ミツバチとヤギによる
「循環型農園」とは?
地域が幸せになる耕作放棄地再生計画

楽園への道を切り拓く決め手はヤギ?

伊豆下田に移住し、養蜂場で働く津留崎さん。
獣害被害が深刻な耕作放棄地を再生させ
「ミツバチの楽園」をつくろうとしていますが、数々の問題が……。
そこで課題を解決すべく登場したのが、ヤギ。
さて、そのアイデアとは?

「ミツバチの楽園」の前に立ちはだかる問題

いもので、伊豆下田に移住して知り合った
養蜂家・高橋鉄兵さんの営む〈高橋養蜂〉を手伝い始めて
1年半が経とうとしています。

当初、鉄兵さんと僕がまず取り組んだことは、
獣害がひどく、荒れてしまった山の中の耕作放棄地となっていた農地を
ミツバチが安心して飛び回ることができる農園に再生することでした。

ミツバチには「花を受粉させる」という、
生態系や人間の食糧生産にとって重要な役割があり、
そんなミツバチがさまざまな環境的要因により減少している、
と知った彼の夢が「ミツバチの楽園」をつくることだったのです
詳しくはこちら)。
この農地の再生は彼の考える「ミツバチの楽園」への第一歩ともいえます。

耕作放棄地となっていた山の中の農園

耕作放棄地となっていた山の中の農園。各地で問題になっている獣害被害の深刻さを目の当たりにしました。

半年ほどかけて、枯れた木を片づけ、獣たちに荒らされた農地を整備して、
そして農地の周りを大きく獣害対策の柵で囲いました。

獣害対策用の柵の設置作業

山あり谷ありのルートに柵を設置するのは簡単ではありませんでした。高橋養蜂を支援してくれる方々の協力もあり完成。

ちょうど1年前に完成したその柵のおかげで
鹿や猪が入ってこなくなりました。獣害対策の柵は成功です。
ここに蜜源となるレモンやお茶の木、菜の花やひまわりなど、
季節ごとの花を植えました。

季節ごとの花を植えました

「ミツバチの楽園」へ一歩近づいたことがうれしかったその頃、
とても困った問題が起きました。

それは「元気すぎる草」という問題です。

実は、柵を設置するまでは、この土地は草が育たないのか? 
というほどに土があらわになった土地でした。
それが、柵を設置して鹿が入ってこなくなった途端に……。

下田の里山。草が育たないエリアも

右側が柵の外側。相変わらず草が育っていません。
以前は周辺の土地がすべてこのような状況でした。
対して、左側の柵の内側。どんどんどんどん草が育ちます。

季節は初夏。もっとも草の勢いがある時期です。
あっという間に植えたお茶の苗が見えなくなるほどに草が伸びます。
草が育たないのではなく、生えてくる草を
鹿がきれいに食べつくしていたのだということに気づきました。

そして、鹿を排除するということでこれだけ生態系に影響がある、
それほどに自然界が絶妙なバランスで成り立っていることを
実感しました。

と、感心してる間に苗が埋まってしまう……。
ミツバチたちのための農園なので除草剤は撒けません。
なので、草刈り機を振り回す。
おかげさまで移住するまで触ったことのなかった草刈り機も
だいぶ使いこなせるようになってきました。でも草刈りは終わらない。

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ふとした会話から生まれたアイデア

途方に暮れていたある日、僕は嘆くように
鉄兵さんにこんな話をしました。

「ヤギを飼ってここに放したらどうかね!? 
農園に鹿が入ってこないように柵はしてあるから
新たに囲いをつくる必要はないし、
草を食べてくれるから草刈りの手間もない。

ガソリンも使わなくていい。
草を食べたあとは糞をすることで土地を肥沃にしてくれる。
農園の作物はミツバチが受粉を手伝う。
そして、ヤギが土地を肥やすので作物が元気に育つ。
おまけに石鹸のヤギミルクも自給できる!!
(高橋養蜂では蜂蜜とヤギのミルクを使った石鹸が
商品としてあるのですが、そのヤギのミルクは取り寄せているのです)

地域の河原や耕作放棄地の草刈りに、
ヤギが借り出されることもあるらしい……。
すばらしい循環じゃないか! 
こんな“循環型農園”こそ、これからの時代に求められる
“ミツバチの楽園”ではないか!」

実は半ば夢みたいな話だなあと思いながら話していたのですが……
「ミツバチの楽園」のためには
夢を夢のままで終わらせない鉄兵さんは違いました。

柵を設置してからレモンの苗を植え、ひまわりの種をまきました

柵を設置してからレモンの苗を植え、ひまわりの種をまきました。花が咲くと農園中にミツバチが飛び回り、まさに「ミツバチの楽園」という雰囲気です。この達成感は忘れられません。

ということで、終わらない草刈りで途方に暮れた末の
何気ない会話がきっかけとなり、ヤギを迎え入れるために
農園の整備を進めることになりました。

山あいから下田の海をのぞむ

まず、どこをヤギ牧場にするか? をあらためて検討しました。
よく考えてみると、レモンの苗木やひまわりなどの蜜源を植えた農園に
ヤギを放すと、レモンも食べてしまうかも? という問題もあり、
別に高橋養蜂で管理していた農地があったので、
そこをヤギ牧場の候補地としました。

