パピエラボ・江藤公昭の旅コラム
「必ず“収穫”がある。
3度目の〈板室温泉 大黒屋〉」

3度目の大黒屋

そして先日、3度目の宿泊のチャンス。
大黒屋では毎月26日に「音をたのしむ会」という催しがあり、宿泊者は自由に参加できる。
この日は、友人でもある作曲家の阿部海太郎さんの演奏会ということで、
それを目的に出かけた。

実はこのところ、家にある物の多さとそれと比例する散在ぶりを反省して、
物を買うのを節制しようと意識しているので、
ギャラリーでの買い物は控えようと決めていた。

ギャラリーの展示企画は「壺展」だった。
事前の決心も虚しく、到着して早々、抑えるはずだった物欲が溢れた。
まったくもって見たことのないタイプの壺があった。
惹かれるタイプの壺が数々あるなかで、「これは何だ、わからない……」と、
これだけは選ばないと思っていたのが、
ギャラリー内をうろうろしているとそれがどうしてもチラチラと目に止まる。
気になる……。

月替りで展示が企画されているギャラリースペース。

月替りで展示が企画されているギャラリースペース。

この春に代替わりしたばかりの17代目であり、
この展示の企画者でもある室井康希さんに尋ねると、
ロンドンを拠点にしている日本人の作家のもので、
日本で展示するのはほぼ初めてだという。

ちなみに室井さんは大黒屋を継ぐ前はアートを学んでいた。
この展示をするにあたり、
この作家の作品をどうしても入れたいと思ってなんとか輸入したという。

スイッチが入った。
久しぶりに感じる高揚感でうれしさすら湧いてきて、「これをください」と言っていた。
大収穫。
ギャラリーの横にあるショップには、
世界で有数の竹籠コレクターである斎藤正光さんから預かっているという竹籠があり、
妻はそこに並んでいたひとつを手に取って目を輝かせていた。
翌朝、室井さんに「これをください」と言っていた。
もうひとつ、収穫。

宇宙である庭の向こうに流れる川で釣りができると知って、
勇んで竹竿を抱えると、
今は先代となった16代目に
「魚と川の流れと自分の関係性をひとつにしないと釣れないですよ。
一元論ですよ」と言われた。

透明に澄み渡る川でまったく釣られる気配のない魚に向けて竹竿を垂らしながら、
魚とも川の流れともまだ一体になれない己れを思い知った。
収穫なしのバケツを手にした僕に先代は言った。

「獲ってやるぞ、なんて思っちゃダメですよ。それじゃ一体になれないですよ」

壺と竹籠を手にして大黒屋を後にしながら、次回の収穫を期待した。

profile

Kimiaki Eto 
江藤公昭

パピエラボ代表。2007年に紙と紙にまつわるプロダクトを扱うショップ、〈PAPIER LABO.〉を立ち上げる。店頭では、活版印刷を中心とした印刷物やデザインのオーダー窓口を設け、名刺や招待状などの製作をおこなう。ほかに、ロゴやパッケージ、出版物、Web、プロダクトなどのデザインも手がける。

Web:PAPIER LABO.

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江藤公昭 Kimiaki Eto

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