誰も取りこぼさない。NPO法人ガクソーが守る珠洲の居場所〈海浜あみだ湯〉〈みんなのいえ〉
似た者同士が、同じ時期に珠洲へ来た
金沢美術工芸大学を卒業した新谷健太さんが珠洲へやってきたのは2017年4月。珠洲の地域おこし協力の選考を通過し、美大の同級生と共に一軒家を購入して珠洲へ移住。ゲストハウスを運営したり、他の仕事をする中で、〈海浜あみだ湯〉に常連客として通うことになった。
北澤晋太郎さんは、東京の大学を卒業後、オンラインサロンを運営する会社に就職。規模拡大するにつれ当初描いていた方向性にギャップを感じ事業を売却。そして、高校時代からずっと心に残っていた中沢新一氏の著書で見つけた「さしすせそから始まる土地には神が宿っている」という言葉に誘われるように、珠洲へ2017年7月に移住した。

「僕もシンケン(新谷さんの愛称)も同じような時期に珠洲へ来て、似たようなことを考えていたんです。彼はアーティストであり政治に関心があった。僕は政治学科を卒業していると同時にアートの手法について関心がある。視点は異なるんだけど同じ対象を見ていたんです」(北澤さん)
その後、2019年には、額縁屋さんの跡地を借りて拠点とし、前身となる中田文化額装店を始動。さらに仲間が集い2021年〈NPO法人ガクソー〉が誕生した。

好きな場所を、消したくなかった
新谷さんも北澤さんも常連客として海浜あみだ湯へ通っていた。先代は高齢のため後継者を探していた時期であり、二人に白羽の矢がたった。北澤さんの実家は長野で温泉宿を営んでいたこと、新谷さんは大学時代に金沢の銭湯でアルバイト経験があり、二人とも公衆浴場の掃除やボイラーには馴染みがあったため、時々手伝ったりしていたそう。
「だんだんと先代があみだ湯を切り盛りするのが難しい姿を見るようになりました。その頃、ちょうど僕らに引き継ぎたいという話をいただいて。冗談半分、本心半分という感じで、聞き流すこともできたかもしれないけど、好きなあみだ湯がそのまま続いて欲しいと思ったし、ぼくらの知識と体力でなんとか継承できそうだと考えて、引き継ぐ決断をしました」(新谷さん)
「そこからは、先代の動きを見て覚えるという感じ。35年間動いてきたからおじいちゃんの体は全ての動きを覚えてて、言葉で教えることができなくても、動きを見てれば僕らは理解できたんです。それと、常連客の人から昔話を聞いて、どんなサービスがあったとかそういうことも教えてもらいました。そうやって、シンケンと二人で仕事を覚えてシフトを組んで切り盛りするようになったのが、地震の少し前。『来年からは忙しくなるなぁ』と話していたら、翌日に地震が起きました」(北澤さん)


地震後いち早く開放した〈あみだ湯〉
地震発生からしばらくの間、当然水道は止まったまま。被災者がお風呂に入ることはままならない。その時、〈あみだ湯〉は建物の倒壊も免れたことも幸いし、いち早くお風呂を開放した。
「〈あみだ湯〉は井戸水を汲み上げて温めています。だから水道の復旧がされなくてもお湯を沸かすことができました。薪を使っているから燃料も確保できましたし。地元の業者さんの迅速な修繕作業もあって、1月19日にお風呂を温めて皆さんに開放しました。皆さんホッと一息ついていらっしゃった。地震前は常連さんがほとんどだったんですが、これを境に珠洲の人全員が来たんじゃないかと思うほど、多くの方にお越しいただきました」(新谷さん)
現在まで、避難が続いている方へは、無料でお風呂を提供することが続いているという。
また多くの町の人が訪れたことで、コミュニティスペースとしても大きな役割を果たした。居間のような空気感に包まれた待合スペースは、人が集まりゆっくり談笑できる貴重な憩いの場となった。


