思いもしなかった心地よさ。
移住した伊豆下田、
小さなまちでの小さな暮らし
移住して、理想の暮らしに近づけてる?
伊豆下田に移住し、新しい暮らしをスタートさせて4か月。
夫の鎮生さんは看板づくりの仕事も見つかり
この土地での暮らしに少しずつ慣れてきた津留崎家。
当初イメージしていた暮らしには近づけているのか……?
でも、暮らしてみないとわからないこともあるようです。

理想の暮らしへの小さな一歩
何度かこの連載でも書いていますが
「移住したら住む家のオフグリッド化を」と考えていました。
オフグリッドとはソーラーパネルなどで家庭で使用する電気をまかない、
電力会社の送電線から切れた状態のことです。
持続可能な社会のため化石燃料や原子力に頼らない暮らしを志向する人が
オフグリッドを実現しています。
僕も自分でできることは何かないかとオフグリッド化を考えていました。
ところが、この下田に移住して4か月ほどたったいま、
家のオフグリッド化に向けて何も動き出せていない状況です。
というのも、オフグリッド化には少なからずお金がかります。
(規模や蓄電池のランクにもよりますが
最低150万円ほどといわれています。参考記事)
賃貸のいまの家をいつまで借りているのか? 借りられるのか?
情けない話ですが、先が見えないなかで、そこまでの費用をかけて
オフグリッド化をする決心がつかずにいるのです。

できることはやろうとなるべく電気を使わない暮らしを心がけています。ありがたいことに家は風遠しがよく、エアコンなしで過ごせています。
このようにオフグリッド化はまったく進んでいない状況ですが、
ここ下田で暮らし始めて当初思っていなかったほど
化石燃料に頼らずにいることがあります。
それは、車に頼りすぎずに暮らしていることです。
田舎暮らしといえば大人は1台ずつ車を持ち、どこに行くにも車で、
というイメージがあります。
でも、環境の面・家計の面からも、モノをなるべく持たずに
シンプルに暮らしたいとの考えからも、なんとか避けたいと思っていました。
そして、始まったわが家の田舎暮らしでは、車は1台、
日々の生活ではいわゆる田舎暮らしのイメージほどには車に頼っていません。
下田は人口2万人と少しという小さなまち、
そして観光地でもあり港町でもあります。
そのため、役所や商店といった日々の暮らしに必要な施設だけでなく、
海水浴場や温泉、大きな公園、道の駅、魚市場や
さまざまな飲食店などもあるのです。
わが家はそんなまちの中心地から、ぎりぎり自転車圏内という立地。
そんな立地だからこそ車に頼りすぎずに暮らせていますし、
また、その暮らしがとても心地よく楽しいのかもしれません。
田舎暮らしの新しいカタチとして、あえてこのような条件を
狙ってもよいのでは? とオススメしたいくらいです。

駅まで道のりには高低差があります。後ろに娘を乗せて行き来することを考えて電動アシスト自転車を買いました。こんな坂もすいすい登れます! 高かったでしょう? とよく言われますが、もう1台車を買う、維持することを考えたら全然安いです。

もっと規模の大きいまちや観光地では中心地から近いと家賃も高く、庭や畑のある物件はなさそうです。もっと規模の小さいまちではちょっとした買い物や用事が町内ですまないということもありそうです。車に頼らずに暮らすにはちょうどいい規模なのかもしれません。
まず、わが家から徒歩圏内には海水浴場や日帰り温泉、
公園や野菜の直売所があります。

東京で一緒に暮らしていた義姉家族が遊びに来ました。子どもたちは歩いて海まで、僕は自転車に浮き輪やらテントやらを積んで同行。この時期、海水浴場の駐車場は早い時間に混み出しますが、徒歩なら時間を気にせずに行けます。

海を臨む広場へ。夕暮れの中、子どもはスイカ割りと花火を楽しみ、大人はビール! 徒歩万歳!
多くの施設、商店や飲食店、そして看板づくりの職場がある
下田駅周辺までは2キロと少しあり、日常的に歩くのには少し遠いです。
そこで自転車が活躍しています。
平日は娘の保育園のバス停まで自転車を引っ張りながらふたりで歩き、
娘を見送ったあとは職場まで自転車に乗って行きます。
バス停まで歩いて5分。バス停から職場まで自転車で5分。

