colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧
記事のカテゴリー

連載

MAD City vol.4:
ナホトカ食堂の人をもてなす
空間づくり

リノベのススメ
vol.014

posted:2014.1.17   from:千葉県松戸市  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer's profile

MAD City

マッドシティ

千葉県・松戸駅周辺エリアにて、まちづくりプロジェクト「MADCityプロジェクト」を推進中。クリエイターなどを誘致する不動産サービス事業「MAD City不動産」、新旧住民のコミュニティを創出するまちづくり事業に取り組み、創造的なエリアづくりを目指しています。

MAD City vol.4
リノベで、平屋の自宅をカフェのようなおもてなし空間へ。

わたしたちのオフィスからもてくてくと歩いて20分くらいの距離、
日当たりの良いのんびりとした住宅地に中村菜穂さんは住んでいます。
見た目は普通の平屋建て。でも玄関に入るととってもいい匂い。
そう、菜穂さんは、予約制のイベント「ナホトカ食堂」を、
この自宅で不定期に開催しているのです。

菜穂さんのお料理です。

とってもおいしいお料理をつくる菜穂さん。
実はお料理だけでなくおうちの内装だって自分でつくっちゃいます。
菜穂さんがDIYを始めたのはどういうきっかけだったんでしょうか。

「もともと小さいころから自分の部屋を変えてみたいと思っていました。
壁の色をこの色にしたらどうなるのかなーとかいろいろ妄想したりするのが好きで。
きっかけは10年くらい前、自分の部屋にちょうどいい家具を手に入れたくて
自作したのが始まりです」

そのときに自作した棚は今でも菜穂さんの家のリビングで活躍しています。

奥に見えるのがその棚。見せる収納としても優秀です。

「当時は今ほど情報がないし、インターネットもそこまで普及していなかったので
自分がピンとくるものをなかなか探せなかったんです。
それで、予算の兼ね合いもあって自分でつくることにしました。
棚の中に入れる収納を先に選んで、それに合わせたサイズの棚をつくったんです。
もちろん初心者だったので父にも手伝ってもらいました」

とは言え、菜穂さんは服飾の学校出身。
木工や内装の技術を専門的に学んだわけではありません。
卒業後、服飾系の会社に勤めた後思い切ってカフェに転職。
そのことが現在の活動のきっかけとなったそうです。

最初に勤めたカフェは古い家をリノベーションした建物だったそうです。
1階にカフェ、2階には、そのカフェをプロデュースしたデザイン事務所が入っていたそう。
「そこでの経験にはとても影響を受けています。
インテリアのスタイルもそうだし、お店のホスピタリティも学ぶところが多かったです」

菜穂さんにとっての理想の住まいの空間は「カフェ」。
インテリアでも「カフェ風」という言葉はよく使われます。
とはいってもカフェってシアトルスタイルのモダンな内装のものから、
古民家を改装した和のテイストを大切にしたものまでさまざまです。
菜穂さんの理想とするカフェ風とはどんなものなんでしょう。

「わたしが居心地が良いなと思える空間でお客さんをおもてなししたいと思っているので、
そのためには内装も、ホスピタリティも、お料理そのものもどれも大切な要素です。
デザインされて整った空間だけれどもメニューにはそこまで力を入れていなかったり、
ほどよく力の抜けたこだわりというんでしょうか。
例えば、インテリアとしては壁が漆喰などの天然素材で、
木が古くて、古道具の什器が置いてあるようなところ。
空間としてはホスピタリティがあって、ごはんもおいしくて、ゆったりくつろげる。
このゆったりくつろげる、というのが一番目指すところです」

結婚して台東区に住んでいた菜穂さんはその理想を叶えるために、
「ナホトカ食堂」という小さな予約制イベントを始めました。
友だちを呼んで自宅で開かれる小さな食堂。
食堂を続けていくうちに、もっと人を招きやすい空間に住みたいと思うようになったそうです。

「台東区では鉄筋の集合住宅に住んでいて、しかもエレベーターなしの5階だったんです。
集合住宅だから案内の掲示などもしにくかったし、お客さんに来ていただくのも大変だし。
しかもそのころおなかに赤ちゃんがいるのがわかったので、
思い切って実家のある松戸に戻ってみようかな? と思って物件を探し始めました」

菜穂さんと娘さんの木ノ果ちゃん。

物件を探し始めた菜穂さんが、MAD City不動産で取り扱っていた平屋に
お問い合わせをくれるまでにはそこまで時間がかかりませんでした。
菜穂さんが問い合わせてくれたのは平屋にしては新しくて、
築20年経たない3DKに小さな倉庫がついた物件。
お子さんひとりのご夫婦にはゆったりめの広さです。
食堂をやる菜穂さんにはこのゆったり感がベストマッチだったようです。

