クラフトサケ醸造所〈稲とアガベ〉
岡住修兵さんがつくる、
日本酒の未来、まちの未来

男鹿を「クラフトサケ」の聖地に

2021年、秋田県男鹿市に誕生したクラフトサケ醸造所〈稲とアガベ〉。
代表の岡住修兵さんは、
男鹿を日本酒(清酒)製造免許の新規取得ができる「日本酒特区」にしようと奔走し、
「クラフトサケ」というジャンルを確立したことで注目を集めている。

酒税法において「米、米麹、水を原料に発酵させ、こしたもの」と
定義されている「日本酒(清酒)」。
その製造免許は、輸出限定には解禁されたものの、新規に取得することができない。

〈稲とアガベ〉が日本市場向けにつくるのは、日本酒の製造技術をベースにした、
こさないどぶろくや、フルーツやハーブなど副原料を加えた「その他の醸造酒」だ。

出荷準備中のどぶろく。購入できる全国の酒販店は〈稲とアガベ〉のホームページでチェックできる。

出荷準備中のどぶろく。購入できる全国の酒販店は〈稲とアガベ〉のホームページでチェックできる。

岡住さんは、これらを「クラフトサケ」と呼び、
発起人となって〈クラフトサケブリュワリー協会〉を設立。
フランスでの「SAKE」造りで注目を集める〈WAKAZE〉、
福島県の〈haccoba〉など、
近年「その他の醸造酒製造免許」を活用して各地に誕生した醸造所が
一堂に会するイベント『猩猩宴(しょうじょうえん)』を男鹿と東京・下北沢で開催した。

「クラフトサケの認知が高まることで、参入する人が増えて
サケ業界が活性化してほしいという思いもあるし、
日本酒製造の新規参入解禁にもつなげたい。
若い醸造家が活躍できる未来をつくりたいと思っています。
初めて『猩猩宴』を開催した男鹿が聖地になって、
全国から人が集まるようになってくれたらうれしい」と岡住さんは話す。

醸造所は旧男鹿駅舎を改装した建物内にある。新駅は、道の駅おが〈なまはげの里オガーレ〉の整備にともない約100メートル南に新設された。

醸造所は旧男鹿駅舎を改装した建物内にある。新駅は、道の駅おが〈なまはげの里オガーレ〉の整備にともない約100メートル南に新設された。

「きっぷうりば」の表示が残る自動ドア。駅の名残がある醸造所の奥には改札があり、隣接する線路を電車が走り抜けていく。

「きっぷうりば」の表示が残る自動ドア。駅の名残がある醸造所の奥には改札があり、隣接する線路を電車が走り抜けていく。

2022年末には「TAMESHIOKE(試し桶)」シリーズとして
山梨県勝沼産のブドウ「甲州」を発酵させた「稲とブドウ」(2950円)を発表。
今後も5種類の新製品を予定している。

「副原料は、僕が人生において日本各地・世界中で出会った人たちとの縁」
と考える岡住さん。
米は秋田県産に限るが、副原料にはその制限を設けない。

「クラフトサケでは、米農家とつくり手の物語に加えて、
副原料の物語も伝えることができるおもしろさがあります。
副原料は、男鹿を知ってもらい、
男鹿に来てもらうきっかけになってくれる力があると思うのです」

熊本〈Bar STATES〉
雑居ビルで見つけた蓄音機を鳴らす、
オーセンティックなバー

音楽好きコロンボとカルロスが
リスニングバーを探す巡礼の旅、次なるディストネーションは
熊本県熊本市。

鉄針の心地よいノイズでタイムスリップ

コロンボ(以下コロ): 熊本でSPレコードを蓄音機で鳴らす、
オーセンティックなバーを見つけたよ。

カルロス(以下カル): 蓄音機って〈ビクター〉のマークのニッパーくんが
耳を傾けているあれでしょ。エジソンの大発明! どのくらい前のものなの?

