連載
posted:2023.5.13 from:岩手県盛岡市 genre:旅行
〈 この連載・企画は… 〉
ジャズ喫茶、ロックバー、レコードバー……。リスニングバーは、そもそも日本独自の文化です。
選曲やオーディオなど、音楽こそチャームな、音のいい店、
そんな日本独自の文化を探しに、コロカルは旅に出ることにしました。
writer profile
Akihiro Furuya
古谷昭弘
フルヤ・アキヒロ●編集者
『BRUTUS』『Casa BRUTUS』など雑誌を中心に活動。5年前にまわりにそそのかされて真空管アンプを手に入れて以来、レコードの熱が再燃。リマスターブームにも踊らされ、音楽マーケットではいいカモといえる。
credit
photographer:深水敬介
illustrator:横山寛多
音楽好きコロンボとカルロスが
リスニングバーを探す巡礼の旅、次なるディストネーションは
岩手県盛岡市。
コロンボ(以下コロ): 盛岡に行ってきました。
名前カルロス(以下カル): 盛岡といえば、
この間、〈ニューヨーク・タイムズ紙〉の
「2023年に行くべき52カ所(52 Places to Go in 2023)」でロンドンに次いで、
2番目に選ばれたじゃない。
コロ: そうなの。
掲載ナンバーは厳密には順位を意図したものではないそうだけど、
#2として、ロンドンの次に紹介されたわけだから、すごいよね。
カル: アメリカ南部のアーティストが遠く離れたニューヨークより、
ノースカロライナ州のアシュビルを選ぶように、
盛岡にも似たようの空気があるだろうね。
宮沢賢治の世界観にも惹かれるし。
コロ: 雄大なランドスケープも圧倒的だけど、
ぶっといコーヒーカルチャーがあったり、
サブカルを牽引する〈BOOKNERD〉みたいな書店があったりと、
クリエイターが生き生きと暮らすようなコミュニティがあるもんね。
カル: 今回の〈珈琲と酒 米山〉は
その〈BOOKNERD〉の店主、早坂大輔さんが
「盛岡で一番のディープカルチャースポット」と紹介している。
コロ: まあサブカルのカオスというか、ポップカルチャーのラビリンスというか、
店内はすごいことになっているんだ。
カル: 盛岡城の内丸にあるんだね。
史跡扱いにもなっている城内、お堀の中なんでしょ。
コロ: にもかかわらず新宿のゴールデン街や渋谷ののんべい横丁に似た
新旧ハイブリットな雰囲気があるんだよね。
レッドカーペットが敷かれた狭い階段を登っていくと、
うっすらとフレディ・ハバードがかかっているわけ。
カル: 昭和にタイムスリップだね。
そこに写っているカセットテープは
ビル・エヴァンスの『ポートレート・イン・ジャズ』?
カセットテープで見るの初めてだ。
コロ: しかも日本盤。
カル: もちろん鳴らせるんでしょ。
コロ: ソニーのラジカセで聴ける(笑)。
お店はほんとうにカオスでさ。
レコードやらCDやら本やら、お客さんも通れないくらいに、所狭しと置かれている。
しかも系統だった感じがまったく見受けられないんだよ。
カル: 探すのも一苦労だね。でも、マスターはわかるんだろうな。
コロ: いや、わからないんだって。
マスターの米山徹さんいわく、片づけができないそうだよ(笑)
カル: ジャズが中心なの?
コロ: よくかけるのはエリック・ドルフィーの『LAST DATE』だけど、
そうでもないみたい。
好みに偏りがあって、音楽遍歴はブルース、R&Bに始まって、パンク&ニューウェイブ。
リチャード・ヘル、テレビジョンにぞっこんだったとか。
カル: そうはいいつつ、何気にディアンジェロがあったりして偏食で雑食だね。
プリンスとかも?
コロ: 『サイン・オブ・ザ・タイムズ』の頃はかなりハマって
仙台公演はよかったんだけど、東京ドームで観たら、気持ちが離れちゃったんだって。
カル: 遠すぎたのかな?(笑)
Page 2
コロ: コーヒーは盛岡の老舗〈クラムボン〉の豆なんだよ。
カル: おっ、盛岡といえば宮沢賢治、宮沢賢治といばクラムボン。
「クラムボンはわらったよ」だね。深煎りの正統派。
盛岡はサードウェイブ系の熱い店も多いけど、
〈クラムボン〉や〈羅針盤〉など、オーセンティックな店も、また魅力。
コロ: 米山さんはもともと〈クラムボン〉で長い間、働いていたそう。
慣れた豆だから、いちばんうまく淹れられるってさ。
カル: 内丸のお堀を眺めながら飲むコーヒーいいよね。
なんだったら、『ポートレート・イン・ジャズ』のカセットで、
「枯葉」でも聴きながらも風情がある。
コロ: お店をオープンしたときに〈クラムボン〉から借りてきた
シンガーソングライター系もいいかもよ。
カル: それって、返せって言われてるんでしょ(笑)。
コロ: オーディオはハイエンドってわけじゃないけど、
配置を変えたらすこぶる鳴りがよくなったそう。
「いままで、なんだったんだ」ってくらい劇的に。
カル: スピーカーのセッティングはオーディオの基本だね。
つい面倒くさがちゃうけど、ダメだよね。
コロ: たしかにけっして広いお店じゃないんだけど、音の広がりが心地よかったな。
ラジオから流れたヴァネッサ・カールトンの「サウザンド・マイルズ」最高だったな。
カル: 地方で聴くラジオっていうのも時としてヤバいよね。
ところでお店で本も売ってるんでしょ。
コロ: もし読みたければ……、程度だけど売っている。
米山さん昼間は古本屋で働いているんだよ。
カル: だからお店のオープンが18時なんだ。
コロ: 『音楽のピクニック』の小杉武久さんもやっていた〈美学校〉の教え子、
マージナル・コンソートの演奏をボランティアで手伝ったりと、
米山さん自身がサブカルそのもの。
カル: 独自の文化を探ってる姿勢は、盛岡そのものだね。
コロ: 〈珈琲と酒 米山〉はまさにサブカルの聖地。
カル: 2023年に行くべきお店ってことだ。
information
珈琲と酒 米山
住所:岩手県盛岡市内丸5-8 2F
TEL:090-6251-1357
営業時間:18:00~22:00
定休日:日曜
【SOUND SYSTEM】
Turn Table:Technics SL-1700
Integrated Amplifier:YAMAHA CR-500(natural sound system)
Speaker:YAMAHA NS550
CD Player:SONY CDP-XE500
Radio Cassette Recorder:SONY CFS-E12
旅人
コロンボ
音楽は最高のつまみだと、レコードバーに足しげく通うロックおやじ。レイト60’sをギリギリのところで逃し、青春のど真ん中がAORと、ちとチャラい音楽嗜好だが継続は力なりと聴き続ける。
旅人
カルロス
現場としての〈GOLD〉には間に合わなかった世代だが、それなりの時間を〈YELLOW〉で過ごした音楽現場主義者。音楽を最高の共感&社交ツールとして、最近ではミュージックバーをディグる日々。
Feature 特集記事&おすすめ記事