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連載

アートを通して、
人と人が関わる宿泊施設
KYOTO ART HOSTEL
kumagusuku/HAPS vol.5

リノベのススメ
vol.059

posted:2015.1.30  from:京都府京都市中京区  genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
4つの都市から週替わりでお届けする、リノベーションの可能性。

writer's profile

HAPS

東山 アーティスツ・
プレイスメント・サービス

2011年 東山 アーティスツ・プレイスメント・サービス実行委員会設立。京都市の委託により、「若手芸術家等の居住・制作・発表の場づくり」を主な目的とし活動を行う非営利組織。相談窓口を開設し、空き家や空きスタジオの情報提供やマッチングなどを通して、若手芸術家の京都市への定着を促進するための活動を行うほか、京都市内の芸術家を対象に、制作・発表を包括的に支援している。
http://haps-kyoto.com/

kumagusukuが生まれるまで

京都市中京区壬生。市内中心地の西、二条駅や二条城の周辺は、
大規模な商店街があるなど昔ながらの雰囲気を持ちつつ、
独自色のある小さなショップやギャラリーなどが増えている一帯です。
新旧の入り交じる活気があります。
そんなまちの一角に、
2014年11月完成した「KYOTO ART HOSTEL kumagusuku」。
展覧会の中に宿泊し、美術を“体験”として深く味わうための施設です。
2015年1月にオープンしました。
コロカルニュースでも紹介され、大きな反響がありました)

今回は、HAPSでマッチングをした物件ではありませんが、
計画当初より相談をいただき、
情報提供を行ったkumagusukuができるまでを辿ってみます。

kumagusukuとは、
博物学者・南方熊楠の名前と、
沖縄の言葉で“城”を意味する“グスク”とを合わせた造語。
熊楠の名前に含まれる
熊=動物と楠=植物を人間の営みの象徴として、
さらに城を組み合わせることで宇宙的な視座を持って世界を見て、
関わっていくという思いが込められています。

そもそもの発端は、2012年12月。
kumagusuku代表である美術家・矢津吉隆さんの、
「美術作品を通して人と人が関わる宿をつくりたい!」という思いから。
京都市立芸術大学を卒業して10年間ほど、
美術予備校講師や美大の非常勤講師を務めながら
作家活動を続けてきた矢津さん。次のステップに向けて、
何らかの決断をしなければいけない時期に差しかかっていました。

そんなとき、友人に誘われ、訪れた沖縄でのこと。
なんと大きな台風が直撃してしまい、
3日間もゲストハウスに閉じ込められることに。
しかし、人生を立ち止まって考えているときに
日常とは離れた環境のなかで
シーズンオフの沖縄にふと集まってきた人たちと話すことが
期せずして自分の内面をさらけ出すこととなりました。
この体験から、アートを通して
人と人がじっくり関われる宿をつくりたいという構想が生まれたのでした。

住宅街に佇む木造2階建てのkumagusuku 。

とは言うものの、
これまでアーティストとして活動してきた矢津さんにとって、
事業を起こすというのは新たな領域です。
事業計画の作成や融資など、初めてのことも多く、
まずはHAPSで紹介した行政書士の藤本寛さんからアドバイスを受けました。
当初は、自己資金で何とかできるのではと考えていた矢津さんも、
計画を進めていく中で、ひとりではできないということを実感。
思いを伝え具体化していく過程で、
これまでのつながりから、関わるメンバーも増えていき、
最終的には、創業者支援の融資制度や、
京都市の空き家改修のための助成金も活用することができました。

しかし、「事業の実績がない!」ことは説得材料に欠けるもの。
そこで矢津さんは、「瀬戸内国際芸術祭2013」に誘われたのを機に、
小豆島で期間限定のプロジェクトとして、
井上大輔さんとともにセルフリノベーションで、
kumagusukuの前身、アートを鑑賞できる滞在施設を実現。
(この様子はコロカルで連載中の小豆島日記にてレポートされています)
考えていた以上の盛り上がりに、
アートがつなぐ宿の方向性に確信を抱きました。

(左より)「工芸の家」のメンバー 石塚源太さん、kumagusuku代表・矢津吉隆さん。

京都へ戻った矢津さんは早速物件探し。
当初HAPSにもご相談いただいていたのですが、
うまく条件に合致するものをご紹介できませんでした。
京都市内には、町家など多くの空き物件はありますが、
宿泊施設としてさまざまな条件をクリアする物件を見つけるのは
なかなか難しいところがあります。

そんな物件探しに難航していた矢津さんが出会ったのは、
シェアスタジオを運営するなどして、
20年以上京都市内でアーティストを支援してきた、
A.S.K. atelier share kyoto (以下A.S.K.)代表の小笹義朋さん。