コロ: 店主の宮本眞さんが言うには、
ビクター製のものは110年前くらいでタイタニック沈没前。
聴かせてもらった〈コロンビア〉製のモデルNo.16は、
ちょっと新しくて100年前だって。

カル: そりゃ、ヴィンテージだね。コロンビア・モデルが新しいっていっても、
そんなに変わらない気がする。タイタニック以前と以後の差も実感ないよ。

コロ: タグに刻印されたシリアルナンバーは3416だったけど、
どのくらいのものかは皆目見当がつかない。
どちらの蓄音機もお客さまからの寄贈で、まだまだバリバリに現役なんだ。

カル: 蓄音機はゼンマイ仕掛けだから電気もいらないんでしょう。

コロ: レバーをギリギリと回して、かけるだけ。
まあ、エコですね。カーボンニュートラルに貢献中。

カル: 実際、聴いてみてどうだった? 
針音のノイズが入り混じった、映画やドラマで聴くような、ノスタルジックなあの感じ?

コロ: 聴かせてもらったのが、ダミアの「暗い日曜日」。
なんだかやさしく空気を削っているようだったな。

カル: おっ、シャンソンだね。蓄音機らしいいい選曲。
針からもれる音がたまらないでしょう。

コロ: あの針のノイズがあってこそだよ。蓄音機は。

カル: そりゃ、お酒にも合いそうだ。

手入れが行き届いたカウンター。内装はオーセンティックなバーを具現化するように格調高く。

手入れが行き届いたカウンター。内装はオーセンティックなバーを具現化するように格調高く。

コロ: バー自体がクラシックでストロング・スタイル、
蓄音機が奏でる古き良き響きが加わるもんだから、かの時代にタイムスリップしたよう。

カル: お店は1984年オープンだから、そろそろ40年なんでしょう。

コロ: そうなんだ。正統派のバーだけに
カクテルのオーダーが70パーセントくらいなんだって。

カル: 正統派のバーは背筋が伸びるよね。
おまけによくわからないくせに背伸びしちゃって、
いつもは飲まないマティーニとかシングルモルトに手を出しがちだな。

コロ: 宮本さん曰く、
いいバーは主役であるお客さまを引き立てる脇役陣がしっかりしているものなんだって。
だから、恐るるに足らずだよ。


音楽家・haruka nakamuraの旅コラム
「仏の山から生まれる
源泉かけ流しの旅」

さまざまなクリエイターによる旅のリレーコラム連載。
第31回は、全国を巡ってピアノを弾く理由を
「温泉が好きだから」という音楽家のharuka nakamuraさん。
年間のほとんどを温泉の巡礼にしている彼が出会った
感動的な温泉とは?

湯が豊かな土地を探し、合間にピアノを弾く

僕は音楽をしている。
「旅をする音楽」的にピアノを弾いて全国を巡ってきた。
それというのも温泉が好きなのである。
一年のほとんどは温泉を巡礼して湯が豊かな土地を探し、
その合間に音楽をする。
とでもいうような日々を送っていた。

あるとき、こんな声を聞いた。

「クレーターから湧き出た、
とんでもない源泉かけ流し温泉が四国にあるらしい」

温泉が生活の中心となっている僕は
「源泉かけ流し」というワードを耳にしただけで
ソワソワして落ち着かなくなる。
旅先に「源泉」があると聞けば、ワクワクが止まらず、寄らずにはいられない。
Googleマップにはマークした旗たちが星の数ほど鎮座している。
目がクラクラする。

仏生山温泉の内部

萩市の魅力って?
山口県の移住者に会えるイベントで
地域の暮らしと仕事のイリグチを探る

「萩の入口」となる拠点を知ることから始める

移住への第一歩として、まずは地元の人たちに話を聞くのが近道だと考える。
でも実際には、都心で地方在住者や移住者に
どうやって出会えばいいかわからないという人もいるだろう。

先日、山口県萩市での移住に関するイベントが都内で開催された。
2022年10月2日(日)、場所は東京・有楽町の〈東京交通会館〉。
今年度4回目の開催となる〈YY! ターンカレッジ〉は、
山口県と密接につながりながら
新しい働き方・暮らし方・生き方を見つけた先輩たちなどと語り合えるイベントだ。

今回は「山口とつながる」part.1として、
「地域へのイリグチからシゴトまで」をテーマに開催、約40名の参加者が集まった。

“YY! ターン”とは、「やまぐち」のYと「わいわい楽しい暮らし」のYを組み合わせた山口県へUJIターンを意味するキャッチフレーズ。

“YY! ターン”とは、「やまぐち」のYと「わいわい楽しい暮らし」のYを組み合わせた山口県へUJIターンを意味するキャッチフレーズ。

ゲストは〈株式会社b.note〉の代表取締役である新井達夫さん、
〈萩市商工観光部 企業誘致推進課〉課長の大平憲二さん、
〈萩市総合政策部おいでませ、豊かな暮らし応援課〉課長補佐の
釼物(けんもつ)佳代子さん。

