【プレゼントあり】大空襲で途絶えた「ゴーフル」は、なぜ復活できたのか?神戸銘菓の99年の物語
ハイカラな神戸人が愛した、薄焼きクリームサンド
〈神戸風月堂〉は、1897年(明治30年)創業。この年に、現在も本店がある神戸・元町に欧風建築の店を構えた。当時の神戸は、いち早く西洋文化が流れ込む港町。外国人居留地や洋館の風景のなかで、人々は新しい食文化にも親しんでいた。
そうした時代の空気のなかで、〈神戸風月堂〉はシュークリームやワッフル、マロングラッセ、さらにはフランス式アイスクリームなど、当時としては先進的な洋菓子を次々と手がけた。
のちに看板商品となる「ゴーフル」が生まれたのは1927年。フランスの焼き菓子のおいしさを引き立てつつ、和菓子の長所も取り入れながら研究された末、「日本独自の洋菓子」として完成した。
当時のゴーフルは1枚ずつ表裏を返しながら手焼きし、クリームを職人が均等に塗り広げていたため、1日に作れるのはわずか800枚ほど。薄焼き生地にクリームを挟んだ軽い食感の洋菓子は珍しく、新しいもの好きで“ハイカラ”な神戸人の心をつかんだ。
焼け跡に残った一缶が、復活の鍵に
ゴーフル誕生から20年足らずの1945年、神戸は大きな空襲に見舞われる。元町一帯は焼け野原となり、〈神戸風月堂〉本店も全壊。ゴーフルの製造に関わる資料や機械も、そのほとんどが失われた。
長年培ってきた技術や記録も焼失し、ゴーフルの存続そのものが危ぶまれる状況の中、奇跡的に残されたものがあった。それが、二代目社長・吉川進の妻が疎開先へ持ち出していたゴーフル缶だ。焼失を免れたその缶は、当時のゴーフルの姿を伝える、ほぼ唯一の手がかりだった。お菓子の大きさや焼き型、缶のデザインなどをもとに、失われた商品の姿を少しずつ復元。菓子職人たちは、残された記憶と経験を頼りに試作を重ね、ゴーフルの味を取り戻した。やがて1951年頃から、〈神戸風月堂〉の再建が本格的に始まり、ゴーフルの製造も再開。
戦前と変わらない味わいとデザインでゴーフルを復活させた背景には、神戸の文化を次代へ受け継ぎたいという使命感と、戦災を乗り越えようとする人々へ変わらぬ親しみと安心を届けたいという強い思いがあった。
さらに二代目・吉川社長は「代表商品を一つに絞り、全力で育てる」方針を掲げ、ゴーフルを神戸風月堂復活の中心商品に据える。その後、製造技術の改良と全国展開も相まって、「神戸銘菓ゴーフル」として広く認知されることにつながったのだった。
神戸の暮らしに根づいた「ゴーフル」という存在
戦後復興とともに、ゴーフルは神戸を代表する洋菓子として定着していく。食べ終えた後の缶は、裁縫箱や小物入れとして再利用され、「関西の家庭に一缶はある」と言われるほど、暮らしの中に溶け込んでいった。
さらに全国では、「神戸土産」や「百貨店で買える贈答菓子」として、お中元やお歳暮といった季節のご挨拶や、手みやげとしても定番の進物菓子として広く浸透。特に、地元・神戸の人々にとっては「子どもの頃から家にあったお菓子」「帰省土産といえばゴーフル」など、暮らしの記憶と結びついたお菓子として語られることも少なくない。
長年愛され続けてきた理由のひとつが、ゴーフル缶のデザイン。落ち着いた茶色は、焼き菓子の香ばしさや温もりを思い起こさせる色。港町・神戸のハイカラな気風と調和する、モダニズムの美意識を反映している。進物にふさわしい品格を備えつつ、当時の住環境(木造建築や木製家具)にも自然と溶け込むように、という考えのもと採用された。
包装紙には、神戸ポートタワーや神戸海洋博物館、北野異人館、南京町、神戸大橋など、神戸を象徴する風景をデザイン。お菓子を通じて神戸の街を知ってほしいという願いが込められている。
次の100年へ。毎年進化するゴーフルの限定缶
1927年に誕生したゴーフルは、2027年に100周年という大きな節目を迎える。
その記念すべき年に向けて95周年を迎えた2022年から「ゴーフル100周年プロジェクト」がスタート。100周年を迎える2027年まで、毎年限定デザインのアニバーサリー商品を展開している。
ゴーフルの次の100年に向けて。〈神戸風月堂〉はこれからも伝統を守りながら、新しい世代にも愛されるブランドを目指している。
5月5日は、神戸風月堂が1980年(昭和55年)に記念日登録した「ゴーフルデー」。この日が広く知られ、毎年全国でみんなが「おいしい!」とゴーフルを頬張ること。それが、〈神戸風月堂〉の描く次の100年の夢だ。
子どもの頃に食べた味として、帰省の手みやげとして、あるいは戸棚の小物入れとして。「ゴーフル」はこれからも、人々の暮らしのそばにあり続けるだろう。
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