小笹さんはkumagusukuのプランを聞くと、
矢津さんとの出会いも何かの縁と感じ、
kumagusukuへスポンサーとして関わることを決断。

実は小笹さんは、そのときある木造物件を借り、
新たな共同スタジオにしようと
工事をスタートさせる一歩手前のところだったのですが、
この計画を一変させ、kumagusukuへと生まれ変わらせることに。
「見たことがないものを見たい、名付けられないものを見せてほしい」
と矢津さんに期待を寄せました。

小笹さんは、2012年からHAPSが活動を始め、
京都市の事業としてアーティストのためのスタジオ紹介が
行われるようになったことで、
スタジオ提供に関する自身の荷が下りたのだそうです。

A.S.K. atelier share kyoto代表の小笹さん。

手が入る前の物件1階の様子。

1階と2階を合わせて、
160平米以上ある元アパートだったという木造建築の物件。
全体のリノベーションを担当してくれたのは、
大阪・北加賀屋を拠点に活動する「dot architects」の家成俊勝さん。
ロゴや館内サインのデザインは、
矢津さんが長年仕事をしてきた
UMA / design farmの原田祐馬さんにお願いしました。

dot architectsによるkumagusukuの模型。(写真提供:kumagusuku)

dot architectsの建築は、建築単体というよりも、
人の関係性や建築の使われ方といったソフト面を含めデザインしていくというもの。
「完成が終わりではなく、その後いろいろな人が手を加え、
更新されていく余地を持たせてくれる建築に」という、矢津さんの希望とも合致しました。
そこで、矢津さんと家成さんが大切にしたのは、
「歴史的な蓄積をできるだけ残したい」ということ。
しかし、全部を包括的に更新するというのではなく、
手を加えたところと既存部分がわかるような、
“新たなレイヤーがつくられる建築”を模索。

さらに、もともとの「展覧会の中に宿泊する」というコンセプトから、
展示室と客室を分けたくないが、法律的には分ける必要もあるため、
視線の交錯を意識しながら、独立した空間をどうつなげていくかが、
課題となりました。

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元アパートだったこの木造の物件は、その後家具倉庫として使われており、
幸いにもその際、床や建具など全て取り払った状態だったので、
工事は2014年8月にスムーズにスタート。
3か月にわたり、構造の補強、新たな壁の制作、屋根を軽量化し葺き替え、
床張り、設備の新設など、進めていきました。
1階は、kumagusukuのレセプションに水回り、キッチン、
そして中庭をはさんで、60平米ほどの広さのart space ARE。
2階は、シングルルームやドミトリーなど4室と展示空間。

担当の工務店さんも、矢津さんとは同年代の30代前半で、
寺社などの伝統的な建築も手がけながら、
アーティストのこだわりも理解してくれるような柔軟さを備えている方。
小豆島でセルフリノベーションの経験をもつ矢津さんは彼らの仕事ぶりを見ながら、
「改修も自分で何でもできると思っていたけれど、
プロのつくり方、材の使い方はやはり違う」と感銘を受けたそうです。

新しい梁を入れることで構造を補強する。古い構造の部分と新しい白木のコントラストが鮮やか。(写真提供:kumagusuku)

建築と工芸の新しい試み。

kumagusukuとしてのアート体験型宿泊施設に加え、
「既存の枠にとらわれない工芸の取り組みを」という小笹さんの思いも加わり、
dot architectsが手がける洗練された空間に加えられたのが、
「工芸の家」メンバーの作品です。

工芸の家とは、
APP ARTS STUDIOを母体に、気鋭の若手アーティストが集まり、
工芸家がいかに建築に関わることができるのかを探るグループ。

A.S.K.の小笹さんが、最終的にA.S.K.のコミッションワークとして、
工芸の家に建築空間の中での新しい作品制作を依頼。
前述の1階のart space AREは、kumagusukuと工芸の家、A.S.K.の共同運営として、
今後はトークイベントや展示などに使っていく予定です。

工芸の家のメンバーは、
宿泊客が滞在して時間を過ごす場所で経年変化をいかに楽しめるか、
そこに工芸としてどう関わっていくのかをテーマとしました。
さらに、建築における工芸の関わりは、
通常できあがった構造の上に施す意匠の部分を担うことが多いですが、
今回は柱、床、階段、塀といった構造自体に関わりながら、
作品として新たな表現を探りました。

染谷聡|漆塗りの柱| コレクション:OZASA KYOTO 撮影:表恒匡

まず、AREのスペースには、存在感を放つ3本の柱があります。
これは、漆作家の染谷聡さんが、
神聖なものとして神社などに祀られる御柱(おんばしら)に見立てたもの。
漆や箔、kumagusuku近くの稲荷神社からいただいた
木の枝、鏡、しめ縄、塩などを用い、
日本の古くからの「飾り」や「遊び」を意識しながら、仕上げていきました。

