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写真家・在本彌生の旅コラム
「原風景でもある海南市へ、
お墓参りに行った」

旅からひとつかみ
vol.030

posted:2022.11.14   from:和歌山県海南市  genre:旅行

〈 この連載・企画は… 〉  さまざまなクリエイターがローカルを旅したときの「ある断片」を綴ってもらうリレー連載。
自由に、縛られることなく旅をしているクリエイターが持っている旅の視点は、どんなものなのでしょうか?
独特の角度で見つめているかもしれないし、ちいさなものにギュッとフォーカスしているかもしれません。
そんなローカル旅のカタチもあるのです。

text

Yayoi Arimoto

在本彌生

さまざまなクリエイターによる旅のリレーコラム連載。
第30回は、写真家の在本彌生さん。
夫の提案でお墓参りに行くことになったときの話。
海外出張帰りの在本さんは痛恨のミスを犯しますが、
お墓参りという旅は心に残るものになったようです。

お墓参りに行こう

「親父の命日に墓参りに行ってこようかな」

夫の言葉を聞いて、それなら私も同伴しておきたいなと思った。
夫は関西方面の出張帰りに寄るつもりだという。
私はといえばコロナ禍後初の海外出張直後の日程だったが、
帰国便を関空着にすればなんとか命日に間に合う。
和歌山市で命日の午前中に集合することになった。

紀北と呼ばれる和歌山県の北部は関西国際空港が近いので、
この辺りに東京から向かうときは、新幹線と「くろしお」を乗り継いで行くよりも、
飛行機で関空に着いてレンタカーを借りて向かうと楽なのだ。

長期出張後ゆえ、大きなスーツケースと機材ケースを携えていた私、
もちろん今回もあらかじめレンタカーを予約していた。

「やっぱり荷物があるときは車が便利だよなー」
関空に到着後、無事にチェックインしていたスーツケースを
ターンテーブルから引きずり下ろし、
いざレンタカーのブースに向かおうとしたとき、大変なことに気がついた。
東京の家を出る際、いつものように海外滞在用の財布に外貨を詰めてきたのだが……
あぁ、それが裏目に出た、やってしまった、
免許証を日本で使っている財布に忘れてきたのである。

うぅっ、自分のドジが心底うらめしい。
レンタカーはキャンセル(当日ゆえキャンセル料は100%!)、
この大きなスーツケースと機材ケースを引っ張って電車を乗り換え、
和歌山まで出ることになってしまった。まったく、なんの罰ゲームだろうか。

しばし気落ちしたものの、これしきのことに負けてはならぬと気を取り直し、
関空に隣接する駅へ。
ホームに立つと、南国から戻ったばかりの身に
秋本番に入った日本の冷たい風が吹き込み、やけに沁みた。

夫にはレンタカーを空港で借りることができなくなったので
まちでレンタカーを急遽抑えてもらうよう電話を入れた。
案の定、呆れられたが、それも当然、素直に非を認めた。

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お墓参りの時間とは?

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自らの原風景でもある海南市

今夜宿泊する和歌山市の繁華街にあるホテルまで
車なら40分で到着するはずだったが、
電車で1時間ほどかかって和歌山駅へ、そこからタクシーで10分弱で到着した。
深夜便で帰国したので、時差はあまりないのに結構、頭がクラクラしている。
向かいにある温泉に行ってシャキッとしてくればとの夫の提案にありがたく従った。

体調も整い、まちでなんとか夫が見つけてくれたレンタカーで、いざ、お墓に向かう。
非常に珍しいケースだと思うのだが、
夫の両親と私の父は同じまちの出身で、
それゆえ、義父の墓は私の父の実家のあるまち、海南市下津にある。
私も子供の頃は毎年通ったまちなので、全体像はわからないにしても、
このまちの路地に流れる用水路や家並み、
金色の果実がまるでアクセサリーのようにみかんの木々を彩るさまや、
漁港と工業港が一緒になった働く海の印象、光の強さ、などなど、
断片的な光景が私の原風景にもなっている。

義父は他界して既に20年以上経っているので、私は実際に会ったことがない。
それでも夫の父であると同時に、
私自身のルーツが少しでも義父と共通しているという点で、
義父は私にとってなんとも不思議なつながりのある人物だ。

夫の親族はもうこのまちに誰も住んでいないので、
親戚の人がしばしば墓を手入れしてくれているという状況を夫が気にしていたのだが、
寺に着いて墓をみつけると、とてもきれいに整えられていた。
代わりに墓の世話をしてくださっている方の気持ちが本当にありがたい。

墓石に水をかけ、拭い、持って来た花をさし、線香を焚いて手を合わせる。
そういえば、ここに来るのもコロナ禍後初めてだ。
(お義父さん、随分ご無沙汰してしまってごめんなさいね)
寺務所に寄ってご挨拶し、お寺を後にした。
若干、無理矢理ながら、夫と共に義父の命日の墓参りを敢行してよかった。

墓参りとは今回の私たちも然りだが、
この世に残されたものたちの満足感に支えられているように思う。

実際には亡き人を思うことは墓に行かなくてはできないことではないし、
墓をつくらないということもこれからの選択肢としてありえる。
それでも、たまに墓を参ることで亡き人がいた風景の片鱗をこの目で確かめられたら、
それは心に残る時間になる、そう実感した旅だった。

profile

Yayoi Arimoto 
在本彌生

東京生まれ。大学卒業後、外資系航空会社にて乗務員として勤務。機内で会話した乗客からの勧めで写真を撮りはじめる。複数のワークショップに参加後、2002年に初個展「綯交ぜ」を開催。2003年にフォトグラファーとしての活動を開始、2006年よりフリーランス。 各地の衣食住、文化背景の中にある美と奇妙を求め国内外を奔走し、写真作品を雑誌、書籍、展覧会にて発表している。

主な写真集:『Magical Transit Days』(アートビートパブリッシャーズ)、『わたしの獣たち』(青幻舎)、『熊を彫る人』(小学館)

主な書籍:『インド手仕事布案内』(小学館)、『中国手仕事紀行』(青幻舎)

主な展覧会:「旅する惑星」FUJIFILMギャラリー、「わたしの獣たち」森岡書店、「Treasure hunting IZARI」GREAT BOOKS、

「THE COLORS OF AMAMI」outdoorgallery

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