海沿いの道、潮風を浴びながらの自転車通勤。渋滞も満員電車もありません。
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暮らしてみてわかる、心地よい暮らし方
看板づくりの仕事(Vol.17参照)が終わってから駅周辺に買い物に行きます。
スーパーではその時間になると下田港であがった魚が
3割~5割引きになっていることも。
東京の値段からしたらもともとが安いのですが、
さらに値引きされて驚くような値段で地物の魚が手に入ります。
(買わずに残ってしまうと捨てられてしまうのかもと考えると
いいことをしている気にもなります)

自転車でまちを巡り買い揃えた土地の食材ばかりの食卓は、環境にも家計にも地域の経済にもよいのかと。
週末、たまにはまちに出て外食をしようか? となることも。
観光地でもある下田はまちの規模に対して飲食店が多く、
和洋中どこで食べるか悩んでしまうほどの店があるのです。
やはり自転車に乗ってまちへと出かけます。

魚料理の店〈魚助〉にて。飲みに入った店のカウンターで大将と知り合って以来、何度かお邪魔しています。観光客だけでなく地元の人でも賑わう人気店です。この日は早い時間に店先でバーベキューをしていた大将に「肉食べてきな~」とお誘いいただきました。暮らし始めたばかりの僕らをこうして受け入れてくれる大将と、このまちの懐の深さが身に沁みます。
駅周辺には他にも役所、警察署、図書館、郵便局、銀行、本屋、
家電量販店、金物屋などなどがあり、日常の生活は自転車で事足ります。

看板の仕事の昼の休憩時間に自転車で図書館へと。さまざまな施設が周辺にあるので昼休憩時にもろもろの用事を済ませています。先日は携帯電話ショップに用事があり行ったらなんと待ち時間なし! 東京の混雑ぶりが嘘のよう。

同じく看板の仕事の昼休憩、近くの公園で妻と娘がピクニックをしているというので自転車で駆けつけ合流。看板の仕事は市内のホテルや店舗の現場も多く、買い物に出ている妻と娘が通りかかり「パパ~がんばって~」との声が聞こえることもしばしば。本当に小さいまちです。悪いことできません……。

この夏、何度かお手伝いに行っている民宿〈B&Bことぶき荘〉にも自転車で。こちらは下田駅を挟んで反対側の少し離れた吉佐美というエリアにあります。約7キロ、所要時間20分。アップダウンもあるので途中苦戦していますがそれもまたいいかと。
移住する前は、こんな暮らしをするんだ! と肩肘をはっていました。
オフグリッド化もそうですが、米や野菜の自給、
水は水道水やペットボトルでなく湧き水か井戸の水で! と。
ここ下田での暮らしは、そんな理想とする暮らしとはだいぶ違っています。
そのことに対して妻はストレスを少なからず感じているようです。
全然、思い描いていた暮らしと違う……と。
僕はというと、いまのこの暮らし、これはこれでいいのでは?
と思っています。
もちろん、敷地の畑で野菜の自給を、部分的にでもオフグリッド化をと、
ここに暮らし始める前からの計画は諦めていません。
それらがなかなか実践できないことに焦るときもあります。
でも、移住前のイメージとは別に、暮らしてわかる心地よい暮らし方
というのがあるはずです。僕にとってはそれが
「なるべく車に頼らずに自分の脚で移動する暮らし」でした。

そんな暮らしは、
子どもがひとりで出歩ける年齢になったときのことを考えても、
また自分たちが歳をとって、車の運転ができない状況に
なったときのことを考えても、大きなメリットを感じます。
例えば、持続可能な社会のために
極端にストイックな暮らしを選択したとしても、
その暮らしが長続きしなければ意味がありませんし、
それは一般解にはなりません。
では、持続可能な社会での持続可能な暮らしとは、
どんな社会でのどんな暮らしだろう。
そんなことを考えながら小さなまちの片隅で楽しく暮らしています。
うろうろ歩いてこっちへと、自転車ふらふらあっちへと。
車でビュンビュン動いていると見えないものが見える気がしてきました。

information
魚助
住所:静岡県下田市1-6-8
TEL:0558-27-3330
営業時間:11:30~15:00、17:00~22:00
定休日:火曜、年末年始
information
B&Bことぶき荘

