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中古物件の環境と構造を生かす。
海が見える週末住宅。
ルーヴィス vol.3

リノベのススメ
vol.074

posted:2015.5.27   from:神奈川県横須賀市  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。

writer's profile

Nobuyuki Fukui
福井信行

1975年神奈川県生まれ。大学中退後3年半のニート生活を経て木工所勤務。1996年よりACME FURNITUREにてアメリカ中古家具のメンテナンスと仕入れを担当。不動産会社勤務を経て、2005年に株式会社ルーヴィスを設立。2013年より木賃ディベロップメント共同主宰。2015年より費用負担型サブリースを行う「カリアゲ」をスタート。古家や再建築不可物件など流通しにくい建物の再生を試みながら活動中。

ルーヴィス vol.3
海や山、土地の息づかいを感じられる空間へ。

みなさんこんにちはルーヴィスの福井です。
今回は個人邸のリノベーションのお話です。

ルーヴィスを立ち上げて4年が過ぎると、
個人のクライアントからの依頼が増えてきました。
そんなとき神奈川県横須賀市にある、
「昭和39年に建てられた平屋を週末住宅にしたい」という依頼がありました。

クライアントからの要望は、
「頑張りすぎず、落ち着いた感じがいい」ということでした。
後日、現地を見に行くと、
その平屋は、ただの平屋ではなく、
リビングから海が見渡すことができる、眺望が最高の立地。

3棟の平屋が廊下でつながっている面白い物件で、
築50年近いとはいえ傷みも少なく、広さも十分の平屋でした。

前所有者が使っていたときに見学へ。ここは真ん中の1棟の空間。バリ風のインテリアで整えられていました。

「頑張り過ぎず」という要望でしたが、物件を見てしまうと、
「頑張りたい」気持ちで一杯になってしまったのを今でも覚えています。

それから数週間、
「頑張り過ぎず」というキーワードと
「頑張りたい」という気持ちの狭間で
もやもやしたまま初回のプレゼンテーションの日を迎えます。
今思い返しても、このプロジェクトほど
奥歯にものが挟まったようなプレゼンをした記憶はほかにないです。

プレゼンを終えると、クライアントとそのまま食事をご一緒したんですが、
僕はそのお店で、
「正直、どうすることがベストか僕自身わからなくなってしまっています」
と打ち明けました。
今振り返れば、これから請負うプロとしての言葉か? と思うのですが、
返事としては「1日、一緒に合宿してみよう」ということでした。
思い返せば、クライアントの返しも秀逸です。

そして、僕とクライアントは、家具も何もない暖炉だけある、
大きな平屋に真冬の夜に集合して、この平屋で求めている過ごし方や、
クライアントの仕事のことなど、いろんな話をして過ごしました。

前所有者の引っ越しが終わり、家具などが何もなくなった真ん中の1棟。この空間で合宿しました。

とにかく寒かったですが、
夜空が近い感じや、夜が明けていくにつれて見えてくる漁港の風景や
明け方の澄んだ空気や冬空を見て、
「自分のプレゼンしたことって、自然体じゃなかったかも」
と、この合宿を通じて感じました。
当初のプランは、すべての和室を無くすなど、
全体的に変えるようなもので、
この建物が刻んできた歴史みたいなものもすっ飛ばしていた気がします。

力みや欲のようなものが、すっかりなくなり、
新たなプランは、
左右の棟は、直したかどうかわからない程度に整え、
中央の棟を重点的にリノベーションすることに。

もともとの玄関を生かし、外壁を塗り替えるだけでフレッシュな印象に。

玄関から続く最初の棟を寝室にしました。

左端の窓は浴室です。ここにもともとあった目隠しは撤去し、開口部を広げています。デッキを右から左まで新調し、隣地に建物がないため、浴室からデッキへもアクセスできるようにしました。

なかでも手を入れた真ん中の平屋は、
海がより大きく見えるリビング棟としました。

Page 2

もともとの開口部のサイズは変えず、
サッシの枚数を減らしてワイドな木製サッシにすることにより、
視界を遮る枠が減り、海の眺望を広げました。
奥まったところにあったキッチンはリビングの中央へ移動しましたが、
キッチンカウンターは、
昔、小学校の校庭にあった手洗い場と同じような、
左官の研ぎ出し仕上げでつくるなど、
居心地よく機能的な空間を実現しつつも、
なるべく頑張らずに、整える程度に留めて仕上げていきました。

