連載
posted:2015.8.11 from:東京都千歳烏山 genre:食・グルメ
〈 この連載・企画は… 〉
イラストレーターとして活躍する平尾香が、各地の粋な飲み屋をご紹介。
旅して飲んで、おいしいお酒と肴と人に出会います。
text & illustration
kao.ri hirao
平尾 香
ひらお・かおり●イラストレーター。神戸生まれ、独自の個性を発揮した作風で、世界的ベストセラー「アルケミスト」を始めとする書籍のカバーや、雑誌の挿絵、広告などで活躍。個展も多数開催。現在は、逗子の小山にアトリエを構え、本人の取材やエッセイなど活躍の幅は広い。著書本に「たちのみ散歩」(情報センター出版局)「ソバのみ散歩」(エイ出版社)
http://www.kao-hirao.com/
https://www.facebook.com/Kao.0408.hirao
普段乗り慣れない路線に乗るだけで旅気分になれる東京。
新宿から京王線の急行で11分の千歳烏山駅。
駅の横の踏切が開いた瞬間行き交うのは、
買い物帰りの自転車(前うしろに子どもが座る)、
会社帰りのサラリーマン、大きなスポーツバックの学生さん……。
銀行、コンビニ、スーパー、チェーンの居酒屋、
小さな豆腐屋からクリーニング店まである商店街を抜けて、
少し薄暗くなった、飲食店が並ぶ細道の先、
〈AKASABI Hotel〉の文字が高いところに見える。
ああ、こんなところにビジネスホテルね。と思ってしまう
白い看板と店名なのだけど、ここは、おいしい日本食が食べられるお店とな。
階段を上った2階、あけっぱなしのドアを入れば、
うなぎの寝床のような空間にカウンター、奥に小さなテーブルと箱椅子が置かれてる。
「いらっしゃいませ~」と斬新な髪型の店主が顔を出す。
カウンターの席に腰をかける。お酒のメニューから、暑いので、生ビール。
そして、そのメニューのファイルを裏返したり、
侘び寂び感たっぷりの店内を見渡したりして、料理のメニューを探すけど、
張り紙も見あたらない。おまかせ料理らしい。
「嫌いなものとか苦手な食材ありますか?」と店主が聞いてくれる。
なんでも食べられるし、普通にお腹が空いてることを伝える。
このやりとりで、料理のオーダーは完了。
予約の電話で、あらかじめ予算などを言っておくのもいいかもしれない。
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この日は、鮮やかな黄色いトウモロコシのすり流しが最初に置かれた。
ひんやりやさしい甘みが広がる。
昆布締めの鯛としめサバのお刺身は、醤油でなく、
赤米と梅を合わせたものを好みでつけていただく。
このあたりで、もう怪しげな店構えや、座りにくい椅子などどうでもよくなる。
早く次の料理が食べたい! となるのです。
日本酒を1合、片口からお猪口へ。汗をかいた酒器が冷たくて気持ちいい。
鳥取の懐石料理店で修業した店主の出す料理は、茶懐石の流れで、
和の骨董などの器に美しく盛られ、銘々、順々に出てくる。
最後の土鍋で炊き上げるかわりご飯にお味噌汁に香の物まで、
どれもが染み入るおいしさ。
ふと気づけば、この曲なんだったっけ? と隣の常連客や店主と楽しい会話に。
ライブや落語のイベントも催されるそう。
食べて、飲んで会話して、満たされた気持ちと一緒に階段を下りれば、
打ち水もすっかり乾いたアスファルト。
真夏の夜もすっかりふけて……。
Information
AKASABI Hotel
赤錆宿
住所:東京都世田谷区南烏山6-30-8 辻ビル2階
TEL:03-3307-7778
営業時間:18:00~25:00(L.O. 24:00)
定休日:月曜休
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