「地域の入口」となる拠点をつくる3名が、萩市内でどんな事業や取り組みを行っているか、
地域とのつながりや地域性を交えながら“萩の魅力”を探っていった。

左から釼物さん、大平さん、新井さん。

左から釼物さん、大平さん、新井さん。

トリンドル玲奈が巡る
奈良の3つの物語。

奈良県観光ガイドブック
『知れば知るほど奈良はおもしろい』はこちら

3つの「物語」を探しに、魅力たっぷりの奈良へ

悠久の歴史を物語る土地、奈良。
かつて都があったときから約1300年経った今も史跡などが守られ、
豊かな自然の中に見ることができる。
まち全体にゆったりとした空気が流れ、タイムスリップしたよう。
外国との交流も盛んであった奈良は、日本の食文化の発祥の地ともいわれている。

今回、奈良の奥ゆかしい魅力に触れる旅へ、モデルのトリンドル玲奈さんが出かけた。
旅のテーマは、“はじまり” “癒し” “お酒と神社”という3つの「物語」。
トリンドルさんにとって、今回の旅は初めて出会うものばかりだった。

トリンドルさんが訪れた旅先とともに、3つの物語からおすすめスポットを紹介する。

【はじまりの物語】日本の“はじまり”をカラダ全体で感じる

1300年以上前、奈良には日本初の本格的な都があった。
歴史、文化、食などさまざまなカテゴリーで
その“はじまり”と、長年の“積み重ね”を実感することができる。

トリンドルさんが向かったのは、そんな「はじまりの物語」が感じられる場所。
穏やかな奈良の風に吹かれながら、彼女はやさしく語ってくれた。

「藤原宮跡や甘樫丘など、
歴史あるところで地元の子どもたちが遊んでいるのが印象的で、
日本史に詳しくない私でも親近感が湧いてきました。
道中の田んぼや林などゆったりとした景色には癒されましたし、
地域の人とも程よい距離で。
こういう旅がしたかった! とつくづく思います」

〈甘樫丘〉 清々しい空気のなかでいにしえの都を見渡す

〈甘樫丘〉 清々しい空気のなかで、いにしえの都を見渡す。

奈良県中部にある明日香村は、古墳や宮跡が残されるエリアで、
国づくりのはじまりの場所。
辺りは盆地になっていて、高層ビルはない。
標高148メートルという緩やかな丘・甘樫丘に登っても、
あたりをよく見渡すことができる。
多くの神話が伝承されている大和三山や藤原宮跡など、
在りし日の姿に想いを馳せながら、気持ちのいい空気を吸い込みたい。

information

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甘樫丘(あまかしのおか)

住所:奈良県高市郡明日香村大字豊浦

TEL:0744-54-2441 (飛鳥管理センター)

※観覧自由

〈藤原宮跡〉藤原京が身近に感じられる緑に囲まれた史跡

〈藤原宮跡〉藤原京が身近に感じられる緑に囲まれた史跡

日本初の本格的な都・藤原京の中心地だった藤原宮の跡地。
朱塗りの柱は、当時の建物の柱をイメージし再現されたもの。
現在の皇居や国会議事堂、官庁街にあたる。
広々とした空間では、大和三山がきれいに見え、
蓮やコスモスなど季節の花畑も楽しめる。
近隣の子どもたちや犬を連れたファミリーなども散歩に訪れ、
地元の人たちに愛されている。

information

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藤原宮跡(ふじわらきゅうせき)

住所:奈良県橿原市高殿町

TEL:0744-21-1114(橿原市世界遺産登録推進課)

※観覧自由

〈柿の葉茶専門店SOUSUKE by ほうせき箱〉サラサラ、ふわふわとした氷に、 芳醇でビタミンC豊富な柿の葉茶が出会う

定番の「SOUSUKE」。1350円

定番の「SOUSUKE」。1350円

氷室(ひむろ)の守り神を祀る氷室神社がある奈良は、今かき氷のまちとしても人気。
ここは、そのブームを牽引する〈ほうせき箱〉がプロデュースした店だ。
農薬や肥料を一切使わずに柿の葉を育てる〈SOUSUKE〉の
柿の葉茶シロップやゼリーと共に生フルーツをふんだんに使った一杯は、後味すっきり。

information

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柿の葉茶専門店SOUSUKE by ほうせき箱(かきのはちゃせんもんてん そうすけ バイ ほうせきばこ)