「〈あみだ湯〉のお湯は、空き家を解体したり、地震で倒壊した家屋の木材を薪として使っています。地震のあと、運ばれる量も増えていますね。それを割って薪にして焚べて。だからお湯加減も日々違う。この町の誰か、知っている人かもしれない方のお家だった柱からお湯をいただいてるという感覚もまた特別。時には弔いでもあって。重油などの化石燃料を使わず、木材だけを燃やしているので環境負荷も低い。色々な意味で、〈あみだ湯〉の存在はユニークかもしれません」(新谷さん)


運び込まれた家屋の木材の中には、子供の身長が刻まれた家族の思い出を感じさせるものも。
必要だからやる。〈みんなのいえ〉が照らすもの
〈あみだ湯〉と並行して、NPO法人ガクソーが手掛けることの一つに、2026年4月に再スタートを切った〈みんなのいえ〉がある。朝8時から翌朝2時という長い営業時間で、各時間帯で町の人が気軽に立ち寄れる場所を提供している。

「奥の部屋では、私が中高生や浪人生に勉強を教えています。学童の延長であり、不登校の子どものケアであり、珠洲から進学する際の塾であり。どうして勉強するんだっけというようなところから一緒に考えたり。小学生はシンケンと一緒に絵を描いたり工作したり写真を撮ったりキャッチボールしたりという活動もやっています。
これは地震があろうがなかろうが、社会に必要なことじゃないかと思っていたんです。塾を掲げてるわけでもない場所で、言ってみれば野良の教育支援。子どもたちのケア事業というイメージです。〈あみだ湯〉も、ビジネスや経営権の譲渡と言えばなんだか堅苦しいものに感じますけど、引き継げる環境にたまたまいた我々が手を挙げたわけです。
町の皆の大切な場を存続していくためが一番。僕らの考えは、そういう社会への関わり方って大事だよねっていうのが全ての根幹にあるんです。もちろん潤沢な資金なんてないし、どっちかといえば貧乏(笑)。貧乏でボランティアしたり、ギリギリ採算取れるかなと細かく計算したりとか。そこで地震が起きて、2次避難先の金沢でも教育支援をしていました。ようやくこの春、この建物を再建できたところです」(北澤さん)
〈みんなのいえ〉の表の大きな柱は、〈あみだ湯〉でアルバイトをしている高校生の倒壊した自宅の柱を再利用。〈あみだ湯〉同様、珠洲の人の想いが詰まった場所となっている。


珠洲はその昔、繁華街であり多様なナイトライフが存在していた土地。それに反し、震災後の現在は、深夜まで空いてる飲食店はとても少なく、気軽に飲みに入れるお店もない。だからこそ、子どもたちへの学習支援が終わった後の22時以降は大人たちが立ち寄れる空間へと切り替わる。
「いま勉強を見てる子たちの親御さんが顔を出してくれることもありますよ。地元の名士と呼ばれるような人もいます。でも、ここでは肩書きを外して飲んで喋る。そういう時間も大人こそ大切だと思います。そこから何が生まれるかというようなビジネスとか合理性とかそういうことではなくて。人と人との付き合いで、それ以上でも以下でもなく、むしろそれが必要だと思うんです」(北澤さん)
〈あみだ湯〉も〈みんなのいえ〉も、どちらも珠洲の町におけるコモンスペースとして、再び走り始めた。〈あみだ湯〉は新谷さん、〈みんなのいえ〉は北澤さんのカラーがより出ているとはいえ、皆で運営するスタイルは変わらない。お互いが何を考えてるかも自然とわかるのだという。
「どちらも根底にある気持ちは同じだから」(新谷さん)
これからも珠洲に根付くみんなにとっての居場所を守り続けていく。

Information
住所:石川県珠洲市野々江町ナ部5番地3|地図
TEL:0768-82-6275
料金:大人500円 中学生300円 小学生150円 幼児70円 サウナ無料開放(期間限定)
営:14:00〜21:00
休:水・木