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〈未来工業〉
日本一幸せな会社をつくった、
「常に考える」精神

貝印 × コロカル GIFU NEXT
vol.005

posted:2016.11.7   from:岐阜県安八郡輪之内町  genre:ものづくり / 活性化と創生

sponsored by 貝印

〈 この連載・企画は… 〉  これまで4シーズンにわたって、
持続可能なものづくりや企業姿勢について取材をした〈貝印×コロカル〉シリーズ。
第5シーズンは、“100年企業”の貝印株式会社創業の地である「岐阜県」にクローズアップ。
岐阜県内の企業やプロジェクトを中心に、次世代のビジネスモデルやライフスタイルモデルを発信します。

writer profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影:太田昌宏

「97%の逆を行く」、創業時の発想

“日本一幸せな会社” “超ホワイト企業”などというキャッチフレーズが踊る企業がある。
岐阜県にある未来工業だ。
電設資材や管工機材を中心に製造するメーカーで、
そのひとつ、電気のスイッチボックスは100種類以上発売されており、
国内シェア約70%を誇っている。

スイッチボックスの数々。

1965年創業。現社長である山田雅裕社長の父である山田昭男氏が創業者である。
創業当初は「食べていくのが精いっぱい」。
ブラックだホワイトだと言っている場合ではなかったが、夢は大きかった。
山田雅裕社長が先代の創業当時を語る。

「大垣は戦前から工業のまちでした。
そこで創業メンバーは下請けはやめて、メーカーとして勝負していこうと考えたようです。
そして国の発表している高額所得法人に名を連ねる企業を志したと聞いています」

この高額所得法人は当時、法人総数の3%程度であったという。
しかし創業メンバーはその3%の真似をするのではなく、
「残り97%がやっていないことをやろう」と考えた。
成功モデルといえども、真似はしたくない。ユニークな発想である。
97%の逆張りをするということは、他社と同じことはやらないということ。
大多数が持つ常識や慣習など、すべてを疑っていく。

山田雅裕代表取締役社長。派手な柄シャツには意味がある。

山田昭男氏のよく知られている逸話がある。

「高級料亭などに行っても、靴を脱ぎっ放しにして揃えないんです。
それは自分がやることではないと。
バカと言われようが、変人と言われようが、徹底して人と違うことをやり続ける。
そういう生き方で未来工業を守ってきたんです」

山田昭男氏は夏はじんべえ、冬は作務衣を着ていたという。
一方、山田雅裕社長は、いつもアロハシャツを着ている。トレードマークだ。
取材日は秋を意識して茶系のシャツだったが、それでもハデな総柄シャツ。

山田雅裕社長の代になって4年。変えたことはあるのだろうか。

「何も変えていません。むしろ守ることに尽力しています。
放っておくと、人間はどんどん普通になっていくと思うんです。
そうならないために、いかにそこを引っ張りもどすか。
それが自分の仕事だと思っています」

普段から人と違うことをしていることで、
会社としてもライバルと差別化をつけていくことができるという哲学だ。

工場ではキャップ着用。

電気ケーブルが通るPVKボックスの仕上げ工程。

社内のルールは「常に考える」のみ

未来工業を語るうえで欠かせない、いくつもの有名な社内ルールがある。
“ホウレンソウ”禁止、残業禁止、ノルマ禁止など。
しかし未来工業のなかでは、報告・連絡・相談は普通に行われている。
それらがないとコミュニケーションが成り立たないだろう。

「“ホウレンソウ”をしなさいというキャンペーンや、
会社からの押し付けはやらないという意味です。
上司が部下に対して『なぜ報告しないんだ』と怒ることもありません。
そんな人は上司の資格なし」

ちょっと勘違いして世間に伝わっている部分もある。
明文化されているわけでもないし、
山田雅裕社長いわく「父が勝手にしゃべっただけ」という。
だから本当はルールではない。
しかしそれはきちんとした意味をともなって、今でも未来工業に伝わっている。
ノルマ禁止も世間のイメージとは少しニュアンスが違った。

「生産計画に基づく、売り上げ目標や計画はありますよ。
ただしそれを達成できなかったとしても、ペナルティはありません。
うちは毎年、新商品がたくさん発売されます。
全盛期は年間1000個以上、今でも500個は発売されていて、
期待値はとても大きいと言えます。
なぜそんなにたくさん発売できるかというと、お客様から情報を集めているから。
未来工業の営業マンは、“商品を売ること” “情報を集めてくること”。
このふたつが仕事なんです。
ノルマを取り入れて、売り上げに固執すれば、みんな一生懸命売ると思いますよ。
それでも数年はいいでしょう。でも情報収集がおろそかになります。
すると10年後、20年後、新商品を出すことができない。
そんな未来工業は、もしかするとこの世にいないかもしれません」

たくさんの製品が並ぶショールーム。一般にはお目にかからないものばかり。

こうしたルールの根底にあるのは、社是でもある「常に考える」。
会社を訪問するとわかるが、社内のいたるところにこの社是が掲示されている。
本当に右を向いても左を向いても、この言葉が視界に飛び込んでくる。