住所:奈良県奈良市登大路町76 奈良公園バスターミナル西棟 1F

営業時間:10:00~18:00(飲食は12:00~17:00)

定休日:無休(飲食は月曜)

〈石上神宮〉緑豊かな森が見守る社で健やかな未来を祈る

〈石上神宮〉緑豊かな森が見守る社で健やかな未来を祈る

日本最古の神社のひとつ。
拝殿後方にある禁足地の土中に
御神体である神剣「韴霊(ふつのみたま)」が祀られているとの伝承から、
永く本殿は存在しなかった。
明治期、実際に出土したことから、大正2年に本殿を建立。
韴霊は起死回生や病気平癒、健康長寿の信仰を広く集めている。
鶏は神様の使いとされ、境内のあちこちで出会える。

information

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石上神宮(いそのかみじんぐう)

住所:奈良県天理市布留町384

TEL:0743-62-0900

拝観時間:6:00~17:30(季節によって変動)(授与所9:00~17:00、冬季~16:30)

めがねに伝統工芸、郷土食。
冬の北陸を五感で味わう
福井・丹南地域をめぐる旅

まちをめぐりながら、知らなかった福井に会いに行く

福井の冬の味覚といえば「越前がに」など、
寒くなるにつれ、食べものがどんどんおいしくなるのが魅力だ。
これからの時季は、雪景色とともにアクティビティを楽しむのもいいし、
温泉でのんびり過ごすのもいい。見どころはほかにもたくさん。
せっかくなら、滞在しながらいろいろと足を伸ばしてみたい。

今回紹介するのは、2024年春の北陸新幹線延伸(金沢〜敦賀間)でも注目の、
福井県の丹南地域。
延伸にともない新しく開業される「越前たけふ」駅を中心に、
国産めがねの一大産地である鯖江市、
和紙や打刃物で有名な越前市、越前焼で知られる越前町、
林業や農業が盛んな池田町、
自然環境と歴史資源に恵まれた南越前町の5市町で構成され、
国内でも有数のものづくりのまちである。

福井県の中心部に位置する丹南地域

その土地に暮らす人や、そこにしかない風景に出会いながら、
産地の歴史や職人の手仕事にふれ、土地の食べものをいただく。
知らなかった福井に会いに、それぞれのまちをめぐる旅へ。

木に親しむことで、森が見えてくる
〈WOOD LABO IKEDA〉(池田町)

〈WOOD LABO IKEDA〉のコンセプトは、「木をいかす 森にまなぶ 人がつどう」。建物の裏には川が流れ、スギの木などの木々がそびえ立っている。

〈WOOD LABO IKEDA〉のコンセプトは、「木をいかす 森にまなぶ 人がつどう」。建物の裏には川が流れ、スギの木などの木々がそびえ立っている。

はじめに向かったのは〈WOOD LABO IKEDA〉。
池田町の〈木望の森づくり課〉が運営するこの施設は、
まちの面積の約9割を占めるという森林資源を生かし、
木材の利用や木育活動を行うための拠点として2年前にリニューアルしたばかり。

手道具を使った初心者向けの簡単な木工体験だけでなく、
機械を使って家具や木製品を製作する本格的な木工教室もあるので、
目的にあわせて利用することができる。
地元産の木材を使ったカッティングボードやキーホルダーをつくる
ワークショップなどもあり、
今回は隣の越前市にある〈龍泉刃物〉とのコラボレーション企画で、
包丁の柄の部分をつくる体験をさせてもらうことに。

包丁の柄の部分には、ナラやケヤキ、サクラなど池田町の木材を使用。今回は「差し込み式」のオリジナル包丁をつくる。

包丁の柄の部分には、ナラやケヤキ、サクラなど池田町の木材を使用。今回は「差し込み式」のオリジナル包丁をつくる。

施設を案内してくれたのは、工房長の内藤了一さん。
木彫家の父と仏師の祖父を見ながら育ったこともあり、
幼い頃から木という素材は身近だったという。

「木はそれぞれに癖や表情があって、重さも全部違います。
体験教室では、それをどうやって生かしたらうまくいくのかを、
実際に木を扱いながら感じたり考えてもらったりっていうのを大事にしています。
自分の手でものをつくることは、大変だけどおもしろい。
手が動けば自然といろんなことができるようになってきますから」

