水戸の名物と野菜がたっぷり。 水戸の朝ごはん

水戸の名物と野菜がたっぷりの、元気が出る朝ごはん。

水戸芸術館現代美術ギャラリーでボランティアをしている方に、
朝の食卓をのぞかせてもらった。
「基本はお味噌汁とご飯、それに納豆は欠かせません。
お味噌汁の代わりに、こんなふうに晩の残りの
けんちんをいただくこともありますけどね」
茨城名物でもあるけんちんは、味噌は入っていない根菜たっぷりの汁。
大根、ごぼう、にんじん、蓮根、小松菜、それに豆腐、こんにゃく、油揚げ。
野菜は、鮮度のいい有機野菜を友人に送ってもらっているのだという。
また「いもがら」と呼ばれる里芋の茎の部分も入っている。
乾燥した状態で安く売られているのだが、これが歯ごたえがあっておいしい。
柚子の香りもおいしさを引き立てるが、さらに柚子胡椒を入れて食べる。
野菜の滋味たっぷりの、元気が出る一品だ。

魚は、めざしと、いわしのみりん干し。
みりん干しは、千葉の知り合いの方からのいただき物だそう。
水戸といえばやはり納豆だが、このお宅では秘伝のタレがポイント。
梅干しとニンニクを細かく刻んでかつお節を入れ、
みりんを少したらして練ったものを長時間おいておく。
そうするとニンニクもそれほど臭みはなくなる。
これを常備してあって、納豆に混ぜるのだそう。
大根の葉とじゃこも一緒に混ぜる。
いただいてみると、ニンニクは強く主張せず、梅干しとのコンビネーションが絶妙。

偕楽園で知られる水戸は、梅の名所でもある。
このお宅も庭に梅の木があり、梅干しはその梅の木からとれた梅でつくった自家製。
梅を冷凍させておき、解凍するときに氷砂糖につけて
1か月ほどでできるという自家製梅ジュースも、とてもおいしかった。
実はこのお宅は、水戸芸術館で展覧会をしているアーティスト、
ゲルダ・シュタイナーとヨルク・レンツリンガーが
制作中に滞在していたホストファミリーなのだが、
ふたりはこの梅ジュースがとてもお気に入りだったようだ。

またこのお宅の方の亡くなったお父様がアートコレクターで、
リビングにはさまざまな骨董品や美術品が。
お庭にもそれほど大きくはないが枯山水があるという、美意識の高いお宅。
器も陶芸作家の手によるものも多く、どれもとても品があり、味わいがある。
「器は使ったほうがいいというので、
しまわないですぐ使えるようにしていたんですけど、
震災でだいぶ割れてしまったんですよ」
と笑って話してくれたが、たしかに、調度品にはひびが入ったものもあり、
その被害が少しだけ生々しく感じられた。
そんなことも吹き飛ばすような、元気の出る朝ごはん。
つくる人の元気がこちらにも伝わってきた。

ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガー 展覧会レポート 後編

目に見えないものを、意識するということ。

ゲルダとヨルクの作品には、ふだんは目に見えないものを可視化するというものもある。
『Lymphatic System(リンパ系)』という
高さ約10メートルに及ぶインスタレーションは、木の枝の先に
発泡スチロールの塊や、植物、小物などさまざまなものが結びつけられて吊されており、
そのあいだを血管のようにチューブが張り巡らされ、
ポンプによって水が循環している。
ポンプの音はまるで心音のようであり、
全体を包む「スペースブランケット」という薄いフィルムが
空調によってさわさわと揺らぐ音は、
まるで森の中で小川のせせらぎを聞いているかのような感覚を呼び起こす。
リンパはからだの免疫をつかさどる器官であり、外敵からからだを守っている。
つまり過去のウイルスの侵入を憶えており、
それにどう対処したかの記憶も持っている器官なのだ。
またリンパは放射能の影響を受けやすい器官でもある。
目に見えないものでも意識することで、さまざまな現象に注意を促すきっかけとなり、
私たちは自分たちも自然の一部だと感じることができるのかもしれない。

『Microcosm(小宇宙)』という作品は、
目には見えない微生物を映写した映像インスタレーション。
生活から排除されがちな小さな存在は、実は私たち生命の起源でもあったりする。
ミクロの世界に宇宙を見出す想像力を、この作家たちは大切にしているのだ。
またこの『Microcosm』と『Lymphatic System』は
寝そべって鑑賞することもできるようになっていて、
ついつい時間を忘れてしまいそうになる。
『Microcosm』に映し出される微生物は、ドイツのライン川の水中に棲むもの。
これはドイツで発表された作品で、そこは毎年洪水に悩まされている地域なのだという。
そこでもゲルダとヨルクは地元の人たちの話に耳を傾けて作品を制作した。
そして災害に遭っても、まちの人たちは互いに助け合うなど、
しっかりしたコミュニティが築かれていることを感じたのだという。

『Lymphatic System』では、水が循環しているのが見えるようにチューブに空気が入っている。

『Microcosm』は寝転がってみると、まるで水の中にいるかのような錯覚に陥る。

それぞれの土地で、それぞれのストーリーを発見する。

ゲルダは
「私たちが場所に関連した作品をつくるのは、
そこに関係をつくることで、作品と見てくれる人たちがつながりやすくするため。
同じものをまた別の場所での展示で使ったりするけれど、
またそこで新しい材料を手に入れて、
新しいストーリーをそれぞれの文化の中で発見していくの」
と話す。
「その土地の人にとっては見慣れているものでも、
違う土地の人から見たら特別だったり面白かったりする。
それを作品に取り入れることで、
地元の人がいままで気づかなかったことに気づくこともある。
見る人によって、別の価値や物語があるんだ」
とヨルク。

震災後の日本はふたりにどのように映ったのか。
ゲルダとヨルクはそれを声高に表現することはない。
けれどゲルダはこんなことを言ってくれた。
「私たちは震災の瞬間にここにいたわけではないから、想像するしかない。
その後の変化についても、感じることはできてもそれを言葉で説明するのは難しい。
それはみなさんの心の中にあるものだから。
でも私たちは同じ人間同士だから、きっと理解し合えると思ってるわ」
今回の展覧会には、涙を使った『Tear Reader(涙を読む人)』という作品がある。
訪れた人が涙をプレパラートにとり、その結晶が顕微鏡で見られるというもの。
涙の種類も人によって違うが、結晶の模様も人それぞれ。
結晶は1か月ほどで消え始めるが、
そのように悲しみもいつしか消えていくものなのだと、
ふたりに言われているような気がしてならない。

