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ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガー 展覧会レポート 前編

ローカルアートレポート
vol.005

posted:2012.2.22  from:茨城県水戸市  genre:アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  各地で開催される展覧会やアートイベントから、
地域と結びついた作品や作家にスポットを当て、その活動をレポート。

editor's profile

Ichico Enomoto

榎本市子

えのもと・いちこ●エディター/ライター。生まれも育ちも東京郊外。得意分野は映画、美術などカルチャー全般。でもいちばん熱くなるのはサッカー観戦。

credit

撮影:嶋本麻利沙(THYMON)

震災後の水戸で開催する、過去最大規模の個展。

2月11日から水戸芸術館現代美術ギャラリーで始まった展覧会
「ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガー 
Power Sourcesー力が生まれるところ」。
制作中の一日のことは以前掲載したが、
私たちは展覧会のスタートに合わせて、ふたたび水戸を訪れた。
会場に1歩足を踏み入れた途端、思わず「わぁ」と声をあげてしまった。
そしてその高揚感は、いくつもの展示室をめぐるあいだ、ずっと続いた。
ぜひ多くの人に(現代美術に興味のない人にも!)あの作品群を肌で体感してほしい。
そう思うようなすばらしい内容だった。

ゲルダとヨルクは女性と男性のアーティストユニット。
これまで世界中で作品を発表してきており、今回は日本で5年ぶり5回目の展示。
そしてこの水戸での展覧会が、ふたりにとって世界でも過去最大規模の展覧会となる。
準備は2年前から進められていたが、その途中で東日本大震災が日本を襲った。
美術界に限らず、多くの海外からの訪問がキャンセルされ、美術に関しては、
放射能の影響を恐れて作品の貸し出しすら敬遠されたケースもあったと聞く。
そんななか、ふたりは日本での展覧会を実現させるため、コンセプトを練り直し、
約1年間、今回の展示に集中して準備を続けてきた。
いくつかの作品には、日本へのメッセージが込められているものも。
ゲルダとヨルクが来日したのは展覧会が始まる約1か月前。
通常アーティストが滞在するようなレジデンスではなく、
ボランティアスタッフのお宅にホームステイし、
どんど焼きや節分のような日本の伝統文化にも触れながら、制作を進めたそうだ。

机ごとに多様な世界が広がる『Nursery』。植物からごみのようなものまでが素材として使われている。

剥製から小さな置物まで展覧会の随所に現れる鳥は、魂を象徴する重要なモチーフ。

作家が水戸で出合った「いとしいなんでもないもの」。

もともとふたりは、展示する場所に由来する作品を数多く発表している。
たとえばアメリカのサンアントニオでの『The lost and found grotto』という作品は、
誰かが忘れていったたくさんの「忘れ物」を展示し、
それを見て、忘れていた「思い出」を思い出した人が、その思い出を書き記し、
それと引き換えに展示物を持ち帰るというもの。
展示されていた忘れ物たちは、会期終了間際には、
たくさんのストーリーが書かれたボードに変わっていた。
誰かが置き忘れていったものが、
別の誰かにとっては懐かしく、大切なものを思い出すきっかけとなったりする。
それらの背景にはひとつひとつ、記憶やストーリーがあるのだ。
サンアントニオという地名は、聖アントニウスという聖人に由来するが、
いまでも一部のキリスト教徒には、
聖アントニウスは忘れ物を見つけてくれるという伝承があるそうだ。

水戸という地名は、水の戸口と書くだけに、今回は水にまつわる作品が展示されている。
『The 4 Waters(4つの水)』という作品で、
水戸とその周辺の計4か所で採取した水を使ったドロップペインティング。
その水集めに同行させてもらったのは、以前お伝えしたとおり。
4つのキャンバスには、それぞれ異なる不思議な像が浮かび上がっている。

『Sweet Little Nothing(いとしいなんでもないもの)』の展示スタイルは、
日本で見つけたある風景にインスパイアされていて、とてもユニーク。
そこで展示されているのは、作品というにはあまりに何気ない、
でも持ち主の記憶やストーリーが詰まったもの。
その奥の部屋には、ふたりが水戸で見つけた
さまざまな「いとしいなんでもないもの」が、小さなボトルに入って並べられている。
また同じ部屋に、防犯用のペイントボールが並んでいるが、
これもゲルダたちが滞在中に見つけ、日本独特で面白いと感じたもののひとつだという。
ペイントボールはぶつけると割れて中のインクが標的につき、目印になるが、
たしかにカラフルなインクが入ったボールにしか見えないものを防犯に使うなんて、
ほかのどの国にもみられない。
そんな視点は、私たちがあらためて自国に目を向けるきっかけともなる。

ふたりの作品の大きな特徴のひとつに、変容または成長していく作品がある。
『Nursery(苗床)』というインスタレーションでは、
小学校で使う机の上にさまざまなものが並べられ、
その部屋全体で、生物の成長(死を含む)を表現している。
ここにあるクリスタルの作品は会期中に成長を続け、
鑑賞者も溶液をかけることで、クリスタルの成長に関与することができる。
きっと会期終盤には、これらの作品はまったく違う様相を見せるに違いない。
(後編につづく)

水戸で見つけた『Sweet Little Nothing』にはひとつひとつ興味深いタイトルがつけられている。

カラフルな結晶液は以前にも展示で使われたもの。結晶がつららのように伸びていく。

鑑賞者のために結晶液が用意され、これをかけることで作品を成長させていく。

information

map

ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガー
Power Sourcesー力がうまれるところ

2012年2月11日(土・祝)〜5月6日(日)
水戸芸術館現代美術ギャラリー
9:30〜18:00(入場は17:30まで)
月曜休館(月曜日が祝日の場合は火曜日)

《High Water》2011, photo: Mick Vincenz
http://arttowermito.or.jp

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