〈 この連載・企画は… 〉
ローカルにはさまざまな人がいます。地域でユニークな活動をしている人。
地元の人気者。新しい働きかたや暮らしかたを編み出した人。そんな人々に会いにいきます。
editor's profile
Kanako Tsukahara
塚原加奈子
つかはら・かなこ●エディター/ライター。茨城県鹿嶋市、北浦のほとりでのんびり育つ。幼少のころ嗜んだ「鹿島かるた」はメダル級の強さです。
credit
撮影:奥山淳志
東北のものづくりを軸として、東北に根づいた「暮らし方」を見つめる視点として、
「東北STANDARD」と名付けられたwebサイトがある。
青森県の「裂織(さきおり)」、福島県の「会津張り子」、
岩手県のお祭り「けんか七夕」など、
東北で生まれ、伝えられてきたものづくりや祭りを、
自分たちの視点で見つめ、映像や写真などとともに発信するカルチャーサイトだ。
金入健雄さんは、このプロジェクトの代表を務める。
ちなみに彼は、青森県八戸市を拠点とする、
文房具や本などを扱っている会社「株式会社金入」の七代目、若き社長。
ライターや新聞記者など、メディアに携わっているわけではない彼が、
なぜこのようなプロジェクトを立ち上げることになったのか――
その背景を、金入さんに聞いてみた。
大学を卒業後、文房具の老舗・伊東屋に勤めていた金入さん。
家業を継ぐために戻ってきた八戸で、
家業の流通事業の強みを生かし、新しく立ち上がった、
「八戸ポータルミュージアム はっち」内に設ける
ミュージアムショップ「カネイリミュージアムショップ」を手がけることになったのだ。
そこで、金入さんが考えたのは、地元青森の工芸品も一緒に販売すること。
「八戸で、東京と同じことをしても意味がないじゃないですか。
八戸に住む自分たちにしかできないものをやろうと考えた結果、
地元で続いてきた工芸品を、地元の人にも観光客にも知ってほしいと思ったんです。
地元の人が、地元の工芸品に触れられる場所って、意外と少ないんですよね」
それは、地元の工芸品を新しい視点で発信する機会となった。
続いて、せんだいメディアテーク内のミュージアムショップも手がけ、
取り扱う工芸品は、東北6県にまで広がっていった。
職人のところへ会いにいき、ひとつひとつ取り扱わせてもらうようお願いする。
扱う商品が増えていくのと同時に、
金入さん自身が、東北のものづくりについて話す機会も多くなっていく。
そのうち、こんな質問をされることが多くなったのだという。
“東北の良さって何ですか?”と。
「あるイベントで単刀直入に質問されたとき、うまく言葉にできなかったんです。
東北の良さって何だろうと、改めて考え始めました。
うまく言葉では置き換えられないけれど、何かがある。
その何かを包括的に伝えられるようなプロジェクトをしたいなと思い始めました。
そうしたら、東京でクリエイターをしている高校のときの先輩が、
同じようなことを考えていた。彼と言葉を交わしているうちに、
東北STANDARDが生まれていきました」
それは、東日本大震災が起こったことで特殊な状況に置かれてしまった、
東北のものづくりへの危機感も含まれていると金入さんは続ける。
「大手メーカーが復興支援として発注した何万個という需要に対して、
おみやげとして消費されるだけの工芸品と同じものづくりを繰り返していても、
それがまた終わってしまった5年後は、すっかり忘れられてしまう。
そうなる前に、東北の知恵や創意工夫はかっこいいんだと発信していきたいんです」
それが、東北スタンダード。
例えば、北欧のライフスタイルがインテリアのスタイルとして注目されるように、
東北にも似た何かがある。少なくとも、青森で生まれた“裂織”や“こぎん刺し”には、
南米などでは見られない素朴な美しさを放っている。
東北の工芸品をつくる職人たちを訪ね、そこに眠る風土やライフスタイルを知る。
それが、東北で生きる知恵や東北の誇りといったものを抽出するカギになり、
世界中の人々にとっても新鮮なライフスタイルに映るんじゃないか。
「そんなふうに10年後も勝負できるようなものが必要。
工芸家も食べていけて、自分のショップも成立していけるようなものを
発信していかなきゃいけないと思っているんです」
カネイリオリジナルのプロダクトも、
そんな金入さんの熱い思いを体現するもののひとつ。
職人さんたちが考えていることを引き出しながら、
いまのスタイルに合わせた商品を一緒につくっていく。
ちなみに、青森の裂織作家の井上澄子さんとつくった、裂織の文房具は、
2013年グッドデザイン賞を受賞したという。
ミュージアムショップを立ち上げたことから始まった、東北の職人たちとの出会い。
いつのまにか、東北について考える日々が多くなった金入さんは、
少しずつ、少しずつ東北の良さを探し始めた ところ。
そんな彼を突き動かしているものは何なのか聞いてみると、
「僕がただ、楽しく八戸で生きていきたいだけなんです」と金入さんは笑う。
「東京のスピード感や物欲を持って、八戸では生きていけないですね。
だからと言って、ネガティブなことばかりでもないと思うんです。
ここには、取り替えがきかない文化があって、家族がいる。
だから、そんな人たちが、もうちょっと楽しくなれて、
自分のまちを誇りに思えるようなものを発信できないかなと思って。
身近な人が楽しめていないのに、活性化とかってなんか違うと思うんですよね。
世界の人に“東北ってかっこいいね”って
思ってもらえるようになれたら、とてもうれしいです」
information
TAKEO KANEIRI
金入健雄
1980年青森県生まれ。株式会社金入代表取締役社長、東北スタンダード株式会社代表。伊東屋を経て現職。せんだいメディアテーク、八戸ポータルミュージアムにてカネイリミュージアムショップ運営。アートデザイン・グッズと東北の工芸品のセレクトを通し東北の素敵な暮らしを発信している。
http://tohoku-standard.jp/
information
別冊コロカルでは、金入さんが手がけるミュージアムショップショップを紹介しています!
→フフルルマガジン「別冊コロカル」
Feature 特集記事&おすすめ記事
Tags この記事のタグ