ふたりのスイスでの生活は、とても慎ましいものだそうだ。
庭で野菜をつくり、いろいろなものを再利用して暮らしているという生活スタイルは、
そのまま制作スタイルに結びついている。
そしてふたりの関心事は、生命、身体、精神、宇宙、科学とあらゆるものに及び、
その眼差しが作品の世界観をつくり出している。

展覧会初日には「アーティスト・イン・ギャラリー」と題し、
作家が会場で鑑賞者と交流する時間が設けられた。
フレンドリーなふたりの周囲にはすぐに人の輪ができる。
ファンの若い女性のひとりは、
自分の想いを伝えるうちに感極まってしまったのだろう、
話しているうちに泣き出してしまった。
そんなファンにも温かく接するヨルク。
そんな光景を見て、あらためてすばらしい展覧会だと感じた。
また、作家たちを支えた学芸員の門脇さや子さんの尽力は、
並々ならぬものがあっただろうということが、この充実した内容から想像できた。

最後に、展覧会のタイトルともなった「Power Sources」について、
あなたたちの力の源は何? と聞くと
「たくさんあってひと言じゃ言えないわ。
庭や家や太陽や……あらゆるところにあるの」
とゲルダは答えてくれた。
さまざまなものからパワーを得ているふたりの作品が、
また私たちのパワーともなるはずだ。

『Tear Reader』の涙の結晶も変化していく。家で採取した涙を持ってくることも可能。

悲しみの涙、あくびで出た涙、玉ねぎを切って出た涙……と涙の理由もさまざま。

『Walking Bushes(歩く茂み)』という移動できる作品も館外の広場にある。

小布施 Part4 図書館から、まちをデザインする

山崎亮 ローカルデザインスタディ
小布施編・目次

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小布施の図書館「まちとしょテラソ」で館長を務める
花井裕一郎さんを訪ねた山崎さん。
4回にわたりお二人の対談をお届けします。

コミュニティのある図書館、僕もやりたいな(笑)。

山崎

静かにしなくちゃダメ、みたいな制約が、
図書館をつまらなくさせているところ、ありますよね。

花井

ありますね。

山崎

以前、とあるまちで「全体としてはにぎやかだけど、静かな部屋がある」
という図書館を提案したことがあるんですけど、
残念ながら実現しなかったんです。

花井

うちは、館内ワンフロアがテーマなので、そこをクリアするために、
タイムシェアリングしてるんですよ。

山崎

タイムシェアリング……?

花井

そうです。たとえば夕方は学校帰りのこどもたちが集うので、
比較的にぎやかな時間。でも、18時を過ぎれば、自然と静かになるんです。
まちのひとたちが、そこをわきまえて利用してくれるようになっています。

山崎

なるほど!

花井

でしょ?

山崎

ここまできたら、ひとつ、告白していいですか。

花井

え、なんですか?

山崎

実は大学3年のときに「読書園」というのを考えたことがあるんです。
テニスしながらテニスの本が読めて、
さらにまちじゅうにある小さな小屋みたいなところのどこにでも
本が返却できるっていう……。

花井

それ、僕らも同じようなこと考えてます(笑)。
造り酒屋に酒の本があったら、
そこにはさらに酒のプロフェッショナルもいるわけだから、
より豊かな体験ができる。まちがまるごと図書館になる仕組み、みたいな。

山崎

そこにコミュニケーションが発生しますよね。

花井

まちを歩くきっかけにもなるはずです。

山崎

ああ、やっぱり、僕もやりたいなあって今でも思いますね。
そういう、コミュニティのある図書館!

花井

こどもたちのさわぎ方も、度が過ぎれば叱ることもありますから、
子育ての場でもあります。

山崎

いずれにしても、始まりにしっかりとした
「町民力」があったからこそできるていることですね。

花井

はい。町民ひとりひとりに「じぶんたちが責任を負っている」という
自覚を促すことが大事なんだと。山崎さんの本にも書いてありましたね。

窓にあしらわれたロゴデザイン

「TERRA」にはラテン語で地球、大地の意、「SOW」には種を蒔くという意味も。

まちとしょテラソ館内

日中は、陽が燦々と射し込む、開放的で明るい空間。

まちとしょテラソが、まちを変える。まちを元気にする。

山崎

とくに進歩的な取り組みなどはありますか?

花井

文書が文書を探し出す「連想検索」というシステムの導入したり、
アップルコンピューターを複数台設置して
デザインのワークショップを行ったり……。

山崎

これがうわさの連想検索ですか! すごいですね。

花井

本がまんなかにあって、衛星的に企画があり、
再び本に戻っていくようなイメージでしょうか。

山崎

書籍購入の注文も受けたって聞きましたけど。

花井

ええ。なにを隠そう、このまちには本屋さんがないんです!
だから、今年からの新たな取り組みとしてライブラリーショップも併設しました。
D&Departmentのようなセレクトショップが、
この場所でならできると思うんです。
あと、「出張まちとしょテラソ」とかね。

山崎

え、まさかよそのまちに行ったり?

花井

そうですね。まちとしょの「まち」には「待ち」の意もあるんですが、
これからの僕らは、待ってるだけじゃないぞって(笑)。

山崎

うーん、アグレッシブだなあ(笑)。
でも、そのアグレッシブさは、間違いなく
まちを元気にしていく大きなチカラです。
今後がますます楽しみになりました!

着物で読みたい本を、まちとしょテラソのスタッフが選書

「高遠・本の町をつくる会」に「出張まちとしょテラソ」が参加。着物で読みたい本を、まちとしょテラソのスタッフが選書。(写真提供:まちとしょテラソ)

山崎亮さん

僕も、コミュニティのある図書館がやりたくなってきましたよ。(山崎)

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まちとしょテラソ

「学びの場」「子育ての場」「交流の場」「情報発信の場」という4つの柱による「交流と創造を楽しむ、文化の拠点」という理念のもとで建築された小布施町立図書館。「本を貸し出す業務」だけにとどまらず、この場で未来を担うこどもたちが世界を感じ、飛び立っていくための支援や、なにかを創り出すひとの支援を通じ、町内外のひとびとの生涯学習の拠点としての「図書館」を目指している。

