里山を悩ませる「負の連鎖」とは?
「ミツバチの楽園」づくりで
土地を再生させながら考えたこと

伊豆の里山で感じたこと、考えたこと

伊豆下田で暮らし、いくつかの仕事をする津留崎さん。
そのひとつが「ミツバチの楽園」づくり。
養蜂家の夢を実現すべく、週に何度かその仕事に携わっています。
と聞くとなんだか楽しそうですが、そこにはとても重大な問題が。
日本各地の里山で起きている、その問題とは。

〈高橋養蜂〉が夢見る「ミツバチの楽園」

けましておめでとうございます。
この年越しは多くの人と逆方向の帰省をして
妻と僕の実家のある東京で過ごしました。
久々に東京に戻ると下田での暮らしを客観的に見ることができます。

思い返してみると昨年は移住先探しの旅から始まりました。
その旅を経て、下田に家が決まり、昨年4月に移住。
当初は仕事もなく、友人もいなかったのですが、
いまでは仕事にも友人にも恵まれ充実した日々を送っています。
とにかく変化の1年でした。

そして続く今年はどんな年になるのか?
「移住のリアル」をモットーに、移住したからこそ感じたこと、
わかったことをお伝えしていこうと思います。
本年もよろしくお願いいたします。

アロエの花をご存知ですか? 下田近辺はまちのあちこちにアロエがあり、この時期一斉にきれいな花を咲かせます。アロエはわが家の庭にもあり、虫刺されのときに重宝しています。

今回はvol.21で紹介した〈高橋養蜂〉の養蜂家・
高橋鉄兵さんと取り組んでいる「ミツバチの楽園」についての話です。

昨年の夏に鉄兵さんと知り合い、僕は彼の養蜂に対する真摯な思いに
すっかり惚れ込みました。
彼も移住したばかりの僕に興味をもってくれて意気投合。
そして、彼の夢「ミツバチの楽園」づくりに加わることになったのです。

養蜂家・高橋鉄兵さんとの出会いは僕の下田での暮らしを大きく変えました。

では、その楽園の住人ともいえるミツバチについて少し説明を。
ミツバチは、花の蜜を集めてはちみつをつくるだけでなく、
果物や野菜の果実を実らせるための受粉を行っています。

「世界の食料の9割を占める100種類の作物種のうち、
7割はハチが受粉を媒介している」と

国連環境計画(UNEP)アヒム・シュタイナー事務局長が報告しています。

生態系においても、我々人間の胃袋を支える農業においても
大切な役割を果たすミツバチ。
昨今、そんなミツバチが激減してしまったのです。
原因として農薬の可能性も疑われています。
農業にとって大切なミツバチが、これまた農業にとって必要とされている
農薬により激減したとすれば、すごい自己矛盾です。

そこで、鉄兵さんは農薬の心配なくミツバチが安心して飛び回れる
「ミツバチの楽園」をつくることを考えたといいます。
そして、昨年まさに「楽園」にふさわしいような
すばらしいロケーションの土地に出会ったのです。
そこは下田湾を望む里山の中に切り開かれ、
みかんやキウイが植えてある果樹園です。

写真ではわかりにくいですが、山並みの先に下田湾が見えます。昼時には海面が太陽に照らされて反射して光り、目の錯覚なのか海面が上にあるようにも見えます。なんとも神秘的な景色。

鉄兵さんは、その土地を「ミツバチの楽園」にすべく昨秋に借り始めました。
そして僕は秋から、週に何度かは鉄兵さんとともに
そこを再生させるため、開拓ともいえるような作業をしているのです。

[ff_assignvar name="nexttext" value="楽園づくりのための獣害対策"]
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なぜこんなに果樹園が荒れてしまったのか?

