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広島市現代美術館友の会 九州ツアー

ローカルアートレポート
vol.004

posted:2012.2.15  from:鹿児島県姶良郡湧水町ほか  genre:アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  各地で開催される展覧会やアートイベントから、
地域と結びついた作品や作家にスポットを当て、その活動をレポート。

editor's profile

Ichico Enomoto

榎本市子

えのもと・いちこ●エディター/ライター。生まれも育ちも東京郊外。得意分野は映画、美術などカルチャー全般。でもいちばん熱くなるのはサッカー観戦。

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写真提供:霧島アートの森

美術館「友の会」が主催するアート鑑賞ツアー。

現代美術を中心に、いつも注目の企画展を開催している広島市現代美術館。
同美術館には「友の会」があり、会員はさまざまな特典を利用できるほか、
アーティストとの交流会や、おいしいワインやコーヒーを飲む会が開かれるなど、
友の会は会員同士の交流の場としての役割も果たしている。
その最たるものが「友の会」主催の鑑賞旅行。
会員以外も参加できるこのツアーは好評で、これまでも大原美術館への日帰り旅行、
犬島+直島や、金沢21世紀美術館への1泊2日のツアーを敢行してきた。
2011年12月には、熊本と霧島をめぐるツアーが開催され、編集部も同行させてもらった。
今回のツアーは、熊本県が1988年から続けてきた建築プロジェクト
「くまもとアートポリス」の見学と、鹿児島県の霧島アートの森で開催された展覧会
「高嶺格:とおくてよくみえない」の鑑賞が目的。
参加したのは、20代から60代まで、幅広い年齢層の17名。
なんと男性1名以外はすべて女性! 
友人同士で参加する方もいれば、ひとりでの参加者も。
広島市現代美術館の広報スタッフの後藤明子さんが引率してくれた。

広島から博多までは新幹線、そこから九州はすべてバスでの移動となった。
熊本市に着いて、さっそく午後から熊本県土木部建築課の方の案内により、
アートポリスの建築を見学。
くまもとアートポリスは、後世に残る文化資産としての優れた建造物をつくり、
地域の活性化を図ることをめざし、
現在は建築家の伊東豊雄がコミッショナーを務めている。
進行中の建築を含めると87もあるという、県をあげてのプロジェクトだ。
レンゾ・ピアノや安藤忠雄ら有名建築家が手がけたものもあり、
海外からの視察も毎年500人ほど訪れるという。
今回のツアーでは、旧県立図書館をスペインの建築家がリノベーションした
県立美術館分館、また、アートポリスの第1号プロジェクトであり、
奇抜なデザインが目を引く熊本北警察署、
そして山本理顕が手がけた県営保田窪第一団地などを訪れた。
これだけの建物が市内に点在しているだけでも面白く、
参加者たちも興味深そうに見学しながらシャッターを切っていた。

見学後は鹿児島に移動し、市内に宿泊。
ホテルに着いてからはもちろん自由行動だが、
後藤さんも含め10人ほどで夕食をとることに。
毎回、友の会ツアーに参加している常連のメンバーもいれば、初対面の人も。
みなさんアートが好きという共通点と、女性ばかりだったこともあり、
和やかな雰囲気でおしゃべりに花が咲いた。
こういう機会を得られるのも、このツアーの楽しいところだ。

熊本北警察署は篠原一男設計で1990年竣工。ファサードはハーフミラー。

市営託麻団地は坂本一成、長谷川逸子、松永安光の3人の建築家が協同。

関係をつくっていくことが、作品をつくるということ。

翌日は霧島に向かい、まずは焼酎工場の見学。
「明るい農村」などの銘柄で知られ、
2011年に創業100周年を迎えた霧島町蒸留所の工場を訪ねた。
新燃岳を望み、工場の下にはすぐ川が流れるという抜群の環境。
参加者たちは試飲をしたりおみやげを買ったり。
こんな観光スポットがツアーコースに入っているのも楽しい。
昼食をはさんで、いよいよメインの目的地である霧島アートの森へ。
霧島アートの森は、霧島山麓の標高約700メートル、
約13ヘクタールという広大な敷地に広がるアートスポット。
野外に常設されている彫刻作品を散策しながら楽しむことができるほか、
随時、企画展も開催されている。

