ミツバチ愛にあふれる養蜂家。
伊豆下田〈高橋養蜂〉で
おいしいはちみつができるまで

ミツバチの楽園づくりから、
はちみつができるまで

伊豆下田に移住して、二足のわらじで働く津留崎さん。
そのひとつが、ご縁があって働くことになった〈高橋養蜂〉でした。
今回のストーリーは、養蜂の仕事を通して知ったミツバチとはちみつのこと。
ひとつの巣箱に何万匹という群れをなすミツバチの生態や
どんなふうにしてはちみつができるのかなど、
これを読むと、はちみつのおいしさが倍増しそうです。

「ミツバチの楽園」づくり
から始まる養蜂の仕事

は下田に移住してから、いろいろな縁がつながり
養蜂場と工務店で働くことになりました。
養蜂と建築という不思議な組み合わせの
「二足のわらじ」を履いて暮らしています。

移住前から建築の仕事はしていましたが、養蜂の経験はありませんでした。
正直にいうと養蜂に興味があったわけでも、
はちみつに特別なこだわりがあったわけでもありません
(多くの人と同じです)。
そんな自分が、移住してきて間もない昨年の夏に
〈高橋養蜂〉の養蜂家、高橋鉄兵さんと出会いました。

花の蜜を吸うミツバチ

話をするうちに彼の養蜂に対する強いこだわりと
「ミツバチ愛」に驚いたことを覚えています。
そして、ミツバチがはちみつをつくり出すだけでなく、
多くの農作物の受粉という重要な役割を担っていること、
そのミツバチが減っているという現実を知りました。
農薬の影響という指摘もあるそうです。

そこで、「ミツバチ愛」あふれる彼は、
ミツバチが安心して元気に飛び回れる環境、
「ミツバチの楽園」をつくりたいという夢を語ってくれました。
そうした縁で、その秋から高橋養蜂に身を置くことになったのです
(鉄兵さんとの出会いについてはvol.21
働き方についてはvol.30に詳しく書いています)。

はちみつがどのようにしてつくられるのか? 
ミツバチがどんな暮らしをしているのか? 
高橋養蜂で働くまではまったく知り得なかったことです。
また、はちみつという食品の生産現場に立ち会うことで、
あらためて食べるということについて考えるきっかけとなりました。

〈高橋養蜂〉での作業風景

そこで今回は、こうして偶然たどり着いた
高橋養蜂という職場を通して知った、ミツバチとはちみつについての話です。

ミツバチの巣箱の中

ミツバチの巣箱の中。ひとつの巣箱に2万匹、初夏の最盛期にはその巣箱が3段積み重なって1匹の女王蜂からなる「群」を形成します。6万匹の大家族!

少し季節を戻します。
前にこの連載で高橋養蜂のことを書いたのは今年のはじめ。
その頃は気温が低く蜂がほとんど活動しておらず、
養蜂の作業をあまりしない時期です。
耕作放棄地となってしまい獣に荒らされてしまった里山の農園を
「ミツバチの楽園」に再生するべく作業をしていました。

耕作放棄され荒れた農園

耕作放棄され荒れた農園。各地で農業後継者がおらず耕作放棄地が増加、獣の棲み家に。最近大きな問題となっている獣害の原因のひとつと言われています。

農園を囲う獣害対策の柵の設置作業

農園を囲う獣害対策の柵を設置しました。1周500メートル弱、山あり谷あり……。1メートルのワイヤーメッシュの上に電線を4段。2メートル弱の高さの柵です。これくらいの高さがないと鹿は飛び越えてしまうとか……。恐ろしい運動能力です。

そして、春には柵が完成。

完成した柵

柵が完成してしばらくすると、柵の内側と外側では
驚くほどに違いが出てきました。
柵の外側では相変わらず鹿が出没し、草や木の新芽を食べられています。
でも、鹿が入って来ることのなくなった柵の内側は
徐々に草木が元気を取り戻してきたのです。

これなら蜜源植物を育てることができる! ということで、
草木の種や苗を植えました。

お茶の苗

こちらはお茶の苗。お茶は蜜源にもなるうえ、斜面に植えるとしっかりと根を張るので斜面が崩れるのを防いでくれるそうです。

[ff_assignvar name="nexttext" value="どうやって蜜を集める?"]
[ff_file_include_from_theme filepath="/include-unit/unit-layout-magazine-child-pagenation.php"]

春には春の花の蜜、
初夏にはみかんの花の蜜

その頃、暖かくなってきたのでミツバチたちも活発に活動し始めました。
養蜂の季節のはじまりです。

柵の内側(手前側)は元気になった草に花が咲きミツバチが飛び回る

柵の内側(手前側)は元気になった草に花が咲きミツバチが飛び回っています。柵の外側は鹿に草や木の新芽を食べ尽くされていて荒れたまま。「ミツバチの楽園」へと近づいていることがうれしい反面、増えすぎた鹿の問題の根深さを実感します。

