連載
posted:2012.1.9 from:福島県会津若松市 genre:アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
各地で開催される展覧会やアートイベントから、
地域と結びついた作品や作家にスポットを当て、その活動をレポート。
editor profile
Ichico Enomoto
榎本市子
えのもと・いちこ●エディター/ライター。生まれも育ちも東京郊外。得意分野は映画、美術などカルチャー全般。でもいちばん熱くなるのはサッカー観戦。
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撮影:ただ(ゆかい)
2011年10月1日から11月23日まで、
会津若松市と喜多方市で開催された「会津・漆の芸術祭」。
前年に引き続き2度目の開催となったが、準備の段階で震災が起こり、
一時は開催が危ぶまれた。
しかし、こんなときだからこそアートの力による再生を信じ、
「東北へのエール」というサブタイトルを掲げての開催となった。
編集部は、会期終了間際の会津若松を訪ねた。
参加アーティストは、地元の工芸作家から、
通常は漆を使うことのないアーティストまで実に多彩。
また、会津短期大学や東北芸術工科大学、東京藝術大学など
大学の研究室やワークショップなど、プロジェクトとしての参加作品も多い。
漆を扱うプロから、漆になじみのない人まで、
漆という会津に古くから根づく素材を使って作品を制作しているのが、この芸術祭の特徴だ。
会場は、会津若松と喜多方合わせて全38カ所。
回るのも大変だが、歴史ある酒造や、
古い建物をリノベーションした店舗などが会場になっており、
まち並みを散策する気分で作品を鑑賞できるようになっている。
そして、これだけの会場があるということは、
地元住民の方々の理解と協力なしには成り立たないということだ。
美術家、小沢剛さんの作品の展示会場となった井上一夫商店も、
古美術を扱う小さな商店で、1階は通常通りの営業、2階が展示会場になった。
店主の井上さんも鑑賞者を温かく迎え入れ、
小沢さんの作品のすばらしさを多くの人に知ってほしいという想いが伝わってきた。
小沢さんの作品「できるかな2010」(2010-2011)は、
2010年に東京の府中市美術館で発表された作品の会津バージョンで、
亡くなった義母の箪笥や、紙袋や端布などの日用品を使ったインスタレーション。
一見、布の柄のように見える模様は、
布の上からまったく同じ模様が油絵の具で描かれており、
記憶をたどるように丁寧に模様をなぞり、故人と向き合うような作品だ。
今回は、会津の蒔絵師、本田充さんの手を借りて、漆の技法を用い、
箪笥の引き出しの前面に木目の模様を施した。
これも一見わかりにくいが、木の模様に見えるのは漆で描かれたもの。
このように、現地の職人とアーティストのコラボレーションで作品が生まれるのも、
この芸術祭の面白さ。
本田さんは「なかなかできない経験なので、面白かったです。
漆は難しいという先入観があるかもしれませんが、
漆を使ったことのない人に使ってもらって、素材の面白さを知ってもらえれば」と話す。
小沢さんは前回の漆の芸術祭にも参加しているが、ふだんは作品に漆を使うことはない。
「職人さんと接することもあまりないですが、
塗料を筆先につけて滑らせる快感は、分かち合える気がしました。
この芸術祭は、漆という伝統の素材をテーマにしているよさがあると思います」と小沢さん。
小沢さんは、越後妻有「大地の芸術祭」などにも参加し、地域で滞在制作することも多い。
「いままで僕は現代美術って都市で発生するものだと信じていました。
ある程度、知識や前提がないと理解しにくいですから。
僕なんて制作中、ただの作業員だと思われて、
ストレートでシビアな感想を言われたりしますけど(笑)。
でもそれだけ、美術館やギャラリーに守られていない、
アートにとって無防備な場所で勝負する面白さがあります。
この十数年で、地域の芸術祭などが増えてきていますが、
それが可能になってきたのは美術界も変わってきているから。
上から目線ではなくて、作品のほうから見る人に
関係性をつなげていきやすい仕掛けを作ったり、
参加しやすい作品が増えているという傾向が、世界的な潮流としてもあると思います」
まちの小さな展示会場は、ホワイトキューブを飛び出した美術作家の挑戦の場でもあるのだ。
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