フランスから、豊岡・竹野へ。 “知られすぎていない”町で見つけた、自分らしい暮らし
海も山もある。心地のいい、竹野という場所
兵庫県北部、日本海に面した豊岡市・竹野エリア。透明度の高い海と山々に囲まれたこの場所で、カフェ〈Cafe Coucou〉と宿〈Coucou House〉を営んでいる中田樹さん。
海までは徒歩すぐ。夏はSUPやカヤック、冬はスキーやスノーボードを楽しめる環境で、中田さん自身もサーフィンやアウトドアを楽しみながら暮らしている。

「アウトドアが好きな人にとって、豊岡は本当にいい場所なんです。海も山も近いし、まだ“知られすぎていない”。そこがすごく魅力だと思っています」。
竹野は、関西屈指の透明度を誇る海水浴場として知られる一方、近くの城崎温泉エリアほど観光地化されていない。だからこそ、地元の暮らしの空気が色濃く残っている。
「今は、観光地によっては人が集まりすぎてしまうオーバーツーリズムの問題もありますよね。でも竹野はまだ“アンダーツーリズム”に近い感覚。だからこそ、地域の人も、観光客の方も気持ちよく暮らせる余白があると思っています」。
中田さんは兵庫県南部・加西市の出身。母方の祖父母が豊岡市日高町に住んでいたため、幼少期から夏休みなどによく豊岡を訪れていた。
「小さい頃から、竹を切ったり家庭菜園を手伝ったりしていました。だから豊岡は、昔から身近な場所でしたね」。

