会津・漆の芸術祭(後編)

作品にこめられた会津から東北へのエール

会津若松でメインの会場となったのは、嘉永三(1850)年創業の末廣酒造嘉永蔵。
歴史を感じさせる建物には、ふだんから酒造見学のお客さんも多く訪れる。
建物の中には大広間やコンサートホールまであり、
それぞれ空間をうまく使った、個性ある展示となった。
この会場に展示された三瀬夏之介さんや石川美奈子さんの作品も、
会津の伝統工芸士とのコラボレーション。
ここでも現代美術と伝統工芸の幸せな出会いを見ることができた。

また、b Preseというショップに隣接するギャラリー蔵舗に展示された、
はとさんの作品「起き上がる!東北こぼしさん」が、
今回の芸術祭を象徴しているようでとても印象深かった。
会津の伝統玩具、起き上がり小法師を使った展示で、並べられているのは、
全国各地で開催されたワークショップで参加者が漆を塗って作ったもの。
この起き上がり小法師ひとつひとつには“住民台帳”があり、
作った人それぞれが記入した起き上がり小法師の“職業”などに基づいて、
はとさんが村を作り上げたのだ。
会期中も各地でのワークショップは続き、そのたびにはとさんは
村民を少しずつ足していって村を広げ、壮大な桃源郷を作り出した。
起き上がり小法師は、倒れても倒れても起き上がる、
会津の人たちのたくましさが表れた民芸品でもある。
これらひとつひとつには、作った人たちの夢と、東北への想いがこめられているのだ。

漆の芸術祭の企画運営を手がけた福島県立博物館の小林めぐみさんは、こう話す。
「漆には長い歴史がありますが、過去のものではなくて、
いまも生きているものと考えたときに、私たち博物館の学芸員がやってきた
研究などの蓄積が、いまのアーティストや漆に携わる人たちの
バックボーンになりうるのではないかと思いました。
それを踏まえて表現の中に漆を取り入れてもらえたら
もっと会津のことや漆のことを知ってもらえるでしょう。
それが、博物館が主催する芸術祭のスタートです。
また、その場に行かないとわからないことを体感してもらえるだろうと選んだ答えが、
展示室ではなく歴史ある建造物などを展示会場とする芸術祭のスタイルです。
震災直後は、文化事業をやること自体に葛藤はありましたが、
会津は福島県のほかの地域に比べるとまだ被害が少ないですから、
だったら少しでも力のあるところが
福島を支えるために何かするべきだろうと思ったのです。
そして、いろいろな方からいただいた
“福島のために何かできないだろうか”というお話の受け皿となることが、
会津・漆の芸術祭にできることではないだろうかと」

主催者側からの一方的なアプローチでは成立しない、
まちの人たちと両思いの関係ができてこそ成立する芸術祭。
会津若松も喜多方も、みなさんが力を貸してくれたのは、
本当に幸せなことだと小林さんは言う。
古来から接着剤として重宝されてきた漆が、
いまも人と人とをつなげる役割を果たしているのかもしれない。
今年もまた、漆の芸術祭は開催される予定だ。

三瀬夏之介さんの「島台月見桃源郷」は蓬萊山と漆で祝祭的空間を生み出す。

石川美奈子さんは大広間に枯山水のような繊細な「漆庭」を作り上げた。

漆職人の村上修一さんは「わつなぎうつわ」と題し初インスタレーション。

editor profile

えのもと・いちこ●エディター/ライター。生まれも育ちも東京郊外。得意分野は映画、美術などカルチャー全般。でもいちばん熱くなるのはサッカー観戦。

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