リビング。前所有者はリビングの一部を寝室として活用していたようですが、この棟だけ畳を撤去して、リビング棟として割り切りました。

リビングの左奥の壁はプロジェクターで投影し、夜は映画やミュージックビデオなどを見ることができます。

キッチンからリビングをみる。

浴室は、目隠しを撤去し、浴槽の高さを下げることで、
視界の高さも下がり、
こちらも海への視界を広げました。

床の上にあった浴槽を、床を掘り、埋め込んでいます。

玄関から一番奥にある3棟目は、静寂ある和室の空間を整えました。
少し落ち着いた雰囲気にするため、もともと使われていた赤い絨毯を変更。
色を選定し直してドイツのカーペットに新調し、
畳のヘリをカーペットとほぼ同色にしました。

中古物件の仕事は、引き出しが増えていく

この横須賀の週末住宅のプロジェクトは、
ルーヴィスを立ち上げてから50件目のプロジェクトでしたが、
まだまだプロとして未熟でした。
中古物件というのは、ひとつひとつ違っていて、
今現在で延べ600件弱のリノベーションプロジェクトに携わってきましたが、
成熟したかというとそうでもなく、未熟な状態を続けています。
予定調和ではいかない、
想定していた通りにいかないところがつくり手としては魅力的ですが、
中古物件を買う住み手にとっては、不安要素のひとつだと思います。

僕自身運転免許を取ってから、中古車を乗り継いできましたが、
中古車もひとつひとつ違います。
買ってからしばらくしてすぐオーバーヒートした車もありましたし、
直したら今度はほかの部分が調子悪くなるなど、
修理を繰り返す車もありました。
エンジンをのせ替えることになった車もありました。
家も同じで、小さなメンテナンスが必要な時もあれば、
リノベーションのような大きなメンテナンスが必要な時もあります。
新築であってもいずれはメンテナンスが必要な時期がくるので、
メンテナンスが必要なのは新築も中古も同じです。
ただし、中古物件の場合は
それぞれコンディションが違うので見極めが大切となります。

ハウスメーカー中古住宅の魅力

その見極めが難しいところですが、
以前、横浜市中区に住宅街に建つ、
築25年のハウスメーカー住宅のリノベーションをしました。
中古物件をリノベーションされる方の多くは、自分らしさの実現を求めています。
その観点から見ると、
ハウスメーカーが建てた中古住宅は「普通」と見なされてしまうようで、
リノベーションの「素材」としては敬遠されがちな傾向があります。
しかし、この物件の場合、
建物を調査したところ、耐震性能も問題はなく、断熱もしっかりとされていて、
既存の機能面は何の問題もありませんでした。

あとはメーカーが標準仕様を定めているがゆえに、
「普通」と思われてしまわれがちな構造や内装を
「普通だけど、普通じゃない」家に昇華させていきます。
このときも「普通じゃない感じでお願いします」という要望。
夫婦+お子さんふたり暮らしという家族の住まいへ、
アーティストであるクライアントと、
一緒に考えながらリノベーションしていきました。

まず、外壁を白く塗り替えました。

Page 3

1階は、玄関とリビング、キッチンを区切っていた壁を抜いて
大きなワンルームへと間取りを変え、視線が抜ける空間へ。
玄関脇には、外壁を抜いてガラスを入れた開口部を新たにつくり、
より光がまわるようになりました。
2階は洋室だけ天井を抜きましたが、間取りはそのままで内装を整えました。

キッチンからリビングダイニングをみる。

玄関の左となりにある開口部が新たにつくったもの。

右奥がキッチンになっています。

階段は、蹴込みのところだけを塗装し、踏み板は既存のまま。

2階は、和室と洋室がひとつずつあり、鉄骨むき出しの洋室は、もともとあった天井を抜いて解放感を出しました。

中古物件の性能について、不安な方には、多少のメンテナンスは必要ですが、
しっかりとした構造をもつハウスメーカー住宅はおすすめの素材だと思います。

というように、中古物件のさまざまなコンディションのなかで、
仕事が完了していき、あっという間に10年が経ってしまいました。
始めた時から、「選択肢を広げたい!」
という思いでやってきましたが、実際に選択肢を広げたのは、
僕らではなく、僕らに仕事を与えてくださったクライアントの方たちでした。
僕の未熟さから「これはさすがに難しいかも」
と思う建物もいくつかありましたが、
その都度、クライアントが僕らを鍛えてくれたように思います。

次回からは、僕らのクライアントにも登場していただき、
今までと少し違う角度からリノベーションをお伝えします。
まずは「減築」のお話から書く予定です。

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ROOVICE 
ルーヴィス

住所:横浜市南区高根町3-17-3 メトロ阪東橋駅前7F・8F

TEL:045-315-4484

http://www.roovice.com/

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