ヤギ牧場の候補となった農地

候補の農地は山のふもと、もともと田んぼだった平らな農地です。そしてここも鹿の糞だらけ……。でも、数年前までは鹿被害はなかったそうです。こんな状況なので鹿対策をしきれずに畑をやめてしまう人もいるといいます。

この農地を獣害対策の柵で囲い、ニ分割して、
一方のヤギエリアにはヤギを放牧して草を食べてもらい、
土地を肥沃にしてもらう。
他方の作物エリアではミツバチの手を借りて蜜源植物や作物を育てる。
そして、作物の収穫が終わったタイミングで
ヤギエリアと作物エリアを交換する。

今度は、ヤギが肥沃にしてくれた土地に蜜源植物や作物を育て、
いままで作物を育てていたエリアは、
再びヤギに土地を肥沃にしてもらいます。
またタイミングを見計らい、ヤギエリアと作物エリアを交換する。

そして、時にはヤギを山の中の農園にも連れて行き、
食事を兼ねて草を食べてもらう。
こんな「ヤギ牧場計画」です。

野生のキジ

周辺には野生のキジの姿も。

そして、その農地周辺には地元の方々の畑や、
すでにその時点で耕作放棄となっている農地もありました。
「ヤギ牧場」ができても周りが耕作放棄地ではちと寂しい。
周囲の耕作放棄されている農地もお借りすることができないか……? 
近隣の方にあたってみました。

結果、想定以上に周囲の方たちの協力を得ることができて、
トータル2000坪以上の広大な農地をお借りすることができたのです。

ヤギのお試し放牧

この構想が固まってきた昨年末頃、この「ヤギ牧場計画」をSNSで公表。すると近隣でヤギを飼育している方が、ヤギがどんな感じで草を食べるのか、試しに連れて行きましょうか? と連絡をくれて、お試し放牧をしました。地域の方々の協力が本当にありがたいです。

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楽園への道のりは長い……

実は、当初ヤギを飼う時期の目標はこの初夏としていたのですが、
農地を広くお借りできたことと、借り始めて実際に作業を始めると
想定以上に手間がかかり、いまは先延ばしにしている状況です。

農機具や小屋が放置されたままの耕作放棄地

農機具や小屋が放置されたまま耕作放棄地となっていた農地もあり、
まずは片づけから始めました。
これだけでもなかなか手強かったのですが、
もうひとつ大きな問題が勃発したのです。

2、3日雨が降り続いたあと、農園で作業をしようと足を運ぶと……
奥の山に近いあたりの様子がおかしいのです。
あれ? 池? というほどのな大きな水たまりが……。

大きな水たまり

池の中には無数のカエルの卵が……。このままではヤギ牧場でもミツバチの楽園でもなく、カエルの楽園になってしまいそう……。

この水たまり、数日たってもほとんど小さくなりません。
もともとはちゃんと水路があって水を流していたようなのですが、
水路が埋まってしまい、すごく水はけが悪くなっていたようです。

これでは梅雨時や台風の時期にヤギ牧場が水没してしまう。
池を前に鉄兵さんと僕はしばし呆然としてしまいました。
しかし呆然としていても何も解決しません。

気を取り直して重機を借りて、掘って、
川につながる水路を復活させました。

耕作放棄地を再生させると獣のすみかを減らすことになり、近隣の農地の獣害被害にも影響があるそうです。

水路がつながるとしっかり水が流れてくれて水はけは改善されました。
大雨のときもしっかり排水されていてひと安心。
これならヤギ牧場が水没することはなさそうです。

水路

これから、掘ったままの水路の一部は集水パイプを入れて埋め戻して、
鹿や猪が入ってこないようにする柵で農地を囲み、
すっかり固くなってしまっている土地を耕運して、
ヤギ小屋をつくって、あれしてこれして……と
まだまだヤギを迎え入れるまでにやることが山盛りです。

ヤギ小屋のイメージ図

ヤギ小屋は建築屋でもある僕の担当です。ヤギエリアと作物エリアを移動可能な「モバイルヤギ小屋」を考えています。

ゴミを集めて捨てたり、石を運んだり、土を掘ったり。
ひとつひとつの作業は地味で、辛いことも多い。
でも、ミツバチとヤギ、そしてヒトと地域が
お互いに良い関係でい続けることができるための「養蜂場」、
そして「ヤギ牧場」はどんなところだろうか? 
と考えながら作業をするのはとても楽しいです。

こつこつこつこつ。泥んこになりながら。
焦らずにしっかり準備してヤギを迎え入れたいです。

高橋養蜂

今回はヤギ牧場計画のことばかり書きましたが、いまは本業の養蜂も最も忙しい時期です。満開のみかんの花の蜜をミツバチたちが日々集めて、熟成したものから採蜜しています。蜂蜜ができるまでについては、こちらをどうぞ。

information

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高橋養蜂

住所:静岡県下田市箕作787-1

TEL:0558-28-0225

Web:http://takahashihoney.net/

文 津留崎鎮生

text & photograph

津留崎鎮生 Shizuo Tsurusaki
つるさき・しずお●1974年東京生まれ東京育ち。大学で建築を学ぶ。その後、建築家の弟子、自営業でのカフェバー経営、リノベーション業界で数社と職を転々としながらも、地方に住む人々の暮らしに触れるにつれ「移住しなければ!」と思うように。移住先探しの旅を経て2017年4月に伊豆下田に移住。この地で見つけたいくつかの仕事をしつつ、家や庭をいじりながら暮らしてます。Facebook Instagram

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