ミツバチたちは行動範囲といわれる
巣から半径2キロ以内にある花の蜜をたくさん集めてくれます。
巣には桜やふじなどの春の花の蜜がたまっていきます。

巣箱を開けた状態

春先は一群、一段ですが、夏が近づくと中の蜂がどんどん増えてきて巣箱を足していきます。

巣箱の中に、ミツバチが巣をつくるための板「巣枠」が最大8枚入っていて、
その巣枠の中の巣房(6角形のひとつひとつの部屋)に
働き蜂が蜜や花粉を集めます。

中央の胴体の色が違うのが女王蜂

中央の胴体の色が違うのが女王蜂です。
こちらはまだ産まれたてなので、まわりの働き蜂(メス)と
大きさの違いがあまりありませんが、最終的には2、3倍の体重になります。
働き蜂の寿命は1か月、女王蜂の寿命は平均3年で、
女王蜂のみが卵を産み、その数は1日1500~2000個!

もちろん、雄蜂もいます(1群に数百から1000匹程度)。
働き蜂より少し大きくて黒っぽい雄蜂は交尾以外は何もしないという怠け者。
少しうらやましいと思ってしまいましたが、
秋になると働き蜂に巣から追い出されてしまうとか
(それはうらやましくない……)。

巣箱の出入口

一番下の巣箱に出入口があります。働き蜂は1か月の寿命のうち、前半20日間は巣の中で子育てや巣づくりを、後半10日間を外で蜜や花粉を集めるために飛び回ります。

蜜がたまってくると蜂たちは巣の中で羽で風を起こし、
たまった蜜にあてます。
そうして蜜の水分を飛ばして熟成させるのです。
充分に熟成させたら、ミツバチたちは蜜で蓋(蜜蓋といいます)をして
余計な水分が入らないようにします。

この時期に雨が続くと蜜を集めることができなくなってしまい、
ミツバチが自ら消費してしまうのでなかなか蜜は増えませんが、
今年はうまく集まりました。

蓋の割合が多くなった巣枠を養蜂場から作業場に持ってきて
採蜜(巣の状態からハチミツにする作業)します。

中央部分、白い膜のようなのが蜜蓋

中央部分、白い膜のようなのが蜜蓋。蓋をされている中の蜜は糖度が80度を超えるほどでとても濃厚。蓋がされていないところの蜜は少しあっさりとしていますが、花の香りを感じます。蜜のたまった巣枠は重いもので5キロもありました。

こうして春の蜜を採蜜した巣枠を再び山に戻して、
みかん畑の多いエリアに巣ごと移動。

軽トラに巣箱を乗せ大移動

軽トラに巣箱を乗せて民族大移動。3段重なった巣箱はすごい重さです……。養蜂は力仕事はないイメージでしたが全然違いました。ちなみに鉄兵さんの腕の太さ、半端ないです。

下田はみかんの生産が盛んで、多くの種類が栽培されていて、
夏前、しばらくみかんの花が咲き続けるのです。
巣にはみかんの蜜がたまり、また巣に蓋がされていきます。

蜜を集めるミツバチ

無農薬でみかんを育てている広大な果樹園の片隅に巣箱を置かせていただきました。養蜂は地域の方の理解、協力がなくてはできません。農薬の心配をせず安心して放つことができます。

ということで春の蜜に続き、初夏に「みかんの蜜」を採蜜します。
再び巣枠を巣箱に戻し、みかん畑から別の場所に移動。
そうすると、今度は夏の花「カラスザンショウ」などの蜜を
たっぷりと集めてくれ、再び採蜜します。

夏、農園に咲いたひまわり

夏、農園にはひまわりが咲き、ミツバチが飛び回っていました。昨年の荒れた状態から考えると驚くほどの変化です。

1年前の同じ場所の風景

こちらがちょうど1年前の同じ場所。鹿が増えすぎると土地が荒れるとは聞きますが、ここまで変化が出るとは思いませんでした。

[ff_assignvar name="nexttext" value="採蜜して商品になるまで"]
[ff_file_include_from_theme filepath="/include-unit/unit-layout-magazine-child-pagenation.php"]

日々の管理から採蜜作業まで

いま、この夏の花の採蜜が終わり、また巣に蜜がたまっている状態です。
でも、この蜜はこれからの子育てや
巣の外に出なくなる冬に消費する蜜なので採蜜はしません。
そして、夏の終わりにはミツバチの天敵、
スズメバチの対策や冬を越すための準備が始まります。

こうした季節ごとの作業に加えて、日々、巣箱の点検、管理をします。
これが養蜂の一番難しいところとも言えます。

女王蜂や卵・幼虫や働き蜂の様子を見て異常がないかを確認、
問題があれば対策を講じる。
猛暑だろうが養蜂着を着てこの日々の点検、管理を適切にしなければ、
しっかり健康にミツバチが育ってくれず、蜜を集めてくれません。

巣箱の巣枠を点検中

この格好で巣箱の巣枠をすべて点検します。微妙な判断が必要とされるのでまだまだ僕には手伝えない作業です。夏、点検作業を終えて帰ってくると、想像を絶する量の汗をかいています……。「ミツバチ愛」がなければできない仕事です。

こうして高橋養蜂では1年に3回、春・初夏・夏の終わりに採蜜をして
はちみつをつくり、商品としています。

「採蜜」といっても、ピンとこないかと思うので、
採蜜作業について写真でご紹介します。

養蜂場から巣枠を持ってきた状態

養蜂場から巣枠を持ってきた状態。しっかりと蜜蓋がされています。

蜜蓋をナイフで切り落とす

蜜蓋をナイフで切り落とす。この切り取った蜜蓋がまたうまい!

