蔵にミラーボール、里山に音楽を。能登に新しいサードプレイスを持ち込んだ女将の物語
金沢出身、東京暮らし、そして能登へ。遠回りした末の移住
田村早苗さんは、2023年から能登町で〈土とDISCO〉というゲストハウスを運営している。築100年はあろうかという蔵付き、山付きの大きな古民家を購入し、宿泊できる2部屋と、地元の人も立ち寄れるカフェ兼ミュージックバー、そして土壁の蔵にミラーボールを設置しクラブも併設している。

田村さんは、石川県金沢市の出身。しかし、Uターン移住の意識はないのだそう。
「将来的にゲストハウスをやってみたいと大学時代からぼんやりと考えていました。ただ、それを石川に戻ってやろうという意識はありませんでした。18歳で親元を離れ、東京での暮らしもあったし、バックパッカーとして海外旅行もしていたので、場所はどこでもよかったんです」

「他と比較したら一番馴染みがあるから、という理由で石川が候補に。フラットな視点で話を聞こうと思って、東京で開催されていた石川県主催の移住フェアに参加したんです。
たまたま、能登の人が登壇していて、ふと面白いかもしれないって思って。すぐに能登に飛んで、その時に泊まった宿が、前のオーナーが切り盛りしていたこの古民家でした」
「絶対帰らない!」古民家リノベーションの1年半
いろいろな物件を見て回った田村さんだったが、最終的には、能登を訪れた一番最初に泊まった古民家と縁があった。購入できてからは、リノベーションの日々。
「実際に古民家で暮らすと、思っていた以上に大変なこともありました。現在の住宅のような断熱材や調湿材が使われていないので、冬は寒いし夏はジメジメする。とても広いので掃除も大変。
東京に戻ろう、という話が夫婦で出たぐらいだったんですが、私にも意地があって(笑)『絶対帰らない!』と言い張ってなんとか進めてきた感じです。
状況が変化してきたのが、1年半が経過したとき。友達が増えていくなかで、お家開きパーティをやったんです。マルシェも開いてライブもやって、100人近くが来てくれて大盛況。そこから、カフェも開きたいとアクセルを踏めるようになりました」

そんな矢先に能登半島地震が起こる。
「地震の直後は、もちろんいろいろ考えることもあったのですが、なんというか自分の中のハングリー精神というか『これはもう、能登を面白くしてやるぞ!』という気持ちが湧いてきたんです。ゲストハウスに加えて、カフェなどの飲食店の顔、さらにアーティスト・イン・レジデンスとして国内外のアーティストに泊まってもらい、作品を残すことも始めました。
あとは地元の人も参加しやすいワークショップを開いたり。面白い人たちが集まって交流し、そこから何かが生まれていくという形ができて、今ではすごく充実しています」


山菜、発酵食、ミラーボール。能登の新しい暮らし方
自分の中にある理想を実現するために奮闘してきた田村さん。リノベーションはまだまだ続いていくというが、これからの〈土とDISCO〉の展望をどのように描いているのだろうか。
「この古民家をここまでケアしてこれたことは、自分でも誇るべきところで自信にもなってきています。これからは、地震を経て能登観光の新しい形が必要だと思っています。能登には新しい面白いことがあるよ、と積極的に伝えていきたい。
また、春は毎日山菜を採りに山にも入りますし、発酵食品の素晴らしい伝統も残っているので、自然と戯れながら暮らしています。こうした里山暮らしは本当に魅力的。
そこに、ミュージックバーやクラブという音楽との接点を作りました。『能登で音楽と言ったら〈土とDISCO〉』と思っていただけるような、そんな場所に育てていきたい。伝統と自然による新しいカルチャーミックスを楽しむために能登を訪れたいという人が増えたら本望です」
Information
たむら・さなえ/石川県金沢市出身、民宿&カルチャースペース〈土とDISCO〉オーナー。2023年に能登に移住。自身が暮らす古民家で、カフェやミュージックバーの営業と宿泊施設を運営する。土壁による大きな蔵はクラブとしてDJブースやミラーボールを設置、定期的にイベントを開催中。
HP:https://tsuchi-disco.com/