「まず平屋っていうのは絶対条件だったんです。それまでが集合住宅だったから、
平屋で小さいお庭がついていたら看板だって出しやすいので、
お客さんにとっても目印になりますし。そして人を招くということを考えると、
玄関から食堂への導線がシンプルでわかりやすいことも条件でした。
ちょうどこの家はその条件にぴったりあっていて、いいなって思ったんです。
改装ができることも大きなポイントでした」

菜穂さんは入居するとすぐさまお部屋の改装に取りかかりました。
友人の建築屋さんに頼んで大量の漆喰を購入。
助っ人にお友だちを呼んでの漆喰塗りでは、
いつも通り菜穂さんのごはんを振る舞ったそうです。

「ちょうど妊娠中だったけど、漆喰を塗るだけだったら大丈夫だし、
高くて脚立に上らなくてはいけないところは友だちにやってもらいました。
漆喰はコテで塗るとテクニックが必要なので
お風呂用のスポンジで塗っていくのがポイントです。
素人仕事だけどちゃんと漆喰の壁ができました」

ニュアンスのある壁が素敵。雑貨を飾って。

ちなみに以前住んでいたところでは改装ができなかったので、
大規模な改装はこれが初めてだったそう。
とはいってもお友だちと一緒にわいわいと塗ったので、
漆喰を塗り終わるのには3日もかからなかったそうです。

「初心者のくせに、なぜか一番お客さんに入っていただく食堂の部屋から
漆喰を塗り始めてしまったので、この部屋が一番塗り方がへたくそなんです!
そこから漆喰塗りは上達したんですが、いまでも改装に関してはわからないことが多いし、
情報収集は難しいなって思います。今後も壁に飾り棚をつけたり、押し入れの改造をしたり、
いろいろやりたいことはたくさんあるのでちょっとずつやっていきたいなーって」

改装がひと段落したところでまた食堂を再開した菜穂さん。
途中に出産と育児のためのお休みも挟み、
現在でも生活とのバランスを見て不定期ですが開催されています。
改装の甲斐あって、どこにでもある普通の平屋が大変身。
足を踏み入れると居心地の良い空間が広がります。
実はMAD City不動産のスタッフもたまにお呼ばれしてごちそうになるんです。
おいしいですよー。

食堂の日は菜穂さんこだわりの調理器具にお料理が詰まって登場します。

「カフェで働いていたときにいちばん勉強になったのは料理の段取りなんです。
そのことは今もナホトカ食堂としてイベントをするときにとてもためになっています。
でも他にも気づきがあって、いちばん楽しかったのは
カウンターに座っているお客さんと談笑しながら作業をすることだったんです。
だから自宅で食堂イベントをやるようになってからは、
わたしもお客さんも一緒に楽しめること、
そのためにもテーブルや導線の配置を工夫することをいつも考えています」

そんなコンセプトは、菜穂さんが時々開催する手作り市にも表れています。
お友だちのハンドメイド作家さんやミュージシャンを呼んで、
みんなでつくり上げる市は菜穂さんの人柄をよく表しています。

1月13日に開催されたばかりの「ななの市」。MAD CityのイベントスペースFANCLUBで開催してくれました。

自宅イベントの回数を重ねるごとに理想の姿が見えてきたという菜穂さん。

「娘も生まれたことで、自宅でイベントをやる難しさも見えてきました。
そろそろ自宅ではなくお店でお客さんをお迎えしたほうがいいタイミングかなと思っています。
もともと将来的には夫婦で食堂をやることが夢でしたし、
今後はそれを見据えていろいろ動いていこうかなと考えています」

子どもが生まれてお母さんになるということは
今までの生活ががらりと変わってしまうということだと思います。
菜穂さんは、それを制約と捉えずに新しいチャンスだと思っているそうです。

「今まで通りのやり方にこだわる必要はないと思うんです。
そのときそのときによって新しいやり方を探すほうがもっといいなと思っていて。
お店と言っても生活の延長だと思うし、
お客さんが来てくれることでハリのある生活ができることには変わりないので、
自分のできる範囲で挑戦できることを探してみればいいと思うんです」

すでにお店のディスプレイみたいにかわいい雑貨たち。

ちなみにお店を始めたら、内装は自分でやりたいですか?

「そうしたいなと思っています! 自宅とお店では内装はあんまり変わらないかもしれません。
なにぶん冒険ができないのですごいアイデアとかは湧かないんですけど……」

とは言いつつも、お客さんにくつろいでもらいたい、
一緒に楽しみたいという素敵なコンセプトを持っている菜穂さんのこと。
イベントも、将来の夢も、子育てもまだまだこれからいっぱい楽しむ予定。
そんな暮らしにしっかり寄り添うおうちを自分でつくり上げたのだから、
これからつくるお店だってきっと素敵になると思います。

information


map

MAD City(株式会社まちづクリエイティブ)

住所 千葉県松戸市本町6-8
電話 047-710-5861
http://madcity.jp/

Feature  特集記事&おすすめ記事