住所:長野県上高井郡小布施町小布施1491-2

TEL:026-247-2747

開館時間:9:00 〜 20:00

休館日:火曜

Web:http://machitoshoterrasow.com/

profile

YUICHIRO HANAI 
花井裕一郎

1962年福岡県筑豊生まれ。テレビディレクターからスタート。2000年、東京から小布施町に拠点を移し、本来の人間の姿、生き方を模索し創作。2009年より、小布施町立図書館・まちとしょテラソ館長。図書館を交流の場、ワクワクする情報を提供する場として演出している。

profile

RYO YAMAZAKI 
山崎 亮

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。

「ヌー銅セクシー・コンテスト」 第1弾結果発表

いつでもどこでもヌードの銅像たち。セクシーさは果たして……。

みうら:投稿してくれたみんな、ありがとう!
今回はさっそく「ヌー銅」の講評をしていきたいと思う。

artmakerさんの投稿(その1)
「女性なので女性のヌードには興味はありませんが、
アートを勉強していたので建築や彫刻の写真を撮るのは好きです」

みうら:取り残されてる感は否めない。しかもヌードで。

artmakerさんの投稿(その2)

みうら:よく小学生の頃、「抱擁!」なんて言って自分で自分を抱きしめたもんだ。
人間って誰もが淋しいんだってね。

artmakerさんの投稿(その3)

みうら:腋にグッとくる人(男)がいる。腋からオッパイのラインですな、要は。

きむちさんの投稿:「石垣島で最も美しいといわれる川平湾におりました。
子ども(特に男子)ってデフォルトで母のおっぱいを触りたがりますが、
この子は人魚ではないので近所のクソガキなのでしょうか。
しかし、そんなクソガキをも抱擁する人魚の愛。感じてください」

みうら:子どもも大人(男)もそこはずっと触れていたいもの。

りえっぺさんの投稿:「京都市北山植物園に鎮座するヌー銅です。
確かに、その触れない部分に、その注意書き!! 触りませんよ、ええ。
*もうこの注意書きはありませんが、ヌー銅は健在です」

みうら:確かにそこは危険でむやみに触らぬがよかろう。

ぺーちんさんの投稿:「都会のオアシス、自然と文化が共存する空間
“多摩”に住む妖精の像です。多摩でたまに見かけます。
主に朝まで飲んでしまった時に、後悔する自分をこの姿勢で見つめている気がします。
確実に会いたいときは永山駅に向かうことをお勧めします」

みうら:腹が冷えるであろう。

編集部:このコーナーでは、引き続きみなさんの投稿をお待ちしています。
ヌー銅、いやげ物、世界遺産の名前がついた店を見つけて、送ってください。
どこで見つけたかも教えてくださいね!

募集は終了しました。たくさんのご応募ありがとうございました。

ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガー 展覧会レポート 前編

震災後の水戸で開催する、過去最大規模の個展。

2月11日から水戸芸術館現代美術ギャラリーで始まった展覧会
「ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガー 
Power Sourcesー力が生まれるところ」。
制作中の一日のことは以前掲載したが、
私たちは展覧会のスタートに合わせて、ふたたび水戸を訪れた。
会場に1歩足を踏み入れた途端、思わず「わぁ」と声をあげてしまった。
そしてその高揚感は、いくつもの展示室をめぐるあいだ、ずっと続いた。
ぜひ多くの人に(現代美術に興味のない人にも!)あの作品群を肌で体感してほしい。
そう思うようなすばらしい内容だった。

ゲルダとヨルクは女性と男性のアーティストユニット。
これまで世界中で作品を発表してきており、今回は日本で5年ぶり5回目の展示。
そしてこの水戸での展覧会が、ふたりにとって世界でも過去最大規模の展覧会となる。
準備は2年前から進められていたが、その途中で東日本大震災が日本を襲った。
美術界に限らず、多くの海外からの訪問がキャンセルされ、美術に関しては、
放射能の影響を恐れて作品の貸し出しすら敬遠されたケースもあったと聞く。
そんななか、ふたりは日本での展覧会を実現させるため、コンセプトを練り直し、
約1年間、今回の展示に集中して準備を続けてきた。
いくつかの作品には、日本へのメッセージが込められているものも。
ゲルダとヨルクが来日したのは展覧会が始まる約1か月前。
通常アーティストが滞在するようなレジデンスではなく、
ボランティアスタッフのお宅にホームステイし、
どんど焼きや節分のような日本の伝統文化にも触れながら、制作を進めたそうだ。

机ごとに多様な世界が広がる『Nursery』。植物からごみのようなものまでが素材として使われている。

剥製から小さな置物まで展覧会の随所に現れる鳥は、魂を象徴する重要なモチーフ。

作家が水戸で出合った「いとしいなんでもないもの」。

もともとふたりは、展示する場所に由来する作品を数多く発表している。
たとえばアメリカのサンアントニオでの『The lost and found grotto』という作品は、
誰かが忘れていったたくさんの「忘れ物」を展示し、
それを見て、忘れていた「思い出」を思い出した人が、その思い出を書き記し、
それと引き換えに展示物を持ち帰るというもの。
展示されていた忘れ物たちは、会期終了間際には、
たくさんのストーリーが書かれたボードに変わっていた。
誰かが置き忘れていったものが、
別の誰かにとっては懐かしく、大切なものを思い出すきっかけとなったりする。
それらの背景にはひとつひとつ、記憶やストーリーがあるのだ。
サンアントニオという地名は、聖アントニウスという聖人に由来するが、
いまでも一部のキリスト教徒には、
聖アントニウスは忘れ物を見つけてくれるという伝承があるそうだ。

水戸という地名は、水の戸口と書くだけに、今回は水にまつわる作品が展示されている。
『The 4 Waters(4つの水)』という作品で、
水戸とその周辺の計4か所で採取した水を使ったドロップペインティング。
その水集めに同行させてもらったのは、以前お伝えしたとおり。
4つのキャンバスには、それぞれ異なる不思議な像が浮かび上がっている。

『Sweet Little Nothing(いとしいなんでもないもの)』の展示スタイルは、
日本で見つけたある風景にインスパイアされていて、とてもユニーク。
そこで展示されているのは、作品というにはあまりに何気ない、
でも持ち主の記憶やストーリーが詰まったもの。
その奥の部屋には、ふたりが水戸で見つけた
さまざまな「いとしいなんでもないもの」が、小さなボトルに入って並べられている。
また同じ部屋に、防犯用のペイントボールが並んでいるが、
これもゲルダたちが滞在中に見つけ、日本独特で面白いと感じたもののひとつだという。
ペイントボールはぶつけると割れて中のインクが標的につき、目印になるが、
たしかにカラフルなインクが入ったボールにしか見えないものを防犯に使うなんて、
ほかのどの国にもみられない。
そんな視点は、私たちがあらためて自国に目を向けるきっかけともなる。

