珍しいあの食材を、いよいよいただきます
前回お伝えした、天草諸島にある〈漁師の郷〉という宿。
そこに泊まるきっかけとなったのは、
珍しいものを食べさせてくれるという友人からの情報だった。
珍しいものというのは“ガゼ”(*)のこと。
さて、そのガゼとはいかなるものなのか。
天草の樋島より、後編をお届けします。

宿のお風呂にゆっくりとつかったあとは、お待ちかねの夕食。
テーブルの上には、ピッチピチの海の幸がずらりと並んでいる。
この景色を見た瞬間、「今夜は飲み過ぎたっていいじゃないか」
という声が、心の中で響いた。
さっそく日本酒を注文、舟盛りや煮付けなどを堪能させていただく。
そこへ、宿の女将さん谷脇菊美さんが例のものを持って来てくれた。
ガゼの正体は、ヒトデ。
英語ではスターフィッシュと呼ばれている、
星形がチャーミングなのだけれど、得体の知れないあの生物。
分類でいうと、棘皮動物(きょくひどうぶつ)に分けられ、ウニやナマコと同じ類。
友人からその話を聞いたとき、あのかたそうな星形のどこを食べるの?
という疑問が頭をよぎった。
そしていま、目の前に置かれたそれを見ても、皆目見当がつかない。
戸惑っている私を見て、女将さんが説明してくれた。
「これ、こうして手で割ると中に卵があるでしょ、これを食べるんよ」
なるほど。女将さんを真似て、5本伸びている腕のうちの1本を割いてみる。
「シャリッ」という音がして、一瞬ひるむ……。
勇気を振り絞ってパカッと開いてみると、薄茶色の卵がお目見えした。
箸に乗せ、おそるおそる口に運んでみると、ん?
蟹味噌のような味わいで、ぽろぽろした卵のような食感。
いける!
日本酒を追加注文し、そして完食。

女将さんにうかがったところ、ガゼは目の前の海でとれるのだそう。
卵がたくさん詰まっている、5月から6月が特においしいのだとか。
女将「子どもの頃は、友だちと一緒に浜に行ってとって、おやつ代わりに食べてたよ」
「おやつにガゼ」
いかにも天草育ちというそのエピソードに惹かれ、前のめりで話をうかがう。
女将「小学校の帰りは山道やったから、野いちごとか食べよった。
30分かかるところ1時間かけて帰ってたよ、寄り道しながら」
そんな話をとてもうれしそうにしてくれた。
女将「学校から帰ったらすぐに浜に行きよって、ガゼとったりビナとったりしよったわ」
ビナというのは、なんですか?
女将「ビナ知らん?? いまでも目の前の浜でとれるよ」
ふむ、興味津々。
テツ「女将さんご自身でとりに行くんですか? いまでも」
女将「うん、行きよるよ」
なるほど、それは同行しないわけにいかない。
テツ「女将さん、明日も行きますか? 浜に」
女将「行けって言えば行くよ」と笑う。
テツ「はい、では行きましょう」
ということで、翌日女将さんと一緒に浜へ行くこととなった。
*ガゼ:ウニの古い呼び名。ヒトデはウニと同じ棘皮動物で、5本の腕が生えているため「ゴホンガゼ」と呼ばれている。現地では略して「ガゼ」という。

















