パピエラボ・江藤公昭の旅コラム
「必ず“収穫”がある。
3度目の〈板室温泉 大黒屋〉」

自然なかたちでアートに触れられる場所

世界的な美術家の作品が物々しく展示されているのを想像していたが、
到着して部屋に向かう廊下の至るところに、意外にラフに飾られていた。
その敷居の低さに驚きながらも、
これみよがしでなく自然なかたちでアートに触れさせてくれることに好感をもった。

この旅館にはさらにギャラリースペースがあって月替りで展示が企画されている。
このときは知らない陶芸家の展示だったのだけど、並んでいるものがどれもすごくいい。
黒田泰三さんにも師事した安齊賢太さんという方の展示だった。
見たことない質感をした黒い器で、形も好み。
正直、こんなに気に入るものがあるとは期待もしていなかっただけに、
余計に気分が高揚して、片口とお猪口を衝動買いした。

アート作品の鑑賞を目的に出かけた旅館で物欲が満たされるとは思ってもいなかった。
窓の向こうに山を望みながら、食事とお酒を堪能して、温泉に入って、
さらには物欲まで満たされて、思いがけない収穫だった。

2度目は友人と近くの山に登った後に泊まることになった。
2度目となると不思議と見える景色も変わり、特に庭が気になった。
大黒屋から徒歩3分ほどのところに、
(当時の)代表が保管する菅 木志雄さんの作品を見ることができる私設美術館があり、
代表が案内してくれるツアーに参加すると、旅館の庭も菅さんの作品なのだと教えられた。

菅 木志雄の庭「集空庭」。

菅 木志雄の庭「集空庭」。

菅 木志雄の庭「天の点景」

菅 木志雄の庭「天の点景」。

空海が説いた万物の構成要素である「六大」の「地 ・ 水 ・ 火 ・ 風 ・ 空 ・ 識」が
菅さんの解釈で表現されているのだと説明を聞いて、
とりあえずこの庭は宇宙なのだと、やんわり理解した。

菅さんという人は一元論に基づく芸術家なのだという代表の持論も聞き、
空海の六大についても一元論についても僕の頭では理解が追いつかなかったものの、
なんだか得体のしれない奥深さを感じた。

隣接する菅木志雄倉庫美術館。

隣接する菅木志雄倉庫美術館。

やや混乱したままに、例のギャラリースペースでふたりの陶芸家の作品展を見た。
ずらりと並ぶ器を見ているうちに混乱が解消されて、
それと同時に物欲スイッチが入り、あれやこれやと欲しくなってくる。
さっきまであの庭=宇宙の中にいてその壮大さと己れの小ささを感じていたはずなのに、
欲を滅すことはできないものだ。

いくつものお猪口を手にして「これらをください」と言っていた。
宗教や哲学を学んだという代表のツアーのおかげで、
最初に訪ねたときと比べて一段と充実した心地で、あぁここにはまた来るな、と思った。

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江藤公昭 Kimiaki Eto

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