ふたりの作品の大きな特徴のひとつに、変容または成長していく作品がある。
『Nursery(苗床)』というインスタレーションでは、
小学校で使う机の上にさまざまなものが並べられ、
その部屋全体で、生物の成長(死を含む)を表現している。
ここにあるクリスタルの作品は会期中に成長を続け、
鑑賞者も溶液をかけることで、クリスタルの成長に関与することができる。
きっと会期終盤には、これらの作品はまったく違う様相を見せるに違いない。
(後編につづく)

水戸で見つけた『Sweet Little Nothing』にはひとつひとつ興味深いタイトルがつけられている。

カラフルな結晶液は以前にも展示で使われたもの。結晶がつららのように伸びていく。

鑑賞者のために結晶液が用意され、これをかけることで作品を成長させていく。

小布施 Part3 「演出家」としての図書館長

山崎亮 ローカルデザインスタディ
小布施編・目次

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小布施の図書館「まちとしょテラソ」で館長を務める
花井裕一郎さんを訪ねた山崎さん。
4回にわたりお二人の対談をお届けします。

45歳で図書館長に。未知の世界への挑戦でした。

山崎

ところで、花井さんは長年、
東京で映像演出家として働いていらっしゃったんですよね。
図書にまつわる知識や資格みたいなものをお持ちだったんですか?

花井

いいえ。ありません。45歳までまったく未知の世界!
そもそも、40歳をすぎて公務員になるなんて、
自分でも思ってもいませんでしたよね。

山崎

そっか、公務員なんだ!

花井

そうなんですよ。こう見えても(笑)。町の教育部門という位置づけになります。
全国から25名の応募があって、選んでいただきました。

山崎

いまは何名で運営されているのですか。

花井

僕を含め正職員3名、臨時雇用者10名で運営しています。

山崎

館長の任期は。

花井

今のところは5年で再任なし。
なんとかならないかなあって少しあがいているところです(笑)。

山崎

あと1年かぁ……。もちろん、こういうプロジェクトは、
見直しのタイミングも大事なんですけどね。

まちとしょテラソ館内

蔵書は約7万6000冊。

建物周囲の植栽プロジェクト

建物周囲の植栽プロジェクトも、町民主体で行われる。

ここにいても、演出家としての力が生きている。

花井

僕は元々、ひとりの町民としてこの町に暮らしているわけですよ。
だからある日を境に「公務員」になったからといっても、
町民としての思いは一緒。
設計事務所、行政、町民が、それぞれの立場でそれぞれ不器用に、
ことば足らずに発するネガティブな意見を聞きながら、
それが「ワクワクする気持ち」に変わるように、
あるいは「じぶんたちがなにがしたいのか」を明確にしてみせるために、
やっぱり「演出家」としてそこにいたような気がしているんです。

山崎

それ、わかります。僕らが日本全国の現場でやっていることも、
まったくそういうことですよ!

花井

開館してからも、その立ち位置は変わりませんね。
たとえば、誰かにオススメの本を押し付けるのではなく、
そのひとがきっと読みたいだろうな、と思う本をさりげなく並べておくんです。
そうすると「じぶんで見つけた!」と思ってもらえて、
より豊かな図書館体験になるんじゃないかと考えているんですよね。

山崎

それって、まったく「ファシリテーション*」ですよね(笑)。
本人が思ってもいなかったことを「ほんの少しだけ」ピックアップして
目の前に提示すると、とても新鮮な発見として、ワクワクにつながる。
自ら「また明日も!」と思ってもらえるための、重要な仕掛けです。

花井

ターゲットは「これまで図書館に来なかったひと」なのかなって。

山崎

うん。講演を行うとき、デパートの再生を任されたときなど、
僕も同じこと考えますね。
植物園にエンターテイメント性を見事にプラスした、
イギリスの「エデン・プロジェクト」なんかはとても参考になります。

花井

仕掛けのヒントはいろんなところにある、と。

山崎

ワークショップでの会話のルール「Yes、and……」と、
花井さんの「演出力」はイコールなわけだ。

花井

おっしゃる通り! コミュニティが「なにを欲しているのか」を考えて、
演出していかなければならないと思っています。

(……to be continued!)

*ファシリテーション:グループ活動が円滑に行われるように、中立的な立場から支援、舵取りを行うこと。またはそのための技術のこと。「促進する」「容易にする」「円滑にする」「スムーズに運ばせる」が原意。

山崎亮さん

僕らが日本全国の現場でやってることと同じですね。(山崎)

花井裕一郎さん

ターゲットは「これまで図書館に来なかったひと」。(花井)

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まちとしょテラソ

「学びの場」「子育ての場」「交流の場」「情報発信の場」という4つの柱による「交流と創造を楽しむ、文化の拠点」という理念のもとで建築された小布施町立図書館。「本を貸し出す業務」だけにとどまらず、この場で未来を担うこどもたちが世界を感じ、飛び立っていくための支援や、なにかを創り出すひとの支援を通じ、町内外のひとびとの生涯学習の拠点としての「図書館」を目指している。

住所:長野県上高井郡小布施町小布施1491-2

TEL:026-247-2747

開館時間:9:00 〜 20:00

休館日:火曜

Web:http://machitoshoterrasow.com/

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YUICHIRO HANAI 
花井裕一郎

1962年福岡県筑豊生まれ。テレビディレクターからスタート。2000年、東京から小布施町に拠点を移し、本来の人間の姿、生き方を模索し創作。2009年より、小布施町立図書館・まちとしょテラソ館長。図書館を交流の場、ワクワクする情報を提供する場として演出している。

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RYO YAMAZAKI 
山崎 亮

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。

広島市現代美術館友の会 九州ツアー

美術館「友の会」が主催するアート鑑賞ツアー。

現代美術を中心に、いつも注目の企画展を開催している広島市現代美術館。
同美術館には「友の会」があり、会員はさまざまな特典を利用できるほか、
アーティストとの交流会や、おいしいワインやコーヒーを飲む会が開かれるなど、
友の会は会員同士の交流の場としての役割も果たしている。
その最たるものが「友の会」主催の鑑賞旅行。
会員以外も参加できるこのツアーは好評で、これまでも大原美術館への日帰り旅行、
犬島+直島や、金沢21世紀美術館への1泊2日のツアーを敢行してきた。
2011年12月には、熊本と霧島をめぐるツアーが開催され、編集部も同行させてもらった。
今回のツアーは、熊本県が1988年から続けてきた建築プロジェクト
「くまもとアートポリス」の見学と、鹿児島県の霧島アートの森で開催された展覧会
「高嶺格:とおくてよくみえない」の鑑賞が目的。
参加したのは、20代から60代まで、幅広い年齢層の17名。
なんと男性1名以外はすべて女性! 
友人同士で参加する方もいれば、ひとりでの参加者も。
広島市現代美術館の広報スタッフの後藤明子さんが引率してくれた。