「再生」というのも、その土地はひどく荒れてしまっていたのです。
そこを里山の中に切り開いた地主の農家さんは、
高齢になり後継者もいなかったことから
しばらくは手をかけることができなくなっていました。
人が手をかけなくなった果樹園は、鹿や猪、猿などの獣たちにとっては、
それこそ楽園だったのでしょう。

無残にも倒された電気柵。

そして、果実を食べるだけならまだしも、
鹿はみかんの樹皮を食べてしまいます。
ひどく樹皮を食べられてしまったみかんの木は枯れてしまうのです。

上の写真の斜面のみかんの木は比較的被害は少なかったのですが、平地の木はことごとく鹿に樹皮を食べられ枯れていました。

こちらはキウイ畑。背の高い鹿は入りにくいからか、みかんの木に比べると被害は少ないです。でも、こちらは猿の楽園……? あるときは20匹ほどの団体様に出くわしました。

その土地は民家や畑が点在する集落から
5分ほど林道をあがったところにあります。
そこに行くためだけの林道です。

ふもとの集落から里山の中へと入っていく林道。ここにもよく鹿が出没するようです。このあたりの木も樹皮を食べられています。

林道の整備から、広大な土地を切り開き、
獣害対策をしてみかんやキウイの木を育てることまで、
地主の農家さんたちが行っていたのでしょう。
ここまでするのにどれほどの労力がかかったのか? 
考えると途方に暮れてしまいます。

「先人の苦労が忍ばれる」とよく聞きますが、まさにその言葉通りです。
でも、手をかけないとあっという間に獣たちに荒らされてしまうという
厳しい現実(手をかけていなかったのは2~3年間なのです)。
ここまで開拓した先人たちの努力に報いるためにも、
ここを再生させたい、そんな気持ちにもなります。

春になると鉄兵さんは本業の養蜂で忙しくなるので、
その前に枯れ木を片づけて獣害対策の柵を設置する予定です。
獣害対策がうまくいったら、ミツバチの蜜源となる
さまざまな果樹の苗木や草花を植えて、そして育てる。
花が咲き、実がなり、ミツバチが飛び回る「ミツバチの楽園」となるのです。

そんな「ミツバチの楽園」への道のりは、まだ始まったばかりです。
いまは獣害対策の柵を設置する、苗木を植えるための準備段階。
木を切ったり運んだり、石を運んだり積んだり。
地道な作業の繰り返しです。

筋トレ? というような作業も。そして、その成果で石垣と道ができてきました! この段差をユンボや一輪車が通れると、今後の作業性があがります。

林道の倒木や大きな石も通るたびに片づけています。

東京で暮らしていたいままでの感覚だと 「誰かが直してくれるだろう」なのですが、ここでは自分たちで直さなければ荒れていく一方です。

獣害対策は、この土地の全体を柵で囲う計画です。
現状は獣害対策はできていないので、まだまだ獣たちの楽園。
いつ行ってもホヤホヤの鹿の糞があちこちにあります。

柵を設置する予定の場所。手前の黒く丸いものは鹿の糞です。こんな景色のいいとこでなさってるのか……。

[ff_assignvar name="nexttext" value="作業で実感する「負の連鎖」"]
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「負の連鎖」を断ち切らないとどうなる?

先日は作業をしていたら20匹ほどの猿に囲れました。
狸がすぐ近くまでやってきたこともあります。

野生の猿軍団に囲まれたのは初めての経験。

下田だけでなく農家の高齢化、後継者不足、
そして耕作放棄地の増加はどの地域でも起こっている問題です。
この土地のように、集落から離れた耕作放棄地は
鹿や猪、猿たちにとって絶好の棲み家になってしまうようです。
そうなると近隣の農地の獣害が
さらにひどくなってしまうこともあるといいます。

現に、ここのふもとの集落の畑では、以前は出なかった鹿が
昨年の夏から頻繁に出るようになりました。
タイミングを考えても、この土地がしばらく耕作放棄地となっていたことと
無関係ではない気がします。

