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連載

〈界 別府〉から足を伸ばして。
100年の歳月を越えて、 街に溶け込むモダニズム建築

星野リゾートの温泉旅館〈界〉で感じる日本各地の魅力
vol.006

posted:2025.6.26   from:大分県別府市  genre:旅行

PR 星野リゾート

〈 この連載・企画は… 〉  「王道なのに、あたらしい。」をコンセプトとした星野リゾートの温泉旅館〈界〉。
それぞれの旅館で楽しめる温泉やその地の贅沢食材をその地の調理法を使用した会席料理、
個性あふれるご当地部屋の魅力はもちろん、〈界〉施設周辺地域の風土や歴史を紹介していきます。

writer profile

Toshiya Muraoka

村岡俊也

むらおか・としや/ノンフィクション・ライター。1978年生まれ。鎌倉市出身、同市在住。著書に『穏やかなゴースト 画家・中園孔二を追って』(新潮社)、『新橋パラダイス 名物ビル残日録』(文藝春秋)、『熊を彫る人』(小学館 写真家との共著)など。

photographer

Taro Hirano

平野太呂

ひらの・たろ/写真家。1973年生まれ。東京都出身。主な著書に『POOL』(リトルモア)、『ばらばら』(星野源と共著/リトルモア)、『ボクと先輩』(晶文社)、『Los Angeles Car Club』(私家版)、『The Kings』(ELVIS PRESS)など。

経年変化の美しい、藍色のタイル

1928年に竣工した別府市公会堂には、階段をのぼった前面に背の高い扉があり、その上に同じ幅で上部だけが丸くなった窓がある。ほとんどシンメトリーの構造は、建築に威厳を付与するようで、街のシンボルを作ろうとした建築家の意気込みさえ感じられる。2016年に改修工事を終え、朽ち果てそうだった外観も建設当時を模した美しいタイル張りに生まれ変わっている。

建物前面の階段は、内部にまで続いていた。正面玄関は二階部分に相当している。改装前には会議室として使われていたというほど広い空間は、切り返しになった上部の白壁はきれいに塗り直されていたが、下部のタイルは当時のものが残されていた。藍色とも紺色ともつかないランダムな色味のタイルに、丸みのある窓からの光が差し込んでいる。影になった部分は濃く、色が揃って見える。四角形のタイルが均等に貼られているが、冷たさは感じられず、むしろ小さな歪みは、不揃いな印象よりもやわらかさを生み出している。

別府市公会堂の外観。階段を上って玄関がある、劇場らしい設え。

別府市公会堂の外観。階段を上って玄関がある、劇場らしい設え。

別府市公会堂を設計したのは、東京中央郵便局や大宮御所の設計担当として知られる吉田鉄郎だった。日本のモダニズム建築の第一人者として知られる吉田は、日本の建築や庭園に精通した人物でもあった。戦後ドイツで出版され、その評判のために逆輸入する形で日本語に訳された『日本の建築』(著・吉田鉄郎、訳・薬師寺厚、註解・伊藤ていじ)の序言に、吉田の建築に対する思いが簡潔に記されている。

「真によい建築の名に値する建築は、必ずその環境に適合し、両者の間の調和した結びつきが、その美しさを完全に発揮する」(『日本の建築』より)

 
竣工当時のパノラマ写真が、一階に展示されていた。モノクロームながら、山から海まで続く緩やかなスロープの途中に別府市公会堂が建っていることが、はっきりとわかる。その傾斜を利用して階段をのぼって玄関に入り、ホールへとつながる構造が作られたのだろう。周囲にビルはなく、当時は階段をのぼれば、海まで見晴るかすことができたかもしれない。確かめるために屋上に出た。今では周囲の建物に阻まれて、海を眺めることはできないが、振り返ると山稜と緑青色の屋根が重なっているように見えた。屋根の上に突き出した窓や構造物が、山の形と呼応しているよう。当時の写真では目立つ存在だったとがわかるが、100年を経た今では街に溶け込み、それが適切な大きさだったことがわかる。
別府の街は、山を背負い、海を向いている。その緩やかな斜面沿いに、人々は暮らしている。

別府温泉街

山の裾野から湯煙が湧き立つ別府温泉街。

モダニズム建築でフラダンス、 眩しい光はハワイのようで

屋根の上にはところどころに仏塔のような形をした石が乗っていたり、タイルが◯×模様になっていたり、モダニズムと言いながらも、単に機能美だけを追求したわけではない遊びが随所に施されている。

屋上から階段を降りてくる途中、外側から見れば上部が丸くなった窓のある部屋から、賑やかな声が聞こえていた。どうやらその時間は、フラダンスのグループが借りていたらしい。腰に巻いたハワイアンの鮮やかな布は、建物のトーンとは違和感があったが、窓からの眩しい光にはとても似合っていた。何よりモダニズム建築の重要な遺産が、日常的に使われていることに感動してしまった。

別府市内には吉田が設計した建築がもう一つ遺されている。別府市公会堂と同年に建てられた「旧別府郵便電話局電話分室」も「レンガホール」という名で親しまれており、観光協会の事務所など、現役で使われている。その周辺にはおそらく戦後すぐに建てられたと思われるトタン貼りの長屋が続く小道があった。近代は層になって積み重なり、別府にはその歴史のモザイクが建築という形で見てとれる。

公会堂にあったパノラマ写真のように、街全体を撮影したいと山側に向かい、展望台から海を眺めた。突然降り出した雨が急に止み、光が一瞬射したかと思ったら、また雲があらわれて降り始めた。目まぐるしく変わる天気と別府湾に突き出たダイアモンドヘッドのような高崎山。もしかしたら、別府とハワイは似ているのかもしれない。

別府の風景

位置関係は反対だが、ワイキキにとってのダイアモンドヘッドのように、別府には高崎山がある。

information

map

KAI Beppu 
界 別府

住所:大分県別府市北浜2-14-29

TEL:050-3134-8092(界予約センター)

https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaibeppu/

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