蜜蓋の取れた巣枠を遠心分離機にかける

蜜蓋の取れた巣枠を「遠心分離機」という機械にかけて回します。回すことで遠心力が働いて外側に蜜が飛ばされます。

遠心分離機から別容器に移す

遠心分離機から別容器に移す。その際には蜜蓋や巣の破片が混入してしまわないようにしっかりろ過します。

細かい網でろ過

さらに目の細かい網でろ過します。輸入品や大量生産の業者はろ過しやすくするために加熱処理をするそうですが、加熱によってはちみつの栄養分が損なわれてしまいます。ここでは粘度の高いそのままのはちみつを加熱せずに時間をかけてろ過します。

一斗缶にいれて保管

こうして採蜜したはちみつは一斗缶にいれて保管し、注文が入ると瓶詰めして商品になります。

瓶詰め作業

瓶詰め作業中。なんときれいな色なのでしょうか!

ラベル貼り

ラベル貼りも自分たちで。家族経営の高橋養蜂では鉄兵さんのご家族の方々がこうした作業をこなしています。

[ff_assignvar name="nexttext" value="販路を増やさない高橋養蜂"]
[ff_file_include_from_theme filepath="/include-unit/unit-layout-magazine-child-pagenation.php"]

まずは地元で売りたい、その思いとは

こうしてつくられた高橋養蜂のはちみつは、いまのところ
下田、遠くても伊豆半島内の店舗での販売がほとんどです。
むやみに販路を増やすことや売り上げを伸ばすことを目標にしてはいません。

東京に数店舗もあるはちみつの専門店からの
打診を受けたこともあるそうですが、お断りしたそうです。
受けていればいまより売り上げは安定したかもしれません。
でも、受けなかった。

というのも、いまでこそ通年販売する商品が
確保できるほどの生産量になったのですが、
数年前まではまだ生産量が安定していなかったのです。

「そんな頃から支えてくれたお客さまや販売店、
地域の人たちがいるからこそ、いまでもこうして養蜂を続けられている。
その感謝を忘れることはできない。
とにかくまずは下田で、伊豆でしっかりやりたい」と鉄兵さん。

高橋養蜂の高橋鉄兵さん

6年前に下田に移住してきて以来、地道に努力を重ねてきた鉄兵さんを応援する下田、伊豆の方は多く、そんな方々に高橋養蜂は支えられています。

最後にもうひとつ伝えたいエピソードがあります。

採蜜のため、巣枠を作業場へ持っていくときのことです。
そのとき、ミツバチたちはとても怒ります。

考えてみれば……そりゃそうです。
必死になって集めた蜜を持っていかれてしまうのですから。
ミツバチは普段は温厚で人に攻撃するようなことはありません。
でも、このときばかりは違います。
一生に一度しか使えないという攻撃のための針を
ここぞとばかりに使ってきます。それほどに怒っているのです。

でも、こうした過程があってはちみつができます。

はちみつだけではありません。肉や魚はもっと直接的ですが、
はちみつと似たスタンスの食品だと卵や牛乳があります。
見方を変えれば野菜だって同じかもしれません
(植物に感情があるとする説もあるそうです)。

何らかのかたちでの「搾取」があって、食品が、命が成り立っている。
そんな当たり前のことを、ミツバチの怒る姿を見てあらためて感じました。

蜜を集める農園のミツバチ

1匹のミツバチが生涯をかけて集める蜜の量はたったの小さじ1杯。
心をこめてつくり、おいしくいただきます。

information

map

高橋養蜂

住所:静岡県下田市箕作787-1

TEL:0558-28-0225

Web:http://takahashihoney.net/

文 津留崎鎮生

text & photograph

津留崎鎮生 Shizuo Tsurusaki
つるさき・しずお●1974年東京生まれ東京育ち。大学で建築を学ぶ。その後、建築家の弟子、自営業でのカフェバー経営、リノベーション業界で数社と職を転々としながらも、地方に住む人々の暮らしに触れるにつれ「移住しなければ!」と思うように。移住先探しの旅を経て2017年4月に伊豆下田に移住。この地で見つけたいくつかの仕事をしつつ、家や庭をいじりながら暮らしてます。Facebook Instagram

Recommend 注目のコンテンツ

Special 関連サイト

What's New 最新記事