工房長の内藤了一さん。1年間の木工教室、マイスタースクールでは講師も務める。〈WOOD LABO IKEDA〉は木を生かすものづくりを学ぶ場であるとともに、森林を身近に感じられる場を目指している。

工房長の内藤了一さん。1年間の木工教室、マイスタースクールでは講師も務める。〈WOOD LABO IKEDA〉は木を生かすものづくりを学ぶ場であるとともに、森林を身近に感じられる場を目指している。

information

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WOOD LABO IKEDA 

住所:福井県今立郡池田町池田9-6-1

TEL:0778-44-6270

Web:WOOD LABO IKEDA

※木工体験は要予約。事前にお問い合わせください。

まちを編む、ひらかれた宿。
長野・浅間温泉〈松本十帖〉が目指す
エリアリノベーションプロジェクト

旅館だけではなく、温泉街全体の再生が目的

長野県松本市・浅間温泉にある〈松本十帖〉は、〈自遊人〉が手がける複合体であり、
創業336年の老舗旅館〈小柳〉の再生プロジェクトの総称でもある。
「松本の奥座敷」と呼ばれ、開湯1300年以上の歴史をもつ浅間温泉。
江戸時代には松本藩の城主が通ったことから湯治場として発展し、
今もなお地域住民の共同浴場が多く残っている。
明治以降は多くの文人に愛され、昭和に入ると多くの団体旅行客たちで賑わった。

しかしながら近年、時代の変化とともに経営難に直面する旅館が増加し、
温泉街は寂れていく一方。
こういったケースは全国各地に見られ、浅間温泉に限ったことではない。

温泉街を人が回遊することをイメージしているため、敷地内には4か所の入り口が設けられている。シームレスな設計は、各施設への移動もスムーズ。

温泉街を人が回遊することをイメージしているため、敷地内には4か所の入り口が設けられている。シームレスな設計は、各施設への移動もスムーズ。

自遊人が小柳の再生を引き受けたのは2018年のこと。
後継者不在による廃業の危機にあった旅館単体の
リノベーション事業としてスタートしたものの、
プロジェクトを進めていくうちに、
温泉街の高齢化や空き家の増加などの問題が浮かび上がり、
まち全体のエリアリノベーションプロジェクトが模索されていった。

特筆すべきは、公的資金の投入なしに民間企業が担っているという点だろう。
同じような問題を抱える温泉街再生のモデルケースとしても、今後注目されていくはずだ。

「小柳という旅館をひとつ再生するだけではなく、
浅間温泉そのものが活性化していかなければ、
地方都市の温泉街にとって持続可能とはいえないのではないか?」。

その問いに対するアクションのかたちは、松本十帖のいたるところに散りばめられ、
浅間温泉というまち全体の動きとしても、ポジティブな変化が生まれようとしている。

「豊かな知と出会う」をコンセプトにしたブックホテル〈松本本箱〉。隣にはバリアフリーかつお子さま連れも利用しやすい〈小柳〉がある。いずれも客室には源泉かけ流し露天風呂付き。

「豊かな知と出会う」をコンセプトにしたブックホテル〈松本本箱〉。隣にはバリアフリーかつお子さま連れも利用しやすい〈小柳〉がある。いずれも客室には源泉かけ流し露天風呂付き。

自然というミュージアムを
巡るための出発点、
〈川湯ビジターセンター〉

アカエゾマツの森に隣接する〈川湯ビジターセンター〉

最近の私の仕事は、朝の収穫から始まる。
庭にあるアカエゾマツの枝葉を数本伐って、袋に入れて、いざ出勤。
車の中には森の香りが漂って、極寒の朝もとてもいい気分だ。

引っ越したときは気づいていなかったけど……庭にアカエゾマツの木があった。ラッキー!

引っ越したときは気づいていなかったけど……庭にアカエゾマツの木があった。ラッキー!