染谷聡|漆塗りの柱|(部分) コレクション:OZASA KYOTO 撮影:表恒匡

安藤隆一郎|染めの大和塀| コレクション:OZASA KYOTO 撮影:表恒匡

染色家の安藤隆一郎さんは、中庭部分、AREの入り口に
青く染めた杉板で数寄屋造りの庭に用いられる大和塀を斬新に制作。
本来、染料の発色が保つよう木材を染めることは難しいのですが、
染めを加えた塀が日光や雨などの影響を受けながら
変化していく過程も見せたいと染料屋さんと新しい技法を確立し、
実現できました。
さらに、杉板に部分的に漂白を加えることで、
複雑な色のグラデーションと木目の表情を生んでいます。

漆作家の石塚源太さんは、kumagusukuメインの階段に漆塗りを施しました。
しかも、既存の階段に石塚さんの手で、
一段ごとに下地や漆の塗りを重ねて、漆塗りの工程を表現しました。

宿泊施設の階段を上り下りすることで漆の質感を、
身体的に体験できるなんて、
なかなかできることではありません。

1階レセプションと石塚源太さんによる漆塗りの階段。その奥に、キッチン、中庭とart space ARE。(撮影:表恒匡)

石塚源太|漆塗りの階段|(部分) コレクション:OZASA KYOTO 撮影:表恒匡

石塚源太|漆塗りの階段| コレクション:OZASA KYOTO 撮影:表恒匡

三和土ワークショップ(2014年9月)。

AREの土間と中庭の犬走り(※)は、三和土(たたき)工法で、
タイルを研究する中村裕太さんが収集してきた古いタイル片を配置しながら、
ワークショップ形式で参加者とともに施工。
約70年という歴史を紡いできた建物に、
古いタイル片の歴史が時間の層として重ねられていきます。
「工芸家として建築に関わることを考えたときに、
参加者とともに土を叩き、タイル片を並べていく作業も
工芸家としてのあるべきふるまいではないか」と中村さんは言います。

中村裕太|タイルの三和土| コレクション:OZASA KYOTO 撮影:表恒匡

工芸の家が用いる土や木、漆といった自然素材は、
古くより日本の建築に使われてきたものです。
結果として、それぞれが奇をてらった使い方ではなく、
石塚さんの言葉では「素材を元の位置に返していく」
という作業になったのだそうです。
美術家、工芸家、建築家など、現代のアーティストの新たな視点が加わり、
既存の要素も生かしながら、新たなレイヤーを重ねていく建築が完成しました。
伝統の継承に留まらない魅力的な作品と空間が実現しています。

kumagusukuは、晴れて11月28日から内覧会のオープニングウィークを迎え、
12月13日のトークイベントも予想を上回る大盛況となりました。

企画展「光の洞窟」会場風景。天野祐子による写真作品を、天井高のある空間を生かし展示構成。(撮影:大西正一)

kumagusuku最初の展覧会は、アートコーディネーターの奥脇嵩大さんによる、
企画展「光の洞窟」(2014年12月〜2015年秋まで)。
映像や写真作品など、館内で過ごしながら時間をかけて味わうことができます。

企画展「光の洞窟」会場風景。アートユニット「exonemo(エキソニモ)」による映像作品にあわせ、リビングルームのようにしつらえた展示空間。(撮影:表恒匡)

2階ツインルーム。(撮影:表恒匡)

kumagusuku内覧会の一夜。

ようやく旅館営業の許可が下り、最近宿泊予約の受付を開始しました。
矢津さんの思いが、小笹さんの思いと重なり、
さらに、空間を仕上げるクリエイターたちとのさまざまな縁と思いがつながり、
完成したkumagusuku。

これからはアートホステルを介し経済的に収益を得ていくこと、
それを継続していくことが矢津さんにとって新たな挑戦となります。
「ここで生まれてくる状況自体を楽しめたらいい」という矢津さん。
滞在しながらアート作品を体験として鑑賞し、
イベントに集う人々が語り合う時間から、
新たな視点や価値観が生まれてくることでしょう。
是非、kumagusukuに出かけ、その場のエネルギーを確かめてみてください。

※犬走り:建物外周に沿って軒下に設けられる水はけなどのための保護部分。
京都の町家によく見られる特徴。

information


map

KYOTO ART HOSTEL kumagusuku

住所:京都市中京区壬生馬場町37-3  
TEL:075-432-8168  
http://kumagusuku.info
※現在はメールと電話のみで予約を受付中。
 

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