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音楽家・haruka nakamuraの旅コラム
「仏の山から生まれる
源泉かけ流しの旅」

旅からひとつかみ
vol.031

posted:2023.1.13   from:香川県高松市  genre:旅行

〈 この連載・企画は… 〉  さまざまなクリエイターがローカルを旅したときの「ある断片」を綴ってもらうリレー連載。
自由に、縛られることなく旅をしているクリエイターが持っている旅の視点は、どんなものなのでしょうか?
独特の角度で見つめているかもしれないし、ちいさなものにギュッとフォーカスしているかもしれません。
そんなローカル旅のカタチもあるのです。

text&photo

haruka nakamura

さまざまなクリエイターによる旅のリレーコラム連載。
第31回は、全国を巡ってピアノを弾く理由を
「温泉が好きだから」という音楽家のharuka nakamuraさん。
年間のほとんどを温泉の巡礼にしている彼が出会った
感動的な温泉とは?

湯が豊かな土地を探し、合間にピアノを弾く

僕は音楽をしている。
「旅をする音楽」的にピアノを弾いて全国を巡ってきた。
それというのも温泉が好きなのである。
一年のほとんどは温泉を巡礼して湯が豊かな土地を探し、
その合間に音楽をする。
とでもいうような日々を送っていた。

あるとき、こんな声を聞いた。

「クレーターから湧き出た、
とんでもない源泉かけ流し温泉が四国にあるらしい」

温泉が生活の中心となっている僕は
「源泉かけ流し」というワードを耳にしただけで
ソワソワして落ち着かなくなる。
旅先に「源泉」があると聞けば、ワクワクが止まらず、寄らずにはいられない。
Googleマップにはマークした旗たちが星の数ほど鎮座している。
目がクラクラする。

仏生山温泉の内部

次のページ
宇宙からの贈り物という温泉とは?

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高松で、出合った三つ星温泉

”うどん県”として有名な香川県・高松市は
「高松クレーター」と呼ばれる巨大なクレーターの上に存在しているらしい。
大昔に隕石が落ちたとか、巨大な火山カルデラだとか。
そのクレーターのど真ん中に
「仏生山」がある。

ぶっしょうざん。不思議な名前。

全国各地を”源泉チル”してきた僕にとって、
もしも「温泉マスター・ブック」があるとすれば(ないけど)、
三つ星に燦然と輝くのが
〈仏生山温泉〉である。

外観はさながら美術館のような美しい建築。
まちの銭湯には見えない立派なものだが
入浴料金含めて真っ当に「まちの湯」として存在している。

僕は初めてここに来たとき、演奏会の目的地として訪れた。
しかし、いざ演奏を終えて湯に入り
驚嘆したのである。

【仏生山温泉における3つの特質】
①シュワシュワ高濃度炭酸泉
②しょっぱいナトリウム塩化物泉
③やや白濁でトロトロの質感

なんということだろう。
どれかひとつでもあれば温泉として立派な”ウリ”となる独創的な特質が
3つも合体している。

「鮮度」へのこだわりもまた涙ぐましい。
“いかにフレッシュな状態で源泉を届けるか”を何よりも大切にしており、
温度が異なるすべての浴槽に
わずか数秒で湯元から源泉がかけ流れるように考え抜かれている。

最も源泉温度に近い33度の浴槽はまるで母の胎内のような心地よさで、
温泉に浸かりながら天へ逝けそうになる。
番台であり建築家の岡昇平さんとは、お互い愛する温泉の話が尽きず、
風呂上がりのロビーでビールのつまみに仏生山温泉にまつわる逸話を伺った。

仏生山温泉の外観

岡さんのお父様もまた、温泉を愛していた。
自分の温泉を掘るのが夢だった。
あるとき、いよいよ私財を投げ打ち一世一代の賭けで温泉を堀った。
深く深く諦めずに掘削を進めて、
高松クレーターにぶち当たって湧き出たのがこの仏生山温泉。
ドラマチックな温泉なのである。
まさに宇宙からの贈り物だ。

感動した僕は、仏生山町の方々との宴会で
「仏生山温泉にはいろう〜33度の炭酸泉〜」
などと歌った温泉テーマソングを酔った勢いでギター片手につくり、
まちのみんなと肩を組んで歌った。
その幸せな光景を見て岡さんが何かを勘違いしたのか、
僕に「非常勤番台」という名誉職をくれた。

スタッフであるからには何もしないのも申し訳ないので
館内BGMを担当することになり、
今では僕のピアノが流れるロビーで、
みんな風呂上がりのビールを飲んで座敷で寝ている。
これは、なんとも幸せな光景だ。 
どこかで願っていた風景かもしれない。

四国の不思議なまちに、
家族の夢を詰め込んだ温泉が湧き出た。
湯によろこび、まちの人々が憩う。
「音楽のある風景」がそこにある。

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温泉の周辺を紹介!

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【仏生山温泉へ旅したくなった方のための旅のメモ】

〈仏生山法然寺〉
象徴である寺。
奥堂「さぬきの寝釈迦」へ挨拶に行くことから
このまちの旅は始まる。

〈へちま文庫〉
岡さんたちがつくった本屋。
セレクトも素晴らしいし、コーヒーもゆっくり飲める。

〈天満屋サンド〉
おいしーいサンドウィッチ。
ここも岡さんの設計。

〈なかむらうどん〉
レンタカーを借りて、村上春樹さんも愛した最高のセルフうどん屋へ。

〈キッチンおなじみ〉
ランチは迷うことなくここ、洋食屋さんのおなじみ。
カウンターでシェフのオムライスづくりを見届けるだけで幸せに。

きっちんおなじみの外観

〈おふくろ〉
貴重な、味噌汁専門の飲み屋さん。
(まことに残念ながら最近、閉店されました)

おふくろの外観

〈南珈琲店〉
ザ・昭和の喫茶店。

南珈琲店の外観

profile

haruka nakamura  

青森出身。音楽家。15歳で音楽をするため上京。2008年1stアルバム『grace』を発表。主にギターを弾いていたが、2nd『twilight』以降、ピアノを主体に音楽をつくるようになる。ミュート・ピアノソロ『スティルライフ』など、いくつかのオリジナル・アルバムを発表。最新作はTHE NORTH FACEとのコラボレーション「Light years」シリーズ。近年の演奏では東京都写真美術館で行われた星野道夫・写真展にて「旅をする音楽」など。自主レーベル「灯台」を立ち上げ「灯台通信」で手紙のように自身の言葉を伝える発信を行う。長い間、旅をしながら音楽を続けていたが、2021年より故郷・北国に暮らし音楽をしている。

Web:haruka nakamura

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