北海道の右側、「ひがし北海道」と呼ばれるエリアには、国立公園が3つある。
知床国立公園、釧路湿原国立公園、阿寒摩周国立公園。
そしてこれらの中には、
各地の自然情報を展示・解説するビジターセンターが10か所もある。

私が勤務しているのは、そのうちのひとつ〈川湯ビジターセンター〉。
阿寒摩周国立公園の半分、摩周・屈斜路エリアを紹介する施設である。

弟子屈町川湯温泉にある〈川湯ビジターセンター(旧・川湯エコミュージアムセンター)〉。

弟子屈町川湯温泉にある〈川湯ビジターセンター(旧・川湯エコミュージアムセンター)〉。

アカエゾマツの天然林に抱かれるようにして建っている、
面積500平方メートルを超える大きな館。

いまから10年以上前、まだ東京に住んでいた頃、
北海道旅行の途中で偶然立ち寄った記憶がある。

森の中にポツンとあるロケーションに惹かれて
「こんな場所で働いてみたいなぁ」とぼんやり感じたことを覚えている。
気がつけば実現していたなんて、なんだか不思議だ。

自社の森の木材でリノベーションする
盛岡の〈三田農林〉と、
築115年の古民家を住み継ぐ〈リタ〉

(写真提供:金野大介)

盛岡のまちづくりに大きな貢献をしてきた〈三田農林〉は、
2010年頃から自社の森で育てた木材などを利用して、
明治・大正・昭和期の古民家のリノベーションに取り組んでいる。
その一部は、商業店舗として活用され、まちににぎわいをもたらす事業となっている。
まずは、そのひとつとして、100年を超える古民家を見事に生かした〈リタ〉の話。

土と植物と暮らしたい

盛岡駅から、北上川に架かる〈開運橋〉を渡り、
盛岡城跡へと続く市街地の入口に〈リタ〉がオープンしたのは2021年10月。
築115年の古民家を生かした美しい空間には、
「温める」に重きを置き出合ったものや、つくり手の顔が見える商品が並ぶ。

店に立つのは、長年アパレルの世界で働いて来た金野大介さんと下山久美さん。
「土に近い場所で、植物とともに暮らしたい」と住まいを探すなかでこの建物と出合い、
〈リタ〉の物語は動き出した。

日本間を土間に改修したショップスペース。設計・施工は雫石町の〈森の音〉。(写真提供:金野大介)

日本間を土間に改修したショップスペース。設計・施工は雫石町の〈森の音〉。(写真提供:金野大介)

久美さんが資格をもつ古式マッサージの施術やイベントなどを行う日本間。襖や縁側はそのまま残されている。

久美さんが資格をもつ古式マッサージの施術やイベントなどを行う日本間。襖や縁側はそのまま残されている。

「20年くらい前に、息子と一緒に畑の真ん中にある貸し家に住んでいたことがあって、
野菜を育てたり、植物に囲まれた畑にテーブルを出してごはんを食べたりしていたんです。
その思い出がすごく豊かで、その空間をまちなかに持って来たいとずっと思っていました」
と話す久美さん。

より自然の多い山の近くでの暮らしも模索したが、
久美さんは市内のセレクトショップ〈kasi-friendly〉のオーナーでもあり、
同店を続けながら「自分たちにできること」を考えるうちにこの場所にたどり着いた。

白洲次郎と白洲正子が暮らした〈武相荘〉をイメージした庭。花巻市の〈イーサゴ ナーセリー & ガーデン〉に監修を依頼し、いちから整備した。縁側にあった踏み石を切り、敷き詰めるなど、この場所にあったものが生かされている。

白洲次郎と白洲正子が暮らした〈武相荘〉をイメージした庭。花巻市の〈イーサゴ ナーセリー & ガーデン〉に監修を依頼し、いちから整備した。縁側にあった踏み石を切り、敷き詰めるなど、この場所にあったものが生かされている。

「畑をやりたいけれども、
周りを見渡せばすでに美しい仕事やしっかりとした生業をもっている方たちがいる。
自分たちにできることは、生産者のプロフェッショナルになるのではなく、
その術や取り組んでいることを伝えることだと考えたんです」と大介さんも話す。