広島から博多までは新幹線、そこから九州はすべてバスでの移動となった。
熊本市に着いて、さっそく午後から熊本県土木部建築課の方の案内により、
アートポリスの建築を見学。
くまもとアートポリスは、後世に残る文化資産としての優れた建造物をつくり、
地域の活性化を図ることをめざし、
現在は建築家の伊東豊雄がコミッショナーを務めている。
進行中の建築を含めると87もあるという、県をあげてのプロジェクトだ。
レンゾ・ピアノや安藤忠雄ら有名建築家が手がけたものもあり、
海外からの視察も毎年500人ほど訪れるという。
今回のツアーでは、旧県立図書館をスペインの建築家がリノベーションした
県立美術館分館、また、アートポリスの第1号プロジェクトであり、
奇抜なデザインが目を引く熊本北警察署、
そして山本理顕が手がけた県営保田窪第一団地などを訪れた。
これだけの建物が市内に点在しているだけでも面白く、
参加者たちも興味深そうに見学しながらシャッターを切っていた。

見学後は鹿児島に移動し、市内に宿泊。
ホテルに着いてからはもちろん自由行動だが、
後藤さんも含め10人ほどで夕食をとることに。
毎回、友の会ツアーに参加している常連のメンバーもいれば、初対面の人も。
みなさんアートが好きという共通点と、女性ばかりだったこともあり、
和やかな雰囲気でおしゃべりに花が咲いた。
こういう機会を得られるのも、このツアーの楽しいところだ。

熊本北警察署は篠原一男設計で1990年竣工。ファサードはハーフミラー。

市営託麻団地は坂本一成、長谷川逸子、松永安光の3人の建築家が協同。

関係をつくっていくことが、作品をつくるということ。

翌日は霧島に向かい、まずは焼酎工場の見学。
「明るい農村」などの銘柄で知られ、
2011年に創業100周年を迎えた霧島町蒸留所の工場を訪ねた。
新燃岳を望み、工場の下にはすぐ川が流れるという抜群の環境。
参加者たちは試飲をしたりおみやげを買ったり。
こんな観光スポットがツアーコースに入っているのも楽しい。
昼食をはさんで、いよいよメインの目的地である霧島アートの森へ。
霧島アートの森は、霧島山麓の標高約700メートル、
約13ヘクタールという広大な敷地に広がるアートスポット。
野外に常設されている彫刻作品を散策しながら楽しむことができるほか、
随時、企画展も開催されている。

「高嶺格:とおくてよくみえない」は、現代美術家・高嶺格さんの大規模な個展で、
2011年に横浜美術館で開催されたあと、広島市現代美術館、そして霧島アートの森と、
少しずつかたちを変えて展示が行われてきた。
そしてここ鹿児島は、彼のふるさとでもある。
筆者が高嶺さんを知り、その作品に圧倒されてファンとなったのは、
2005年の横浜トリエンナーレで発表された「鹿児島エスペラント」という作品。
それが今回、霧島でも展示されると聞いて、それは見たい! と思った。
この作品は、世界共通語として人工的につくられた言語「エスペラント語」と、
鹿児島の方言をモチーフにした作品で、
敷き詰められた土の上に廃材などが配置され、暗闇にエスペラント語の歌が流れる中、
さまざまなものが少しずつ浮かび上がってくるような、壮大なインスタレーション。
作品は常に部分しか見えず、その全体像を把握することはほとんどできない。
また、ここで使われている言葉、エスペラント語と鹿児島弁は、
ともに資本主義的グローバリズムによって失われていく文化を象徴しているようで、
どこかもの悲しさを感じさせる。

この日はアーティストトークが行われる日で、
展覧会最終日ということもあり、会場には多くの来場者がつめかけた。
シャイなのか高嶺さんは観客の前に姿を見せず、
「鹿児島エスペラント」の展示室の暗がりの中、鹿児島弁まじりで話し始めた。
「芸術作品というと、完璧だったり完成されたものだと思われるかもしれませんが、
僕の作品はとても不完全な部分を含んでいます。
僕の場合、いつも自分が関係がなかったものと、どう関係を結んでいくか
という作業の積み重ねが、作品になっているような気がします。
その場で出会ったり時間を共にしたりするものがあって、
それらとより面白い、発展的な関係をつくっていくことが
作品をつくることだと思っています」
長期滞在しながら京都の洞窟で制作した「在日の恋人」や、
解体される家の廃材を使った巨大な展示「大きな停止」など、
その“場”が作品に大きく影響する、高嶺さんらしい発言だ。

トーク後に、地域で作品をつくることについて、
少しだけ高嶺さんに話を聞くことができた。
「僕はその場所で機能するということを考えて作品をつくっています。
たとえば、相変わらず巨大ショッピングモールがどーんと建って、
地域社会が壊れていくようなことは起こっていますが、
文化は同じ道をたどるべきではないし、
文化をローカルに結びつけてうまく運営していこうという意識のある人たちの活動は
いろいろなところで生まれていると思います。
僕はそういう活動をサポートしたいし、
いろいろな地域でそういうことが成立することのほうが、
海外のブランド力のある国際展よりも大事だと思っています」

展示室が壮大な箱庭のような空間になった「鹿児島エスペラント」制作風景。

エスペラント語と鹿児島弁の文字が映し出されるが、意味はほぼ読み取れない。

その場所の力が異なる展覧会の魅力を引き出す。

最後に、友の会ツアーについて後藤さんに話を聞いた。
「もともと友の会ツアーは、会員数の伸び悩みの解決策として始めました。
目的地で、学芸員や担当者の解説を聞けたり、
立地的になかなか自力では行きにくいアートスポットに行くなど、
個人旅行にはない友の会ツアーならではの要素を入れるように心がけています。
会員が急激に増えるということはありませんが、毎回ご参加くださったり、
『今年は旅行やらないの?』なんてお問い合わせをくださる方々もいて、
少しずつ手応えも感じています」
今回は、広島で開催した展覧会を霧島に追いかけていくというユニークな企画。
霧島での展示を見た後藤さんは
「巡回展であっても、異なる空間の個性や、その場所の“力”のようなもの、つまり
広島という場、霧島という場、それぞれの立地や環境、歴史などがうまく引き出され、
異なる雰囲気や魅力を持った展覧会になっていることに感動しました」
たしかに、霧島の「鹿児島エスペラント」の展示室は、歩道橋のような通路があり、
そこから作品を見下ろすことができるなど建物の構造をいかした展示で、
全体の印象も横浜とは異なる感触を味わうことができた。

