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第一被服

ものづくりの現場
vol.007

posted:2012.6.7   from:埼玉県草加市  genre:ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  伝統の技術と美しいデザインによる日本のものづくり。
若手プロダクト作家や地域の産業を支える作り手たちの現場とフィロソフィー。

editor's profile

Kanako Tsukahara

塚原加奈子

つかはら・かなこ●エディター/ライター。茨城県鹿嶋市、北浦のほとりでのんびり育つ。幼少のころ嗜んだ「鹿島かるた」はメダル級の強さです。

credit

撮影:山口徹花

人気のデイリーウエアブランドを支えるのは、家族総出の熟練職人たち。

埼玉県草加市の住宅地に静かに佇む、縫製工場「第一被服」は、
80年以上、スラックスを専門に手がけてきた。
今は、鎌倉・由比ヶ浜に本店を構える、JAMES & COのブランド、
「STUDIO ORIBE(スタジオ オリベ)」の商品を作っている。

2階にある裁断部屋。裁断の際に出る布ぼこりを払うため至る所に扇風機が吊されている。

100平米ほどある2階建ての工場内には、
カタカタカタ、と、小気味いいミシンの音が鳴り響く。
検反、裁断、地縫い、カン縫い、千鳥、カンヌキなどの、
パンツ作りに必要な60ほどある行程を
特殊なミシンを使いながらすべてここでこなす。
職人たちは、この道50年のベテランばかり。
裁断を担当するのは、三男の鈴木国夫さん(75歳)。
縫い場を担当するのは、次男・庸夫さん(77歳)と、
奥さまの勝子さん、息子の弘久さん、従姉妹の見木恵子さん。
夕方にはアルバイトとしてお孫さんもやって来る。
家族が営む、小さな小さな工場なのだ。

ミシンをかける庸夫さん。1着、1着、糸の調子を見ながら作業をすすめていく。

「もともと親父が始めて、戦後に兄弟みんなでやろうってなったんだ。
でも、最初は、全然ダメ。問屋から返品されてばかりだよ(笑)。
だから、どこが悪かったのか、どうしたらいいものが作れるかって、
兄弟で話し合ってさ。そのうち、俺たちが作ったものが、
三越やなんかのデパートでも扱われるようになっていったんだよ」
と、国夫さんがニヤリと笑う。
ときには、朝3時から工場を動かすこともあったという。
地道に、真面目に、より良いものを。
いつしか良質なスラックスを生み出せるようになっていた。

50年以上使い続けている年代もののボタンホール用のミシン。アメリカのリース社のもの。

その後、取引していた問屋さんが倒産するなど、
設備と技術があっても仕事が先細りする一方だった90年代後半。
庸夫さんの息子・輝永さんがアパレルブランドを立ち上げるから、
手伝ってほしいという話が持ち上がった。
それが、STUDIO ORIBEだ。

STUDIO ORIBEは、塩谷雅芳さん、鈴木輝永さんが
1999年に立ち上げたデイリーウエアブランド。
立ち上げ当初からデザイン性と履き心地に定評のある、
「L-ポケットパンツ」は、「SHIPS」をはじめ、
全国70店舗以上で扱われおり、着実にファンが増えている。

もともと、メーカーで生産管理の仕事をしていた輝永さん。
「たくさんの縫製工場を見て、おやじの仕事の丁寧さが改めてわかりましたね。
昔から俺の着ている服の縫製にずっと文句言ってたくらいですから。
ステッチひとつをとっても、途中で切れたら、全部ほどいて縫い直す。
そんな当たり前のことをしてくれる工場は少ないんです」

「私は器用ではないんですけどね」と微笑む奥さまの勝子さん。さすが庸夫さんとの息はぴったり。

1着につき、1行程分のミシンをかけるのは、ものの1〜2分。
見ていると単純なようだが、正確さと速さが求められる。
「幅は3センチ。定規を当てて、ピシっとまっすぐね。
ぴったり縫わないと」と、冗談を言いながらも、
庸夫さんは、みるみるうちに作業をこなしていく。
そして、「これは少し強すぎだな」と言って、
糸の具合やミシンの器具を調整。
細かい部分の布を裏返すのはピンセットを使う。
採算を考えれば、作業時間を減らすほうがいいけれど、
品質には、絶対に手を抜かないのが、第一被服の仕事。
「だって、キレイにできないとシャクだからさ」
と国夫さんも裁断室で作業を進めていた。
「ひと手間を惜しまない。
だから、上がってくるものはもちろんきれい。
職人として、信頼できるんですよね」と輝永さんは話す。

生地を裏返すのもピンセットで。「こうしないと直角にできないからね」と庸夫さん。

特に、STUDIO ORIBEは日常着を提案するブランド。
丁寧で確実な縫製が、服の寿命を延ばす。
「ちょっとスタイリッシュなデザインで、
毎日着たいようなパンツってありそうでないんですよ。
見つけても、次のシーズンはカタチが変わっているとか。
だからSTUDIO ORIBEは、
定番としてずっと作り続けていきたいと思っています。
適正な価格と、確かなクオリティーで。
そのためには、やはりいい職人さんが必要ですね」
と企画を担当している塩谷さんは語る。

由比ヶ浜からほど近いJAMES & COの店舗。道に面して大きく開かれた入り口からは心地よい浜風が吹いてくる。

次から次へと新しい服が溢れていく世の中で、
定番を作り続けていく。
その潔い信念を実現させるのは、誠実な仕事を続けてきた職人たち。
決して特殊な技術を使っているわけではなく、
丁寧に、そしてキレイに仕上げること。
そんなものづくりの原点が一枚のパンツに宿っている。

L-ポケットパンツの型紙と完成品。タグには、STUDIO ORIBEからのメッセージが刻まれている。

(左下から時計まわりに)庸夫さん、国夫さん、弘久さん、見木恵子さん、勝子さん。

information

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JAMES & CO

住所 鎌倉市由比ガ浜2-6-20
TEL 0467-81-4947
営業時間 12:00〜18:00 日休
http://www.studio-oribe.com/main.html

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