人が行き交うまちなかでありながら、
小さな畑と、庭を愛でることができるこの空間は、ふたりにとっての理想だった。

縁側に美しい光が差し込む。屋内にいても四季の移ろいを感じることができる場所だ。

縁側に美しい光が差し込む。屋内にいても四季の移ろいを感じることができる場所だ。

熊本〈Jazz Inn おくら〉
やれたヴィンテージ感がたまらない
いかにも昭和なJAZZ喫茶

音楽好きコロンボとカルロスが
リスニングバーを探す巡礼の旅、次なるディストネーションは
熊本県熊本市。

最古参でもあり最若手、43年続く熊本の老舗

コロンボ(以下コロ): いよいよ九州上陸。
ジャズ喫茶の見本のようなイカしたお店が熊本にありました。

カルロス(以下カル): 熊本はジャズ関連のお店が多いよね。
ライブなんかもにぎやか。

コロ: ここ〈Jazz Inn おくら〉も月に10本くらいのライブをやっているんだ。
ミュージシャンも九州ツアーを福岡の〈ニューコンボ〉あたりから始まって、
久留米→熊本→鹿児島と縦のラインでまわるんで、その影響もあるみたいよ。

カル: 熊本にはわりかし、いまでも残っているジャズのお店が多いんでしょう?

コロ: 〈Jazz Inn おくら〉はこの12月で43年だって。
それでも店主の小倉さんは「ボクはこの業界では若いほうにあたるから」と(笑)。
オープン当時は熊本のアーケード、「上通」の果てと言われたそうだよ。

カル: もはや最古参であり、最若手って存在ってことだね。

43年の歴史をひしひしと感じさせるヴィンテージ感たっぷりの店内。

43年の歴史をひしひしと感じさせるヴィンテージ感たっぷりの店内。

コロ: メインのアーケードの「上通」はディープな「下通」と違って、
若い人が多いんだ。

カル: 熊本大学も近いし、学生のまちって感じだったようだね。

対談・現代ニッポンの
新名物となるのは?
〈ザ・コンランショップ〉中原慎一郎、
〈中川政七商店〉高倉泰

さまざまな土地で昔から親しまれている名物はいろいろあるが、
これからの日本を代表する“新名物”は何だろう?
例えばインバウンドの観光客が
東京や京都以外のまちを訪れることが多く見られるようになり、
日本人も知らないようなその土地の名物を買う。
新名物といっても、新しく生み出されたものである必要はなく、
すでにあるものでも視点を変えれば新しい価値が見えてくるのではないか。
日本のローカルには、まだまだそんな名物がたくさんあるのではないか。

そこで〈ザ・コンランショップ〉代表の中原慎一郎さん、
〈中川政七商店〉大日本市ディレクターの高倉泰さんが
それぞれの視点で“日本の新しい名物”をピックアップ。
目利きのふたりが“新名物” にふさわしいアイテムの魅力や背景、
そしてこれからの名物に必要なことを語った。

現代のライフスタイルに添った伝統的なプロダクト

中原慎一郎さん(以下、中原): 僕はつくっている人や発信している人から始まらないと、
なかなか自分のなかで名物にならないので、今回もそういった視点で選びました。

高倉泰さん(以下、高倉): “人”ですか?

中原: はい。昔からあるものを掘り起こして魅力を伝えたり、
素材やつくり方を変えて新鮮に見せてくれる人っているじゃないですか。
僕はそういうのがおもしろいなと思っていて。
アーティストの和泉侃(いずみかん)さんが手がけるお香の〈√595〉もそうです。
和泉さんは現代の感性で伝統的なお香を再解釈し、新しい角度で魅力を伝えている方です。
豊かな植生が残る淡路島へ移住して、
原料の調達から調香、製品づくりを行っているんです。
沈香(じんこう)といった伝統的な香料だけでなく、
胡椒、麦などの成分も取り入れてつくっているのがおもしろい。
お香って昔からあるものだけど、
彼の感性を通じて、現代の暮らしにあった香りのあり方が広がっているなと感じます。

香りを通して身体感覚を蘇生させることをテーマに活動するアーティスト・和泉侃がディレクションを手がける√595。インセンスの香りの種類は Soothe、Humidity、Jinkohの3つ。stick incense 3520円、paper incense(ポストカードつき) 2200円

香りを通して身体感覚を蘇生させることをテーマに活動するアーティスト・和泉侃がディレクションを手がける√595。インセンスの香りの種類は Soothe、Humidity、Jinkohの3つ。stick incense 3520円、paper incense(ポストカードつき) 2200円

