連載
posted:2024.3.20 from:北海道岩見沢市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、『みづゑ』編集長、『美術手帖』副編集長など歴任。2011年に東日本大震災をきっかけに暮らしの拠点を北海道へ移しリモートワークを行う。2015年に独立。〈森の出版社ミチクル〉を立ち上げローカルな本づくりを模索中。岩見沢市の美流渡とその周辺地区の地域活動〈みる・とーぶプロジェクト〉の代表も務める。
https://www.instagram.com/michikokurushima/
美流渡(みると)はまだまだ雪に覆われているけれど、まわりにいる動植物も、
そして私たちも春の準備に忙しくなる時期。
美流渡をはじめとする岩見沢市の東部丘陵地域のPRを行う活動を続けて今年で8年目。
毎年欠かさず更新している〈みる・とーぶマップ〉がいよいよ完成となる。
みる・とーぶとは「東部丘陵地域」を「見る」からとったもの。
この名前で、私たちは展覧会開催などの地域活動も行っている。
片面が地域のみなさんの似顔絵。
もう片面がスポットや見どころを掲載している。
制作のきっかけは、山あいのこの地域を紹介するマップがそれまでなかったことから。
当時は飲食店やショップなどが数えるほどだったこともあり、
地域の魅力をそこに住む人々の似顔絵を通じて伝えようと考えた。
東部丘陵地域のエリアごとに似顔絵を掲載。少しずつ人数が増えて現在125名。公式サイトからダウンロード可能。
毎年、更新を続けるなかで、地域の状況はさまざまに変化していった。
そして、今年のマップでは、飲食店やショップの情報が
入り切らないのではないかと思うほど件数が増えた。
その理由を一概に言うことは難しいのだが、
近年移住者が増える傾向にあることもそのひとつだと思う。
昨年の新聞記事では、人口300人ほどの美流渡地区に過去5年間で
47人が移住しており、2022年は最も多い13人が移住したとあった。
そして、田園風景や山並みに囲まれた静かな環境で、自分が思い描くビジョンを
実現したいという意識を持つ人々が集まってきているようにも思う。
東部丘陵地域はさまざまなエリアがある。
道道38号線沿いの20キロほどの間が、上志文、朝日、美流渡、毛陽、万字などの
地区に分かれていて、田んぼや果樹園があったり、
炭鉱の名残を感じさせる旧跡があったりと、それぞれに異なる歴史や個性がある。
その玄関口となる上志文には、この1年で3つの拠点が新たに生まれた。
上志文にある隠れ家的アトリエで販売を行うのは、
エディブルフラワーとロースイーツのお店〈Shunka〉と、
オーダーを中心にした花屋でブーケやアロマのワークショップも行う〈日々の花 糸〉。
また札幌と帯広で職人の縫製技術と染めの技術を伝える服づくりを行ってきた
〈giorni(ジョルニ)〉が、アトリエ兼ショップとして〈HATAKE TO GIORNI〉を開いた。
ここでは服の取り扱いだけでなく、家の周辺で育てた自然栽培の野菜の販売も行っている。
いずれも月に2回程度のオープン。
それぞれが道内の複数の地域で活動していて、ライフスタイルに合わせた運営の仕方を選んでいる。
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果樹園が広がる毛陽には、昨年ふたつのカフェがオープンした。
このエリアには、これまで飲食店は〈ログホテル メープルロッジ〉に併設されたレストランのみ。
そんなエリアにカフェができるなんて(!)と開店を知って心が躍った
(わが家からも車で5分もかからない場所)。
ひとつは〈髙柳珈琲店〉。
夫婦で楽しみながらカフェを営みたいと、実家の跡地にコンテナハウスを建てた。
妻の葉子さんは20年以上自宅でお菓子教室を開いていたそうで、
その腕前を生かして、季節のケーキを提供している。
もうひとつは〈Hugnet〉。一昨年から地域おこし推進員(協力隊)として
東部丘陵地域で活動中の魚住駿さんが、小野沙也佳さんとともに開いたカフェ。
田畑の隣にポツンと建つ一軒家を、ふたりが仲間に手を借りながら改修。
毛陽産のリンゴやナシを使ったタルトや芳醇な香りのコーヒーが味わえる。
どちらもオープンしたのは10月。
