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ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガー 制作編

ローカルアートレポート
vol.003

posted:2012.2.8  from:茨城県水戸市  genre:アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  各地で開催される展覧会やアートイベントから、
地域と結びついた作品や作家にスポットを当て、その活動をレポート。

editor's profile

Ichico Enomoto

榎本市子

えのもと・いちこ●エディター/ライター。生まれも育ちも東京郊外。得意分野は映画、美術などカルチャー全般。でもいちばん熱くなるのはサッカー観戦。

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撮影:嶋本麻利沙(THYMON)

スイスのアーティストが水戸で感じたことを表現する。

水戸芸術館現代美術ギャラリーでは、2月11日から
ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガーの過去最大規模の展覧会が開催される。
ゲルダとヨルクはスイスの男女二人組アーティストで、
制作した地にまつわる伝承や風俗をとり入れた壮大なインスタレーションは、
観る者を圧倒し、国際的にも高い評価を得ている。
日本でも、2005年に開催された金沢21世紀美術館の開館記念展で
『ブレイン・フォレスト』というインスタレーションを発表して話題を呼んだ。
今回、彼らは水戸に1か月以上滞在して、水戸の地を探索し地域の人たちと交流しながら、
それらを作品に反映させるという。
彼らのフィールドワークと制作現場を取材すべく、水戸へ向かった。
取材することができたのは、来日して3日目だったが、
時差ボケも感じさせず、バイタリティあふれるふたり。
この日は、茨城県内のいくつかの水源から、
作品に使用する水を採取するために出かけるということだった。
水を使用するのは『Drop Painting』という作品で、
特殊加工されたキャンバスの上に水を滴らせ、
化学反応によって、幽霊のような不思議な絵が描かれるというもの。
当然、水の成分が異なれば異なる化学反応を起こすので、1点1点が違うものになるのだ。
さっそく担当学芸員の門脇さや子さんたちと一緒に出発。
まずは、茨城県の名所であり、日本三名瀑のひとつに数えられる「袋田の滝」へ。
駐車場から滝が一望できる展望所までの道には、土産店や飲食店などが並ぶが、
そこで気になったものがあると指さし「これは何?」と、門脇さんに聞くゲルダ。
彼女はとても好奇心旺盛のようだ。
展望所に着いた私たちは、思わず声をあげてしまった。
高さ120メートルほどもある滝が半分以上凍っている光景は、まさに絶景。
この神秘的な美しさも、彼らにインスピレーションを与えるのかもしれない。
滝には近づけないので、下流のほうでなんとか水を採取。
澄みきった、しかし手を入れると刺すように冷たい水だった。

袋田の滝の下流で澄んだ水を採取。このほか涸沼の汽水などの水を使う予定。

ふたりは土産店でひょうたんを購入。どんなかたちで展示されるか楽しみ。

そして水戸での制作と生活はつづく。

次なる目的地は、その近くの温泉。
温泉は好き? とヨルクに聞くと、笑顔で「I love it!」。
温泉水を採取するだけでなく、しばし温泉に浸かることに。
彼らのフレンドリーな人柄のせいもあり、
思わず取材であることを忘れてしまうかのような楽しいひとときだった。
結局、風景を眺め、出会った人々と話をしたりして、この日のフィールドワークは終了。
次の機会にもう2か所から水を採取することになり、
あとは水戸に戻って作業をすることに。
水戸芸術館の一室では、少しずつ制作の準備が始まっていた。
この前日には、ホームセンターで作品制作に必要なさまざまなものを購入していて、
作業台を見ると、神棚に供えるような神器、ゴム風船、虫眼鏡などが置かれている。
これらがどのように展示に使われるのか、興味津々。
彼らは、大きなポリバケツのような容器に水を入れ、
肥料用として売られている大量の尿素を溶かし始めた。
これでクリスタルを作るという。
このクリスタルの作品は、鑑賞者が溶液をかけることで、
展覧会の会期中に成長を続けるというもの。
見るたびに、かたちが変わっていく作品なのだ。
ほかにも、2週間ほどで消えてしまう涙の結晶の作品を試作していた。
彼らのユニークなアイデアが、ここで作品となって生まれてくることを考えると、
わくわくしてしまう。
最後に、彼らが滞在している家まで案内してもらった。
通常は、アーティストが滞在するためのレジデンスが用意されるのだが、
今回ゲルダとヨルクは、水戸芸術館現代美術センターのボランティアである
石崎敏子さんの家に滞在している。
現代美術センターのボランティアは
展覧会のウィークエンド・ギャラリートークでトークを担当するが、
彼女のトークを楽しみにしているファンが県外にもいるというほど、石崎さんは人気者。
彼女はほとんど英語を話さないものの、持ち前の明るさと温かい人柄で、
ゲルダとヨルクとのコミュニケーションは問題なし。
日本食が大好きだというふたりのために、ときおり手料理をつくり、
この日も、ご挨拶に寄ったつもりの門脇さんや私たち取材陣にも、
茨城名物の「けんちん」を振る舞ってくれた。
「滞在中に太りそうだわ」と笑うゲルダ。
「すぐにゲルダさんとヨルクさんの大ファンになってしまったの」
とうれしそうに話す石崎さんは、まるで彼らの日本でのお母さんのよう。
笑顔の絶えないホームステイになりそうだ。
みなさんと展覧会オープニングでの再会を約束し、水戸をあとにした私は、
展覧会が面白いものになることを確信した。
このあとも続く水戸での日々が、作家たちにとって忘れがたい体験となり、
作品に影響を与えるに違いない。
すばらしい1日を振り返りながら、
温泉の露天風呂でゲルダが発していたひとことを思い出した。
「What a beautiful day!」
(オープニング編につづく)

作業台には鳥の模型や正月のお飾りなど、さまざまな物が並ぶ。

インスタレーションのために小さな鉢や苔など、植物も準備されていた。

尿素を溶かしてクリスタルを生成。塩のクリスタルの作品も展示される予定。

information

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ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガー
Power Sourcesー力が生まれるところ

2012年2月11日(土・祝)~5月6日(日)
水戸芸術館現代美術ギャラリー

《High Water》2011, photo: Mick Vincenz
http://arttowermito.or.jp

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