またこの鑑賞旅行は、美術館スタッフがすべてを決定しているのではなく、
友の会の中でもコアな10人ほどのメンバーが企画スタッフとなって、
ツアーの内容を提案しているのだそう。
その中のひとりで、ツアーの常連の女性は
「霧島アートの森は前から行きたかったのですが、
個人ではなかなか行きにくいので、今回のようなツアーで行けたらと。
個人だと作品について聞くのもちょっと気が引けてしまいますが、
解説や作家の声も聞けるのがいいですね。夜は宴会も楽しいです(笑)」
今回初めて旅行に参加したという女性は、友の会には入っていないが、
最近、同美術館に行くようになったのだという。
「現代美術ってとっつきにくいという先入観があったのですが、
知識がなくても楽しめるんだなと思って。
ひとりだと自分の知識を超えることはないけれど、こういうツアーに参加すると、
自分の知らないことに出会えたり思いもよらない発見があったりするので、
とても面白かったです。また参加したいです」

地域と地域をアートが結ぶツアー。参加者はみんな充実した笑顔で帰って行った。

小布施 Part2 まちのひとたちでつくる、まちの図書館

山崎亮 ローカルデザインスタディ
小布施編・目次

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小布施の図書館「まちとしょテラソ」で館長を務める
花井裕一郎さんを訪ねた山崎さん。
4回にわたりお二人の対談をお届けします。

本を基軸に、遠まわりをしようよ。

山崎

そういえば、昨年は「Library of theYear 2011大賞」を受賞されたんですよね。
おめでとうございます。

花井

ありがとうございます。
なんでも町民と一緒に決めていくやり方が評価されたように感じています。

山崎

新図書館建設運営委員会にいたメンバーと同じひとたちが、
ひき続きその役割を担っているんですか?

花井

いいえ、そのチームは内覧会終了後に一旦解散し、こんどはプロジェクトとして
「運営」を一緒にやってくれるひとを改めて募りました。

山崎

どんなことをやるんですか?

花井

本にまつわるあらゆる企画、です。

山崎

なんでもあり?

花井

基本的には。でも、まちとしょテラソ“らしく”
企画をブラッシュアップしてから実行しています。

山崎

うん。大切なステップですね。

花井

本に直結するよりも、あれこれ考えているうちに本にたどり着く。
そんな、ちょっとした遠回りもまた楽しいかなって。

山崎

つまりそれが、まちとしょテラソらしさ、ですね。

花井

館内のiPadがすべて貸し出し中だったときに、こどもが
「しょうがねーな、本でも読むか」って言ったことがあるんです。
そういうのがいいかなって(笑)。

山崎

心のなかでガッツポーズですね(笑)。
これまでにどんな企画が実現されたのか教えてもらえますか?

花井

たとえば、さまざまなジャンルのアーティストを講師に招く「美場テラソ」では、
美術館で行われるようなワークショップをやります。
変わったところでは、多目的室を使って
小さなこどもが「転ぶ」練習なんかもやりましたね。

山崎

図書館の概念を変えましたね……。

花井

いやあ、ここにたどりつくまで、そりゃあ大変だったんですよ。
海外の事例もいろいろとひっぱってきて提示しながら、
町民に理解を深めてもらいつつ、一方では行政を説得、説得の日々ですよ。

山崎

ペットボトルの持ち込みOK 、カフェコーナーの円卓では軽食の飲食可なんて、
相当画期的です。

花井

カフェスペースがあるのも、僕の席がカウンターの中に設けられているのも、
すべて町民によって決められたシステムなんです。

山崎

え、館長室みたいなものがないってことですか?

花井

ないんです(笑)。

なぜか人気のある「隅っこ」

なぜか人気のある「隅っこ」。会議や打ち合わせが行われることも。

ワークショップ「美場テラソ」

アートにまつわるワークショップ「美場テラソ」の光景。(写真提供:まちとしょテラソ)

ここができるまで、なにをしていたんだろう。

山崎

話を伺っていると、館内を多目的に使える感じがとてもいいですね。

花井

読書だけでなく、図面書いているひと、会議しているひと、
シンポジウムを開催しているひと……。

山崎

会話もOKなんですね!

花井

ええ。情報を共有するため、コミュニケーションには必要な行為ですからね。
ほかにも、なにやらひたすらに歩き回っている数学者とか……。

山崎

そのひと、なにしてるんですか?

花井

僕もずいぶん怪しいと思って、声をかけたんです。
そうしたら、数式を解くのに、ここでうろうろ歩き回るのが
いちばんいいんだとおっしゃって(笑)。

山崎

おもしろいなあ。ここができて、まちが変わったという実感はありますか?

花井

ありますね。最近は利用者に
「ここができるまで、なにをしてたんだろうねえ」
なんて言ってもらえて、それはもう、館長としてはうれしい限りです。

(……to be continued!)

山崎亮さん

既存の図書館の概念を変えましたね。(山崎)

花井裕一郎さん

まわり道の楽しさも伝えることができたら。(花井)

information

map

まちとしょテラソ

「学びの場」「子育ての場」「交流の場」「情報発信の場」という4つの柱による「交流と創造を楽しむ、文化の拠点」という理念のもとで建築された小布施町立図書館。「本を貸し出す業務」だけにとどまらず、この場で未来を担うこどもたちが世界を感じ、飛び立っていくための支援や、なにかを創り出すひとの支援を通じ、町内外のひとびとの生涯学習の拠点としての「図書館」を目指している。

住所:長野県上高井郡小布施町小布施1491-2

TEL:026-247-2747

開館時間:9:00 〜 20:00

休館日:火曜

Web:http://machitoshoterrasow.com/

profile

YUICHIRO HANAI 
花井裕一郎

1962年福岡県筑豊生まれ。テレビディレクターからスタート。2000年、東京から小布施町に拠点を移し、本来の人間の姿、生き方を模索し創作。2009年より、小布施町立図書館・まちとしょテラソ館長。図書館を交流の場、ワクワクする情報を提供する場として演出している。

