連載
posted:2015.8.28 from:東京都渋谷区 genre:ものづくり
〈 この連載・企画は… 〉
Web、コンテンツ、コミュニケーション、空間、イベントなどのデザインを手がける
クリエイティブ・エージェンシー〈株式会社ロフトワーク〉。
東京をベースに活動してきた彼らが、いま地域のものづくりプロジェクトにどんどん参画しているワケとは。
ロフトワークの事例から見えてくる、地域とビジネスのあり方をレポートします。
writer profile
Mayumi Ishikawa
石川真弓
いしかわ・まゆみ●ロフトワークの広報兼プランナー。
主にFabCafeの広報を担当、メディアリレーションの他ロフトワークのコミュニケション戦略プランニングと実施、コラボレーション企画などを行う。
またクライアントプロジェクトにおいてもコミュニティデザイン、オウンドメディアからイベント企画、プロモーションなどの企画立案と実施も担当するハイブリッド型PR。
company profile
Loftwork
ロフトワーク
ロフトワークは、Web、コンテンツ、コミュニケーション、空間、イベントなどの「デザイン」を手がけるクリエイティブ・エージェンシーです。企業や官公庁、大学などのクライアントの課題をクリエイティブで解決するプロジェクトを年間約500件以上手がけています。
http://www.loftwork.jp/
2012年ロフトワークは、日本で初めてのデジタルものづくりカフェ〈FabCafe〉を
渋谷にオープンしました。
2015年夏現在、FabCafeは、気がつけば台湾からスペイン、タイと、
海外4か国・5店舗に展開する、
各都市でたくさんのクリエイターが訪れる人気のスポットとなり、
現在はフランスやシンガポール、アメリカなどで、
FabCafeを新たに立ち上げる話が現在進行中です。
最初に渋谷に立ち上げたFabCafeは、
今年の夏、店舗面積を2倍に拡大リニューアルしたばかり。
今ではレーザーカッターだけではなく、3Dプリンターなどの
新しいデジタルファブリケーションマシンが増え、カフェやフードメニューも増え、
メンバーも増え、イベントやワークショップも週に何件も行われるようになって、
多様な人が集まる「クリエイティブなプラットフォーム」としての役割を
果たせているようになってきたんじゃないかと思います。
FabCafeは、デジタルなものづくりカフェでもあり、
ローカルなクリエイティブコミュニティでもあり、
それらのコミュニティのグローバルなネットワークでもある。
もし、「レーザーカッターがある渋谷のちょっとおしゃれなカフェ」だけだったら、
ただの流行りのカフェで終わってしまっていたかもしれません。
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FabCafeが最も大切にしているのは、多様な人々が集まるための「場所づくり」。
もちろん続けていくための利益は必要だけれど、利益最優先ではありません。
カフェとして効率よくお客様の回転数を上げることよりも、
いかにクリエイター(=デザインをしたり、モノづくりをしたり、
アイデアをカタチにできる人)を惹きつけるためのマシンを導入し、イベントを企画し、
ワークショップも頻繁に開催することでFabCafeのコミュニティを育んでいくことを重視しています。
そうして、多種多様なクリエイターから成されるコミュニティをつくり、
そのコミュニティにリーチしたい企業に対してサービスを提供していくのが、
FabCafeのビジネスモデル。そのコミュニティがグローバルに広がることで、
さらに付加価値がつけられるようにもなってきました。
クリエイターが集まり、そして新しいものづくりのコラボレーションを手助けする
“装置”としてのFabCafeがあって、
そこから次世代のものづくりを変えていくイノベーションが起こるはず!
と我々は本気で思っていたりします。
基本的に、FabCafeのビジネスは
「ドリンク&フード」「デジタル工作機械サービス」
「イベント&ワークショップ」「FABアイテム販売」の
4つのサービス領域の組み合わせから成り立ちます。
各グローバル拠点によってサービス領域の比重が異なります。
例えば台北はバリスタチャンピオンによるスペシャルティコーヒーが人気でカフェが強い。
一方で東京の売上比率は、ドリンクやフードは約30%、デジタル工作機械は約15%、
イベント・ワークショップで約55%となっています。
ちなみにFabCafeは、フランチャイズ的に計画・投資をして
世界に店舗展開しているわけではありません。
FabCafeのウェブサイトには「Open a FabCafe in your city and join us!
