山を望む地域をひとつの文化圏ととらえ、
その周辺に暮らす人や、ゆかりのある人を訪ねるバスの旅から始まります。

編著者は、このイベントの発起人であり、
先日「つくる」Journal!にもご登場いただいた豊嶋秀樹さん。
「岩木遠足」の本制作委員会のみなさんと一緒にこの本をつくってきました。
豊嶋さんは〈gm projects〉のメンバーとして展覧会の空間構成を手がけたり、
〈津金一日学校〉(山梨県)や〈陸前高田ミーティング(つくる編)〉(岩手県)
などのイベントを手がけたり、自身の作品を制作したりと、
枠にとらわれない活動を展開しています。
岩木遠足は、豊嶋さんが興味のある人や、会いたい人に会いに行く道程を
遠足のようなかたちで参加者の皆さんと
共有できたら楽しいのではないか——そんな思いから始まったイベントなのだとか。
一行が貸し切りバスを降りて山のなかを歩いていくと、
そこにはマタギや音楽家、こぎん刺しの研究所の所長さん、
農家さん、こけし工人、シェフなどなど、
その場所にゆかりのある人が待っていて、いろいろな話をしてくれる。
しかもただ話を聞くだけではなくて、
津軽笛による登山囃子(とざんばやし)の演奏を聴いたり、
リンゴ畑を歩いたり、農場でお昼ごはんを食べたりと、
そこでしかできない体験とともに聞く。
遠足は、そんな風に進んでいきます。

挿画 佐々木愛
第1章には、世界を旅する写真家・石川直樹さんが登場します。
石川さんはつぶ沼という沼のほとりで、
“自分なりの地図”を描いて探求していくことなどを語りました。
石川さんはオーストラリアでアボリジニの人たちに会った時に、
彼らが何の変哲もない風景のなかに泉が湧き立つ場所や
聖地となっている洞窟を見ていることを知り、
普通の地図には載っていない、
まったく別の世界が存在することに気づいたのだそう。
その時に石川さんが思ったのは、たとえ見慣れたような風景でも、
自分のとらえ方によって、いかようにも変化させられるということ。
それから第2章、第3章と読み進んでいくと、
次々に“自分なりの地図を描く”ような生き方をしている人が登場します。
たとえば、伝統を継承していくだけではなく
“今の時代のいいものって何なのか、ってことをしっかりと考えて伝えられればいいな”と
語っていた〈必殺ねぷた人〉の三代目棟梁・中川俊一さん、
お金を稼ぐ仕事は自分が責任を持てることでないとだめだと気づき、
音楽に重点を置くようになったという音楽家のオオルタイチさん、などなど。
そうした人たちの話を聞いているうちに、
“自分なりの地図を描く”って、いつもの見方ややり方をちょっと変えてみるとか、
自分で考えた方法でやってみるとか、
そういうことなのかもしれない、と気づかされたりするのです。