岐阜県大垣市にある情報科学芸術大学院大学(IAMAS)。
情報科学技術と地域文化を結びつけ、
産業界と連携するさまざまなプロジェクトを行っている。
前回はIAMASが行っている地域の連携や共創について取材した。
今回はIAMASの新しいイノベーションの創出について、
小林 茂教授にお話をうかがった。
IAMASでは県内外の企業・団体とさまざまな連携を行っている。
高度な技術を共同で研究開発する一方、
社会の期待となるようアイデアを創造している。
小林さんはそのコーディネートや商品開発などを行ってきた。
具体的にはどんなプロセスで進んでいくのか。

ものづくり拠点としてのイノベーション工房。3Dプリンターやレーザーカッターなどの工作機器を完備している。
「岐阜県内には製造業を中心に多様な地場産業があり、
同時に情報産業にも力を入れている。
それらをかけ合わせることで
イノベーションを起こしたいと考えた行政からの発案として、
FAB 施設のようなものをつくることで、地場産業と情報産業を混ぜ合わせ、
イノベーションを起こす拠点にできないか、という提案があったんです。
それを受けて2012年にデジタル工作機械を備えた市民工房〈f.Labo〉を
立ちあげたとき、見学者だけで1000人以上がやってきました。
ワークショップを通じて多くの市民が利用し、
ある企業がデジタル工作機械を使って素早く試作品をつくり、
それを元に特許をとったような事例はいままでもありましたが、
単に工房を開いているだけで異業種が混ぜ合わされることはありませんでした」
どうしたら混ぜ合わせられるのか。ただ施設だけつくってもだめ。そのためには
「いままで一緒にやるようなことがなかった人たちが
コラボレーションすることが必要」だと小林さんは考えた。
そうしてできたのが〈コア・ブースター・プロジェクト〉だ。

コア・ブースター・プロジェクトのパイプライン。地場産業と情報産業に参加を呼びかけてチームをつくる。フィールドワーク、コンセプトづくりから、プロトタイプづくり、量産型のデザインまで策定し、最終的にはクラウドファンディングで商品化するところまでをIAMASが中心となるチームでファシリテートする。図版提供:IAMAS
「ビジネスの種は、いろんな人と人が出会うなかで生まれてくる。
でもそれを商品などのかたちにして、
世の中まで送り出そうと考えると時間も労力もかかる。
途中で失速して消えていくパターンも見てきました。
だったらちゃんと世の中に出すところまでをブーストしようと。
そのやり方がコア・ブースター・プロジェクトというものです」と小林さん。
思いついてから、1週間くらいで企業に声をかけ始めた。
「最初に、それまでにIAMASやf.Laboとつながりのあった
岐阜県内の地場産業の中でものづくり系の人々に参加を呼びかけました。
そして、スマートフォンのアプリやウェブサービス、
基幹システムの開発など情報産業の人です。
新しいことを始めるので集まってください、と」
2013年に最初の企業説明会を行った。
プロジェクトマネージャー、デザイナー、ソフトウエアやハードウエアの開発者など、
十数社、30人ほどの人たちが集まったという。
「参加の意思を示したところには、その人が
何ができて、どういう目的で参加したいのか、どのくらい予算を動かせるか、
権限はどのくらいかなど、ひとつひとつヒアリングに出かけました。
それぞれどこと組めるか、利害関係などを調整して、
それをもとに5つのチームをこちらでつくったんです」
小林さんたちは、それぞれのチームにインプットになるような
技術のハンズオンやフィールドワークを提供し、
各チームがコアとなるアイデアを見つけ、
アイデアを統合し、コンセプトをかたちにしていくところまでをサポートした。
そうして現在、第一弾として商品化まで進行しているのが、
傾けることでほのかに底面が光り、
お酒を飲む場面に彩りを添える酒枡〈光枡—HIKARIMASU〉だ。

IAMASが主催したコア・ブースター・プロジェクトから生まれた、傾けることでほのかに底面が光る酒枡〈光枡-HIKARIMASU-〉。地場産業と情報産業の出会いから生まれたIoTの製品。写真撮影:井戸義智