コウノトリと農業。豊岡で見つけた可能性
高校卒業後は京都外国語大学でフランス語を専攻。卒業後はワーキングホリデーでフランスへ。そのまま現地就職を目指していたが、当時のフランスでは移民政策が厳格化し、外国人として働くハードルが高くなっていた。そんななか、中田さんはサステナビリティや一次産業への関心を深めていく。
「ちょうどパリ協定やSDGsが広がり始めた頃で、食や農業、環境問題に興味を持つようになりました」。
その後は、フランス北部・リールの大学院へ進学。農業やサステナビリティについて学びながら、日本企業のアグリテック部門への就職も決まっていた。しかし、その報告をした際、豊岡で農業を営む祖父から思いがけない言葉をかけられる。
「『農業も知らんのに、なにがアグリテックだ』と言われて。最初は、“内定おめでとう”じゃないんだ、と思いましたけど(笑)。でも、その一言がずっと頭から離れなくて。“そんなこと言うなら……“という気持ちで、祖父のいる豊岡の農業や取り組みを調べてみることにしました」。
改めて豊岡について調べるなかで、中田さんが強く惹かれたのが、豊岡市が推進していた「コウノトリ育む農法」。化学農薬に頼りすぎず、野生復帰したコウノトリと共生するための農業の仕組みだ。
「環境問題って、立場によって対立が生まれることも多い。でも豊岡では、コウノトリという存在を真ん中にして、人も農業も地域もつながっていたんです。それがすごく面白いなと思いました」。
さらに当時の豊岡市では、地域おこし協力隊の「起業型」枠がスタート。地域資源を活用した事業づくりに取り組みながら、最長2年間の任期中に市内での起業を目指すものだった。豊岡の考え方や取り組みに惹かれた中田さんは、その一期生として移住を決意する。
「コロナ禍で、フランスにいた友人が亡くなったり、家族の近くにいられない状況を経験したりして、“どこで、誰と暮らしたいのか”を改めて考えるようになりました。もともとはフランスで働き続けるつもりでしたし、日本に帰ったあとも東京で働く選択肢を考えていました。でも、コロナ禍を経て、家族と離れて都会で働くことに以前ほど魅力を感じなくなっていたんです。
そんなタイミングで豊岡の地域おこし協力隊の募集を知って、“25歳なら失敗してもやり直せるかもしれない”と思えた。最初から絶対にここで暮らし続けると決めていたわけではないですが、実際に来てみると、海や山が近い暮らしや、人との距離感が自分に合っていたんです」。
海辺で育てる、地域の人と旅人が集まる場所
地域おこし協力隊として活動していた2年間は、食育イベントや農業体験ツアー、ビーチクリーン、インバウンド向けのアグリツーリズムなど、さまざまな企画を実施。英語やフランス語を活かしながら、地域と外をつなぐ活動を続けた。一方でその活動を通して感じたのが、「地域には場所が必要」だということだった。
「地方って、“いつ行ってもここにある”ことが、安心感や信頼につながるんです。たとえば今日は休みなのかな、とか、どこで営業しているかわからないと、特に地元のおじいちゃんおばあちゃんは来づらい。だからキッチンカーなどの移動販売ではなく、地域の人が気軽に立ち寄れる場所をちゃんと作りたいと思いました」。
そうして2024年、日本海近くにカフェ〈Cafe Coucou〉をオープン。2026年には宿〈Coucou House〉も開業した。カフェの開業にあたっては、店舗設備の導入や改装費に、〈ひょうご産業活性化センター〉の「起業家支援助成金」を活用。地域からの支援も受けながら、少しずつ理想の場所を形にしていった。
店づくりの原点には、フランス留学時代に触れた量り売り文化がある。
地元で採れたものを大切にし、必要な分だけを買う。地産地消や食品ロス削減への意識が根付くフランスの暮らしに共感した中田さんは、その考え方を〈Coucou〉にも取り入れることに。グラノーラを看板商品に据えたのも、その経験があったから。
店で提供するデザートには、豊岡産のいちごや梨をはじめ、地域の農家が育てたフルーツを数多く使用。地域の恵みを身近に味わえることも、この店の魅力のひとつだ。
「農家さんと関わる中で感じたのが、“作ること”と“届けること”は別だということ。
こだわりを持って作物を育てている農家さんのなかには、自身で販路を開拓したり、お客さんに向けて情報発信をしたりしている方もいます。でも、それを続けるのって本当に大変なんです。だから、自分たちが加工や販売の“出口”になれたらと。たとえば、ここで食べたいちごパフェが美味しくて、“このいちごを作っている農家さんのところにも行ってみたい”と思ってもらえたら、地域の循環にもつながるのではと考えています」。
中田さんが目指しているのは、観光客だけの場所ではない。地域の人もふらっと訪れ、旅人と自然に交わるような場だ。
「“信頼貯金”っていう言葉が好きで。地域って、どれだけ顔を出したかとか、どれだけ時間をかけたかで関係性ができていく。効率だけでは測れない面白さがあると思っています」。
竹野はいま、オーバーツーリズムとは無縁の場所。だからこそ、まだこれからの可能性があると中田さんは話す。
「もっと人が来てほしい気持ちもあります。でも、増えすぎて地域の暮らしが壊れてしまうのは違うと思っていて。地元の人にとっても、訪れる人にとっても、心地いい観光、交流の形を作っていきたいです」。

Profile
兵庫県加西市出身。フランス留学を経て、豊岡市の地域おこし協力隊(起業型)一期生として移住。2024年にカフェ〈Cafe Coucou〉、2026年に宿〈Coucou House〉をオープン。
Information
海まで徒歩10秒。手づくりグラノーラとコーヒーを味わいながら、竹野のゆったりとした時間を楽しめる。豊岡産のフルーツを使った季節のデザートも人気。
住所:兵庫県豊岡市竹野町竹野50-3 1F|地図
TEL:0796-20-7941
Instagram:@coucou_takeno
Information
2026年オープン。海を望む一組限定の宿。キッチン付きの空間で、竹野の暮らしを身近に感じながら滞在できる。
住所:兵庫県豊岡市竹野町竹野50-3 2F|地図
TEL:0796-20-7941
Instagram:@coucou_stay