「高嶺格:とおくてよくみえない」は、現代美術家・高嶺格さんの大規模な個展で、
2011年に横浜美術館で開催されたあと、広島市現代美術館、そして霧島アートの森と、
少しずつかたちを変えて展示が行われてきた。
そしてここ鹿児島は、彼のふるさとでもある。
筆者が高嶺さんを知り、その作品に圧倒されてファンとなったのは、
2005年の横浜トリエンナーレで発表された「鹿児島エスペラント」という作品。
それが今回、霧島でも展示されると聞いて、それは見たい! と思った。
この作品は、世界共通語として人工的につくられた言語「エスペラント語」と、
鹿児島の方言をモチーフにした作品で、
敷き詰められた土の上に廃材などが配置され、暗闇にエスペラント語の歌が流れる中、
さまざまなものが少しずつ浮かび上がってくるような、壮大なインスタレーション。
作品は常に部分しか見えず、その全体像を把握することはほとんどできない。
また、ここで使われている言葉、エスペラント語と鹿児島弁は、
ともに資本主義的グローバリズムによって失われていく文化を象徴しているようで、
どこかもの悲しさを感じさせる。

この日はアーティストトークが行われる日で、
展覧会最終日ということもあり、会場には多くの来場者がつめかけた。
シャイなのか高嶺さんは観客の前に姿を見せず、
「鹿児島エスペラント」の展示室の暗がりの中、鹿児島弁まじりで話し始めた。
「芸術作品というと、完璧だったり完成されたものだと思われるかもしれませんが、
僕の作品はとても不完全な部分を含んでいます。
僕の場合、いつも自分が関係がなかったものと、どう関係を結んでいくか
という作業の積み重ねが、作品になっているような気がします。
その場で出会ったり時間を共にしたりするものがあって、
それらとより面白い、発展的な関係をつくっていくことが
作品をつくることだと思っています」
長期滞在しながら京都の洞窟で制作した「在日の恋人」や、
解体される家の廃材を使った巨大な展示「大きな停止」など、
その“場”が作品に大きく影響する、高嶺さんらしい発言だ。

トーク後に、地域で作品をつくることについて、
少しだけ高嶺さんに話を聞くことができた。
「僕はその場所で機能するということを考えて作品をつくっています。
たとえば、相変わらず巨大ショッピングモールがどーんと建って、
地域社会が壊れていくようなことは起こっていますが、
文化は同じ道をたどるべきではないし、
文化をローカルに結びつけてうまく運営していこうという意識のある人たちの活動は
いろいろなところで生まれていると思います。
僕はそういう活動をサポートしたいし、
いろいろな地域でそういうことが成立することのほうが、
海外のブランド力のある国際展よりも大事だと思っています」

展示室が壮大な箱庭のような空間になった「鹿児島エスペラント」制作風景。

エスペラント語と鹿児島弁の文字が映し出されるが、意味はほぼ読み取れない。

その場所の力が異なる展覧会の魅力を引き出す。

最後に、友の会ツアーについて後藤さんに話を聞いた。
「もともと友の会ツアーは、会員数の伸び悩みの解決策として始めました。
目的地で、学芸員や担当者の解説を聞けたり、
立地的になかなか自力では行きにくいアートスポットに行くなど、
個人旅行にはない友の会ツアーならではの要素を入れるように心がけています。
会員が急激に増えるということはありませんが、毎回ご参加くださったり、
『今年は旅行やらないの?』なんてお問い合わせをくださる方々もいて、
少しずつ手応えも感じています」
今回は、広島で開催した展覧会を霧島に追いかけていくというユニークな企画。
霧島での展示を見た後藤さんは
「巡回展であっても、異なる空間の個性や、その場所の“力”のようなもの、つまり
広島という場、霧島という場、それぞれの立地や環境、歴史などがうまく引き出され、
異なる雰囲気や魅力を持った展覧会になっていることに感動しました」
たしかに、霧島の「鹿児島エスペラント」の展示室は、歩道橋のような通路があり、
そこから作品を見下ろすことができるなど建物の構造をいかした展示で、
全体の印象も横浜とは異なる感触を味わうことができた。

またこの鑑賞旅行は、美術館スタッフがすべてを決定しているのではなく、
友の会の中でもコアな10人ほどのメンバーが企画スタッフとなって、
ツアーの内容を提案しているのだそう。
その中のひとりで、ツアーの常連の女性は
「霧島アートの森は前から行きたかったのですが、
個人ではなかなか行きにくいので、今回のようなツアーで行けたらと。
個人だと作品について聞くのもちょっと気が引けてしまいますが、
解説や作家の声も聞けるのがいいですね。夜は宴会も楽しいです(笑)」
今回初めて旅行に参加したという女性は、友の会には入っていないが、
最近、同美術館に行くようになったのだという。
「現代美術ってとっつきにくいという先入観があったのですが、
知識がなくても楽しめるんだなと思って。
ひとりだと自分の知識を超えることはないけれど、こういうツアーに参加すると、
自分の知らないことに出会えたり思いもよらない発見があったりするので、
とても面白かったです。また参加したいです」

地域と地域をアートが結ぶツアー。参加者はみんな充実した笑顔で帰って行った。

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