profile

RYO YAMAZAKI 
山崎 亮

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。

ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガー 制作編

スイスのアーティストが水戸で感じたことを表現する。

水戸芸術館現代美術ギャラリーでは、2月11日から
ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガーの過去最大規模の展覧会が開催される。
ゲルダとヨルクはスイスの男女二人組アーティストで、
制作した地にまつわる伝承や風俗をとり入れた壮大なインスタレーションは、
観る者を圧倒し、国際的にも高い評価を得ている。
日本でも、2005年に開催された金沢21世紀美術館の開館記念展で
『ブレイン・フォレスト』というインスタレーションを発表して話題を呼んだ。
今回、彼らは水戸に1か月以上滞在して、水戸の地を探索し地域の人たちと交流しながら、
それらを作品に反映させるという。
彼らのフィールドワークと制作現場を取材すべく、水戸へ向かった。
取材することができたのは、来日して3日目だったが、
時差ボケも感じさせず、バイタリティあふれるふたり。
この日は、茨城県内のいくつかの水源から、
作品に使用する水を採取するために出かけるということだった。
水を使用するのは『Drop Painting』という作品で、
特殊加工されたキャンバスの上に水を滴らせ、
化学反応によって、幽霊のような不思議な絵が描かれるというもの。
当然、水の成分が異なれば異なる化学反応を起こすので、1点1点が違うものになるのだ。
さっそく担当学芸員の門脇さや子さんたちと一緒に出発。
まずは、茨城県の名所であり、日本三名瀑のひとつに数えられる「袋田の滝」へ。
駐車場から滝が一望できる展望所までの道には、土産店や飲食店などが並ぶが、
そこで気になったものがあると指さし「これは何?」と、門脇さんに聞くゲルダ。
彼女はとても好奇心旺盛のようだ。
展望所に着いた私たちは、思わず声をあげてしまった。
高さ120メートルほどもある滝が半分以上凍っている光景は、まさに絶景。
この神秘的な美しさも、彼らにインスピレーションを与えるのかもしれない。
滝には近づけないので、下流のほうでなんとか水を採取。
澄みきった、しかし手を入れると刺すように冷たい水だった。

袋田の滝の下流で澄んだ水を採取。このほか涸沼の汽水などの水を使う予定。

ふたりは土産店でひょうたんを購入。どんなかたちで展示されるか楽しみ。

そして水戸での制作と生活はつづく。

次なる目的地は、その近くの温泉。
温泉は好き? とヨルクに聞くと、笑顔で「I love it!」。
温泉水を採取するだけでなく、しばし温泉に浸かることに。
彼らのフレンドリーな人柄のせいもあり、
思わず取材であることを忘れてしまうかのような楽しいひとときだった。
結局、風景を眺め、出会った人々と話をしたりして、この日のフィールドワークは終了。
次の機会にもう2か所から水を採取することになり、
あとは水戸に戻って作業をすることに。
水戸芸術館の一室では、少しずつ制作の準備が始まっていた。
この前日には、ホームセンターで作品制作に必要なさまざまなものを購入していて、
作業台を見ると、神棚に供えるような神器、ゴム風船、虫眼鏡などが置かれている。
これらがどのように展示に使われるのか、興味津々。
彼らは、大きなポリバケツのような容器に水を入れ、
肥料用として売られている大量の尿素を溶かし始めた。
これでクリスタルを作るという。
このクリスタルの作品は、鑑賞者が溶液をかけることで、
展覧会の会期中に成長を続けるというもの。
見るたびに、かたちが変わっていく作品なのだ。
ほかにも、2週間ほどで消えてしまう涙の結晶の作品を試作していた。
彼らのユニークなアイデアが、ここで作品となって生まれてくることを考えると、
わくわくしてしまう。
最後に、彼らが滞在している家まで案内してもらった。
通常は、アーティストが滞在するためのレジデンスが用意されるのだが、
今回ゲルダとヨルクは、水戸芸術館現代美術センターのボランティアである
石崎敏子さんの家に滞在している。
現代美術センターのボランティアは
展覧会のウィークエンド・ギャラリートークでトークを担当するが、
彼女のトークを楽しみにしているファンが県外にもいるというほど、石崎さんは人気者。
彼女はほとんど英語を話さないものの、持ち前の明るさと温かい人柄で、
ゲルダとヨルクとのコミュニケーションは問題なし。
日本食が大好きだというふたりのために、ときおり手料理をつくり、
この日も、ご挨拶に寄ったつもりの門脇さんや私たち取材陣にも、
茨城名物の「けんちん」を振る舞ってくれた。
「滞在中に太りそうだわ」と笑うゲルダ。
「すぐにゲルダさんとヨルクさんの大ファンになってしまったの」
とうれしそうに話す石崎さんは、まるで彼らの日本でのお母さんのよう。
笑顔の絶えないホームステイになりそうだ。
みなさんと展覧会オープニングでの再会を約束し、水戸をあとにした私は、
展覧会が面白いものになることを確信した。
このあとも続く水戸での日々が、作家たちにとって忘れがたい体験となり、
作品に影響を与えるに違いない。
すばらしい1日を振り返りながら、
温泉の露天風呂でゲルダが発していたひとことを思い出した。
「What a beautiful day!」
(オープニング編につづく)

作業台には鳥の模型や正月のお飾りなど、さまざまな物が並ぶ。

インスタレーションのために小さな鉢や苔など、植物も準備されていた。

尿素を溶かしてクリスタルを生成。塩のクリスタルの作品も展示される予定。

小布施 Part1 「まちとしょテラソ」と 館長・花井裕一郎さんのこと

山崎亮 ローカルデザインスタディ
小布施編・目次

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プロローグ的な前回に続き、今回からは4回にわたり、
小布施の図書館「まちとしょテラソ」で館長を務める
花井裕一郎さんと山崎さんとの対談をお届けします。

まちとしょテラソはこうして生まれた。

山崎

ようやく来ることができました。なんとも気持ちのいい空間ですね!

花井

ありがとうございます。
建築のプロである山崎さんにそう言ってもらえるなんて、とても光栄です。

山崎

設計はたしか、建築家の古谷誠章(STUDIO NASCA代表、
早稲田大学理工学部教授)さんでしたよね。
小布施町とはとくに縁故のない方だと思うのですが、
どのような経緯で古谷さんが手がけることになったのですか?

花井

プロポーザル方式(企画、提案型)のコンペで、
166名の候補者のなかからファイナリストに選ばれたのが
NASCAの古谷さんだったんです。

山崎

その審査は誰が?

花井

建築家、図書館関係者、町民2名で審査を務めました。

山崎

お。町のひとも入ってるんですね。

花井

そうなんです。実はそれより以前に
旧図書館建て替えプロジェクトがスタートしていて、
一緒に新図書館(仮称)をつくりたいひと!って町民に募集がかかったんです。
そうしたらなんと50人も集まっちゃって(笑)。
町民による新図書館建設運営委員会が生まれたんです。
かくいう僕もそのひとりだったわけですけどね。

まちとしょテラソ外観

建築デザインは、古谷誠章(STUDIO NASCA代表)。

まちとしょテラソ内観

夕方、学校帰りの子どもたちが集う、ほんの少し賑やかな時間。

なんだ、こりゃ? まちとひとに心奪われた。

山崎

花井さんは、そのときにはもう小布施町の住民だったんですか?