そうなると、農家は獣害対策に追われ疲弊してしまう。

さらに耕作放棄地が増える。

さらに獣の棲み家が増える。

そしてさらに獣害が……。

まさに負の連鎖です。

調べてみるとこれはデータなどからも言われていることでした(参考資料)。
実際に里山で獣たちの存在を身近に感じながら作業をしていると、
その「負の連鎖」を身をもって実感します。
では、この「負の連鎖」を断ち切らないと日本の農業はどうなるのか? 
日本の食料はどうなるのか? 日本の里山はどうなるのか?
とても深い問題です。

後継者がおらず、しばらくは耕作放棄地となっていた果樹園を
養蜂家が借り受ける。
果樹園を養蜂家が引き継ぐというのはかなり特殊な事例なのでしょう。
たったひとつの特殊な事例といえばそれまでです。
でも、負の連鎖を断ち切るひとつひとつの動きが
大切なのではないでしょうか。

人手が必要な作業のときには鉄兵さんの協力者たちが来てくれます。中央の方は下田のまちなかで70年続くというバー〈ハーバーライト〉を引き継ぎ営まれている鈴木勝士さん。土木の仕事の経験があり、チェーンソーからユンボまで使いこなす頼もしい協力者です。

鉄兵さんのよき理解者、米農家でもあり林業も営まれている〈南伊豆米店〉の中村大軌さんも釜と米持参で来てくれました。新米をそこにあったみかんの木で炊き、このロケーションでいただくという贅沢。

地道な作業の繰り返しで枯れ木もなくなりました。
倒されて使えなくなった柵も撤去しました。
順調に作業は進んでいます。でも、まだまだ。
まだまだ、これからです。

花が咲き、果樹が実り、そしてミツバチが安心して飛び回れる
「ミツバチの楽園」。
それは半年や1年でできることではないのです。

この作業をするにあたり、僕は高橋養蜂から報酬をもらっています。
僕がこの作業を手伝うことで、いまのところ高橋養蜂に
利益をもたらしてはいません。
でも、鉄兵さんはなんとかやりくりしながら僕に仕事をふってくれます。

「ミツバチの楽園は夢ですから。
ひとりじゃできないので手伝ってくれて助かります!」

鉄兵さんのその言葉は、僕も含めて、仕事となると
目先の利益のことばかりを考えてしまう多くの現代人が
忘れてはいけない大切なことのような気がします。
それが「負の連鎖」を断ち切るひとつのヒントなのではと感じています。

いままで東京でいろんな仕事をしてきました。
でも、こんなにわくわくする仕事はなかったかもしれません。
石積みでも柵設置でも何でもやったる!
いま、そんな気持ちです。

鉄兵さんを通じて知り合った生産者の方々を招いて忘年会をしました。せっかく生産者が集まる宴なので、それぞれの生産物を持ってきてもらい、それを妻が料理してお出ししました。〈ひらたけのクレソン〉のトマト鍋、伊東産自然栽培大根のソテー。妻の自家玄米酵母パン(玄米酵母は大軌さんの玄米でおこしています)には高橋養蜂のハチミツとともに。締めは南伊豆米店の玄米に大根の葉っぱのふりかけ。酒は同じく南伊豆米店の米からつくった〈身上起〉。東京で暮らしていた時には味わえない贅沢な宴でした。

information

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高橋養蜂

住所:静岡県下田市箕作787-1

TEL:0558-28-0225

Web:http://takahashihoney.net/

文 津留崎鎮生

text & photograph

津留崎鎮生 Shizuo Tsurusaki
つるさき・しずお●1974年東京生まれ東京育ち。大学で建築を学ぶ。その後、建築家の弟子、自営業でのカフェバー経営、リノベーション業界で数社と職を転々としながらも、地方に住む人々の暮らしに触れるにつれ「移住しなければ!」と思うように。移住先探しの旅を経て2017年4月に伊豆下田に移住。この地で見つけたいくつかの仕事をしつつ、家や庭をいじりながら暮らしてます。Facebook Instagram

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