(あなたのまちにFabCafeをつくろう、ジョインアス!)」 といった
びっくりするくらい気軽なノリの問い合わせフォームがありますが、
本当に「ハロー、僕のまちでFabCafeをつくりたいんだけど!」 というメールが
月に数件届いたりします。
そのほとんどは実際に実現に至るまで難しかったりするけれど、
こうしてFabCafeのコンセプトに共感した世界中の仲間が、有機的に増えていきました。
(もちろん、誰でもFabCafeがオープンできるわけではなく、
いくつかの条件や話し合いが行われますが)
FabCafeのネットワークは、お金よりも、その人のパッションとバックグラウンド、
そしてその人が持つコミュニティを重視しています。
FabCafeは、ものづくりの未来を考えたい世界中のクリエイターをつないでいくことをゴールに
活動をスタートした新しいプラットフォーム。
カフェという飲食店でありながら、フランチャイズではなくNPOでもない、
自己資本で存続できる自立型ビジネスモデルを追求しています。
「Fab」という言葉には、大量生産やマーケットの論理に制約されない
「FABrication(ものづくり)」と「FABulous(愉快な、素晴らしい)」の
ふたつの意味が込められています。
FabCafeは、その“Fab”スピリットをおいしく、楽しく、わかりやすく伝え、
そして広める場所。クリエイターとその土地のコミュニティのハブとなって、
イノベーティブなアイデアを共有して体験する場所として誕生しました。
デジタルファブリケーションとメイカームーブメントの勃興によって、
ウェブで気軽に情報発信するような感覚で、誰もがモノづくりに関われるようになったいま、
カフェという形態にしたのは、誰でも気軽に来られるオープンな空間で、
誰もが“クリエイティブ”になれる場所にしたかったから。
おじいさんが、朝のTVで3Dプリンターを見たからと言ってFabCafeにやってきて、
楽しそうにプリンターを眺める。何かつくりたいけど何をしていいかわからない主婦の方が、
スタッフのアドバイスを受けながら家の表札をつくって家族に喜んでもらって、
そしてものづくりの楽しさを知ってもらう。
そして専門ジャンルを持ったクリエイターが集まって、
最先端でとびきりクールな作品をともにつくる。
このように、FabCafeには、毎日さまざまな人が訪れます。
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FabCafeを運営しているロフトワークは、「クリエイティブの流通」をミッションに創業、
クリエイター向けポータルサイトを15年運営し、
さまざまなクリエイティブの仕事を請け負う「クリエイティブのプロ」ではあったけど、
飲食店は初めて。
アルバイトを採用してシフトを組むとか、店舗オペレーションをどうすればいいのか、
すべてが手探りの状態からスタートしました。
オープン当初、バリスタが不在のときはコーヒーが頼めなかったし、
Fabマシンを扱えるメンバーがいないときは
「マシンメンテナンス中」という看板を下げていたし、
立地条件も良くないので、最初はガラガラ、外でビラ配りなんかもしていました。
オープンからしばらくは赤字。とにかく店を続けることがチャレンジの連続。
でも、サービスを改善し、オペレーションも改善し、ワークショップをたくさん企画し実施し、
メディアからの取材を積極的に受けて、企業とのコラボレーションを企画し、
ソーシャルメディアやブログを通じて積極的に情報発信も行うことで、
徐々にきちんとビジネスとして成立するようになっていきました。
そうしていまでは、40席(リニューアルして2倍になったばかり)の店舗で、
月商1000万円を超える月も出るようになり、FabCafeは2015年現在、海外に5店舗に拡大し、
世界の来店者数は延べ17万人、1万以上の作品が生まれ、
400件以上のイベントも開催されるようになりました。
このようなグローバルコミュニティとしてのFabCafeの活動が評価され、
2014年のグッドデザイン賞も「都市づくり、地域づくり、コミュニティづくり」の分野で
受賞することができました。
FabCafeは、こだわりのコーヒーが飲めるカフェ、スイーツやフードもおしゃれなカフェ、
電源やWiFiが無料のカフェ、3Dプリンターがあるカフェ、ものづくりができるカフェ、
外人がたくさんいるカフェ、しょっちゅう何かのイベントや
ワークショップが行われているカフェ、
と同時に、世界中のクリエイターをつないでいく新しいプラットフォーム、
そしてグローバルなクリエイティブコミュニティでもある……なんて、
わかりやすいものから高尚なものまで、
いろんなコンテキストがあって、広報する立場としても、
なかなかひと言で説明することが難しいのです。
この3000文字超の原稿でも言い足りないことがたくさんあるし、
だから、人によってFabCafeの印象は異なったとしても、構わないし仕方がない(笑)。
とにかく、FabCafeを知って訪れて、
気に入ってくれた人が世界中にどんどん増えていけばいいな、と思います。
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