「中途採用が多いのですが、
転職組は過去の会社で叱られたり、命令されて仕事をしてきた経験があります。
未来工業に来て『好きにやっていい』と言われて、最初はとまどうみたいですが、
慣れると楽しくなってくるようです。
うちは何をしても怒られない。失敗して怒るのはとても簡単です。
管理職は命令も禁止。説得して納得させます。
子どもに対するのと同じようなアプローチで命令するのはかっこ悪いですよ」

だから山田社長は自信を持って言う。
「未来工業では、“常に考える”ことしか社員に要求しません」

「常に考える」ばかり見ていると……

「常に考える」癖がつく。

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どんな提案でも認められる社風

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出すだけで500円、の提案制度

何のために考えるのか。それは実行して行動するため。
考えた結果ならば、成功しようが失敗しようが、そのすべてが認められる。
そのわかりやすい例が提案制度である。

「社員から提案を出してもらいます。内容によって1〜5級が与えられます。
入賞しない提案には参加賞もあり、その下にさらに不採用もあります。
ちなみに不採用でも500円もらえますので、
提案を出すだけで500円はもらえるというわけです。
200件出せば、すべて不採用だったとしても10万円になります。
さらに年間200件以上提出すると、特別報償金として15万円もらえます」

現在でも年間に合計で7,500件程度の提案がされるという。
こうして社内で“常に考える”を実践していく。

考えることはできたとしても、それを実行に移していくのもひとつの能力。
逆にいえば、実行に向けたアイデアを考えなければならない。
小さいものなら、現場の長の判断で実行されていくという。
これがいい特訓になる。

オートメーション化されている製造工程。

振り返ればそこに「常に考える」。

伝わっていく未来工業のDNA

もうひとつ未来工業のユニークな試みとして
“電気をなるべくつけない”というものがある。
たしかに社内は薄暗い。使っていないスペースはもちろん、ロビーや廊下も暗い。
多くの企業でも節電を取り入れていると思うが、未来工業はやはり徹底している。
このルールに関しては、先代の山田昭男氏のアイデアではなく、
社員からの「すべての電気にヒモをつけて、簡単に電気を消せるようにしてはどうか」
という提案から生まれたものだという。
こうした未来工業的DNAは、社員にもきちんと根づいていっているようだ。

「40代の社員などは、うれしいことに、
父やもうひとりの創業者である清水専務に薫陶を受けたという自負心を持っています。『次は自分たちがやらなければ』という思いも強いようです。
これを20代の社員にどう伝えていくかが課題です」

40代以上は中途採用が多いので、前職と比較することができる。
だからのびのびと仕事できる社風をありがたく感じたり、やりがいを見つけやすい。
しかしいまの新卒社員は違う。

「新卒社員は、すでに未来工業のいいイメージを捉えて入社してきます。
この春も新卒社員を20名採用しました。
不安なのが、未来工業に入社することがゴールになってないかということです。
これからが競争ですから」

手作業の部分も残っている。

一般的な企業にはコストと考えられがちな在庫スペースも、未来工業では広くとられている。

未来工業のようなホワイト企業を目指すには

未来工業がホワイト企業であるのならば、ほかの企業も真似したり、
仕組みを取り入れればいいと思う。しかしそう簡単にはいかない。

「ひとつには、父がきちんと説明をしていないというのがあります。
以前に、私はある講演をしたことがありました。
その会では、父もかつて講演をしていたことがあったんです。
その両方に参加した方に言われましたよ。
『お父さんの講演を聞いたときには私には無理だと思ったんですが、
今日あなたの講演を聞いたら、できそうだと思いました』と。
私は“ホウレンソウ”禁止、残業禁止、ノルマ禁止など、
その意味をきちんと説明したんですね。
父もそうすれば良かったのですが、しなかった。なぜか。
“常に考える”を実践してほしかったんだと思います。
外部に求めても、しょうがないと思うんですけどね(笑)」

耳馴染みのいい“ホワイト”な仕組みやルール自体は、簡単に真似することができる。
しかしその意味を理解しないと、きっと形骸化していくだろうし、長続きもしない。

「“常に考える”というベースがあっての未来工業です。
それをないがしろにして表面だけ真似してもやっていけないと思います。
次は“常に考える”を広めていかないといけませんね」

もしホワイト企業になりたいなら、未来工業のやり方を取り入れてみてもいい。
もちろん“常に考える”という哲学を。考えた結果は、きっとそれぞれ違うだろう。

「常に考える」というのは大変な作業だ。
もしかしたらそれは、残業が多かったり休暇が少ないことより、
ある意味でブラックなことといえるかもしれない。
自分にとってブラックとは何か、ホワイトとは何か、
会社に求めるものとは? 会社で自分ができることとは?
あらためて、「常に考える」癖をつけていきたい。

田園風景の中に本社屋。田んぼを持っている社員も多いそう。

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未来工業

住所:岐阜県安八郡輪之内町楡俣1695-1

TEL:0584-68-0001

http://www.mirai.co.jp/

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貝印株式会社

http://www.kai-group.com/

貝印が発行する小冊子『FACT MAGAZINE』でも、岐阜を大特集!

http://www.kai-group.com/factmagazine/ja/

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