花井

はい。ちょうど10年前、40歳のときに小布施に移住しました。

山崎

なぜ、小布施町だったんですか?

花井

フリーの映像演出家として、取材で訪れたのが最初のきっかけでした。
小布施の町おこしの立役者と称されるセーラ・マリ・カミングス
(株式会社桝一市村酒造場取締役、株式会社小布施堂取締役)を
取材しに来たんですが、セーラさんだけでなく、
彼女のまわりのひとたちの「熱さ」に触れて、「なんだ、こりゃ?」と
すっかり心を奪われてしまったんです(笑)。

山崎

そんな人間の熱さこそが、花井さんの感じていらっしゃる
「オブセリズム=目に見えないけれど、そこにあるエネルギー」の
源みたいなものなんでしょうか。

花井

その通りですね。

山崎

あ、窓の外、陽が落ちてきました……。

花井

ね! この時間もなかなかいいでしょ? 
夜は8時まで開いているのも、うちの自慢なんです。

山崎

テラソ、というネーミングもそこから?

花井

設計段階から、建物自体が暗闇を照らすあんどんのように……
という考えがあり、「照らそう」から「テラソ」が生まれました。
また、「TERRA」にはラテン語で地球、大地の意、「SOW」には種を蒔く、
という意味も込められています。

山崎

うーん、いい名前だ!

花井

山崎さんの著書『コミュニティデザイン』のなかにも書かれていましたが、
「また来たい」と思ってもらえる町、そして図書館でありたいんです。
だから「わくわく」と「おもてなし」をテーマに、
この図書館を“演出”するのが僕の使命だと思っています。

(……to be continued!)

天井部の建築デザイン

木の枝のような大きな柱が屋根を支える有機的なデザイン。

ライトアップされたまちとしょテラソ

夜のまちとしょテラソ。まるで、子供たちの未来を照らす行灯のよう。(写真提供:まちとしょテラソ)

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まちとしょテラソ

「学びの場」「子育ての場」「交流の場」「情報発信の場」という4つの柱による「交流と創造を楽しむ、文化の拠点」という理念のもとで建築された小布施町立図書館。「本を貸し出す業務」だけにとどまらず、この場で未来を担うこどもたちが世界を感じ、飛び立っていくための支援や、なにかを創り出すひとの支援を通じ、町内外のひとびとの生涯学習の拠点としての「図書館」を目指している。

住所:長野県上高井郡小布施町小布施1491-2

TEL:026-247-2747

開館時間:9:00 〜 20:00

休館日:火曜

Web:http://machitoshoterrasow.com/

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YUICHIRO HANAI 
花井裕一郎

1962年福岡県筑豊生まれ。テレビディレクターからスタート。2000年、東京から小布施町に拠点を移し、本来の人間の姿、生き方を模索し創作。2009年より、小布施町立図書館・まちとしょテラソ館長。図書館を交流の場、ワクワクする情報を提供する場として演出している。

profile

RYO YAMAZAKI 
山崎 亮

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。

会津・漆の芸術祭(後編)

作品にこめられた会津から東北へのエール

会津若松でメインの会場となったのは、嘉永三(1850)年創業の末廣酒造嘉永蔵。
歴史を感じさせる建物には、ふだんから酒造見学のお客さんも多く訪れる。
建物の中には大広間やコンサートホールまであり、
それぞれ空間をうまく使った、個性ある展示となった。
この会場に展示された三瀬夏之介さんや石川美奈子さんの作品も、
会津の伝統工芸士とのコラボレーション。
ここでも現代美術と伝統工芸の幸せな出会いを見ることができた。

また、b Preseというショップに隣接するギャラリー蔵舗に展示された、
はとさんの作品「起き上がる!東北こぼしさん」が、
今回の芸術祭を象徴しているようでとても印象深かった。
会津の伝統玩具、起き上がり小法師を使った展示で、並べられているのは、
全国各地で開催されたワークショップで参加者が漆を塗って作ったもの。
この起き上がり小法師ひとつひとつには“住民台帳”があり、
作った人それぞれが記入した起き上がり小法師の“職業”などに基づいて、
はとさんが村を作り上げたのだ。
会期中も各地でのワークショップは続き、そのたびにはとさんは
村民を少しずつ足していって村を広げ、壮大な桃源郷を作り出した。
起き上がり小法師は、倒れても倒れても起き上がる、
会津の人たちのたくましさが表れた民芸品でもある。
これらひとつひとつには、作った人たちの夢と、東北への想いがこめられているのだ。

漆の芸術祭の企画運営を手がけた福島県立博物館の小林めぐみさんは、こう話す。
「漆には長い歴史がありますが、過去のものではなくて、
いまも生きているものと考えたときに、私たち博物館の学芸員がやってきた
研究などの蓄積が、いまのアーティストや漆に携わる人たちの
バックボーンになりうるのではないかと思いました。
それを踏まえて表現の中に漆を取り入れてもらえたら
もっと会津のことや漆のことを知ってもらえるでしょう。
それが、博物館が主催する芸術祭のスタートです。
また、その場に行かないとわからないことを体感してもらえるだろうと選んだ答えが、
展示室ではなく歴史ある建造物などを展示会場とする芸術祭のスタイルです。
震災直後は、文化事業をやること自体に葛藤はありましたが、
会津は福島県のほかの地域に比べるとまだ被害が少ないですから、
だったら少しでも力のあるところが
福島を支えるために何かするべきだろうと思ったのです。
そして、いろいろな方からいただいた
“福島のために何かできないだろうか”というお話の受け皿となることが、
会津・漆の芸術祭にできることではないだろうかと」

主催者側からの一方的なアプローチでは成立しない、
まちの人たちと両思いの関係ができてこそ成立する芸術祭。
会津若松も喜多方も、みなさんが力を貸してくれたのは、
本当に幸せなことだと小林さんは言う。
古来から接着剤として重宝されてきた漆が、
いまも人と人とをつなげる役割を果たしているのかもしれない。
今年もまた、漆の芸術祭は開催される予定だ。

三瀬夏之介さんの「島台月見桃源郷」は蓬萊山と漆で祝祭的空間を生み出す。

石川美奈子さんは大広間に枯山水のような繊細な「漆庭」を作り上げた。

漆職人の村上修一さんは「わつなぎうつわ」と題し初インスタレーション。