これは偶然の一致のようだけれど、この地域がますます
にぎわいのある場所になっていくのではないかという勢いのようなものが感じられた。
さらに今年新しくマップに加わったのは、幌向川ダム方面へと向かう山あいのエリアで
フランス鴨肉の生産をする〈北海道ウィングファーム〉。
飼育しているのは、全国でも珍しいバルバリー種のフランス鴨。
平飼いによる良好な環境で育てており、肉はくせがなく滑らかな口溶けが特徴。
その味が評判を呼んでおり、道内外のレストランや居酒屋、蕎麦店などにも卸しているという。
また、マップでは多彩な活動をする人々も紹介している。
そのなかで、今回新しく加わったのは〈鹿あんにゃ〉。
地域おこし推進員(協力隊)の藤嶋裕介さんが立ち上げたブランドで、
鹿肉などの加工品を製造している。
藤嶋さんは、20歳から岩見沢市のハンターに師事して狩猟の現場で経験を積み、
現在ハンターとして地域の安全を守りつつ、鹿や熊などを資源として活用する取り組みを行っている。
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こうした新しい顔ぶれのみなさんの取材は、昨年11月くらいから進め、
同時に似顔絵も描いていった。
それをマップに落とし込み、美流渡在住の画家・MAYA MAXXさんが描いた
動物のキャラクター(今年はウサギ)をはめ込んでマップを印刷所に渡したのが
2月下旬のこと。
さてさて、刷り上がったらマップを各所に配ろうと思っていた矢先に急展開が起こった。
岩見沢市内にある〈コープさっぽろ〉の敷地に無印良品が
3月15日にオープンすることになり、そのオープニングイベントとして
東部丘陵地域の作家たちを紹介する展覧会を行うこととなったのだ。
展覧会決定からオープンまで、わずか2週間(汗)。
何ができるのか未知数だったけれど、マップを配布するのにまたとない機会!
ちょうどマップをつくるために地域で活動するみなさんと連絡を取り合っていたことだし
とにかくやってみようということになった。
展覧会では作家の小品やサンプル品など集めつつ、
初日と土日祝日は実際に商品を販売することにした。
このほかショップカードの設置も呼びかけ、最終的に関わってくれたのは24組!
東部丘陵地域で活動をする人たちとともに、この地域に興味を持ってくれ、
これまでも活動に関わってくれた北海道教育大学岩見沢校の教員や学生の出品もあった。
こんなに短期間で展示ができたのは、私が代表を務める
「みる・とーぶプロジェクト実行委員会」に、
現在コアメンバーとして関わってくれているみんなの力があってこそだ。
作業の分担ができたり、運営方法で改善すべき点を見つけて動いてくれたり。
いいものをつくりたいという気持ちと、無印良品で展示をしたら
どんなことが起こるだろうというワクワク感が共有できるのが何よりうれしい。
さらには今回、急なことであったために、いろんな困りごとが起こったのだけれど、
地元の方やいつも展覧会をともにしている仲間がスーパーマンのように
要所要所で現れてくれて乗り切れた。
そして何より、MAYAさんが、いつでもみんなのことを思って、
これまでにさまざまな作品をつくってくれていたおかげで、
会場全体に心が明るくなるようなムードをつくることができた。
印刷所さんにも急いでもらって、初日オープンになんとか新しいマップも間に合うことに!
みなさん、ぜひ、「みる・とーぶとMAYA MAXXがやってきた!」展をよろしくお願いします。
土日祝日はショップもオープンしていますので、のぞきに来てください。
information
無印良品オープン記念展
みる・とーぶとMAYA MAXXがやってきた!
開催場所:無印良品コープさっぽろ岩見沢南店
住所:北海道岩見沢市美園6条8-6-15
開催日:3月15日(金)〜31日(日)
営業時間:10:00〜20:00
information
みる・とーぶshop
開催日:3月15日(金)、16日(土)、17日(日)、20日(水祝)、23日(土)、24日(日)、30日(土)、31日(日)(予定)
営業時間:10:00〜16:00(予定)
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