高倉: 東京から移住して淡路島で制作しているというのがすごいですね。
案外、外の人のほうがその土地の歴史や魅力に気づきやすいのかもしれません。
僕は今回のテーマを聞いて、
工芸の魅力を生かしながら現代的な用途や様式に生まれ変わり、
今のライフスタイルに受け入れられているものが
日本の新名物になるんじゃないかと思いました。
ひとつ目から自社製品で申し訳ないのですが(笑)、
〈中川政七商店〉の「花ふきん」を紹介します。
奈良は蚊帳の一大産地だったのですが、使う機会が減ってしまい、
その技術をどうにか残せないかというところから開発が始まったアイテムです。
風を通すほど織り目が粗い蚊帳の生地は吸水性や速乾性にすぐれ、
その特性を生かした結果、多くの人に親しまれるアイテムになりました。

蚊帳生地を2枚重ねで仕立てた布巾。タオルのような吸水性と速乾性にすぐれ、こまめに手洗いして衛生的に保てるのがうれしい。

蚊帳生地を2枚重ねで仕立てた布巾。タオルのような吸水性と速乾性にすぐれ、こまめに手洗いして衛生的に保てるのがうれしい。各770円

浜松〈ハァーミット・ドルフィン〉
超一流ジャズマンがこぞってやってくる
ライブとリスニングのハイブリッド

音楽好きコロンボとカルロスが
リスニングバーを探す巡礼の旅。
次なるディストネーションは静岡県浜松市。

サプライズではじまるロマンティックな夜もある

カルロス(以下カル): 「リスニングバーの店主は、
音楽に情熱を持っているロマンティスト」。
ピアニストの上原ひろみさんはリスニングバーの店主についてこう言っている。

コロンボ(以下コロ): それって、〈ハァーミット・ドルフィン〉の店主、
檀和男さんのことかな。たしかにミュージシャンと変わらないほどの音楽愛を感じる。
檀さんって、そんな人。

カル: 浜松出身の上原さんは、ちょくちょくこのお店に来るらしいじゃない。

コロ: それもプライベートでふらっとやって来るんだって。
急に来るから、檀さんが「事前に言ってちょうだい」と言うと、
「こういうのがジャズっぽくていいの」ってさらっと返すみたい。

カル: たしかにその方がジャズっぽい。

コロ: しっぽりレコードを聴くだけじゃなくて、
お店にあるピアノを弾き始めちゃったりもするもんだから、大サプライズ!

カル: シークレット・ギグ!? たまらない夜だね。
〈ハァーミット・ドルフィン〉は
ライブとリスニングバーのハイブリットなんでしょう?

お店のシンボルともいえる中古で手に入れた〈ヤマハ〉の小さいグランドピアノ。

お店のシンボルともいえる中古で手に入れた〈ヤマハ〉の小さいグランドピアノ。

コロ: コロナ前は年間100本くらいのライブをやっていたらしい。
前のお店を含めて今年で24年目で、
綾戸智恵さんなんかは、メジャーになる前から、
仲間と会場を借りてライブに招いていたそう。
今の店舗になってからは大西順子さん、川崎燎さん、
亡くなった村上ポンタさんはじめ、日本のメジャーどころがこぞって、やって来るんだ。

カル: ブッキングは直接やっているのかな?

コロ: アーティストのほうからお願いされるんだって。
檀さんいわく、分不相応なミュージシャンが来てくれるって(笑)。
ツアーのゲネプロがわりにこの店から始めるってパターンも多いみたいだよ。

カル: お店にある〈ヤマハ〉の小さなグランドピアノ、よく鳴るって評判らしいじゃん。

コロ: 中古で手に入れて、お店に導入の際、
ハンマーと弦をワンランク上のものに総入れ替えしたんだって。
おまけに錚々たるミュージシャンに弾いてもらったおかげで、
独特のグルーブを発するんだろうね。
響板に書かれたミュージシャンのサインを見るだけでも楽しいよ。
宝探しをしているみたいで。

一流のジャズマンのサインがそこかしこに。お気に入りのミュージシャンのサインを探すだけでも楽しい。

一流のジャズマンのサインがそこかしこに。お気に入りのミュージシャンのサインを探すだけでも楽しい。