〈東京ビエンナーレ〉がまちを変える?
『優美堂再生プロジェクト』で
中村政人さんがやろうとしていること

東京のまちが持つ可能性

この優美堂再生プロジェクトには「“私”から“私たち”へ」という、
東京ビエンナーレのメッセージが根底にある。
東京で暮らしているひとりひとりの“私”と、社会はどうつながっているのか。
さまざまな個があっても、全体を見渡すと、
文化よりも経済を優先してきた政策の結果、結局まちに残っているのは
均質化された無個性のものになっていないだろうか、と中村さんは言う。

「個人のおもしろい考え方を持っている人が、
全体とどういう関係を持てるかが重要なんじゃないかと思う。
なかなか個が全体とつながらないのですが、もし個々のおもしろい関係が広がって、
それが東京のひとつの個性となるくらいの文化として成長できれば、
東京はもっと魅力的になるはず。
一個人の魅力と一個人のあり方が生き生きしているならば、
全体も生き生きとなれるはずだと思うんです。

個人の思いがつながって“私”から“私たち”という意識が出てくるのが、
ひとつの重要な価値。いま徐々にその意識が生まれてきていると思います」

レインボービル9階で展示されている『東京Z学』。

レインボービル9階で展示されている『東京Z学』。

中村さんは優美堂のほかにもいくつかのプロジェクトを手がけている。
そのひとつが『東京Z学』。

都市の再開発のなかで忘れ去られたかのように佇む標識や、
ボロボロになったカラーコーン、なぜこんなところに? と思うような石など、
そのなんとも名づけがたい存在を「Z」と呼び、
それらを使ってインスタレーションとして展示するほか、
実際にまちに点在するZを見て歩けるマップも用意されている。

かつて赤瀬川原平らが行った「路上観察」にも近いように思え、
そういう視点でも楽しく見ることはできるが、
「Z学」は「純粋」「切実」「逸脱」の視座からそれらを批評する、
都市論とアートの研究でもある。

「カラーコーンがぐしゃっとなっている、あれが東京のひとつの姿だと思うんです。
あれを受け止めている場所があったり、受け入れる人がいるだけでも、
まだこのまちには可能性がある。Zは“絶望”のZだと言ってますが、
Aから始まってZまできても、まだ存在しうる。
あのカラーコーンが東京という全体に関係をつけられるまちであれば、
たぶんこのまちは豊かになれるはずなんです」

こちらも中村さんのプロジェクト『私たちは、顔のYシャツ』。インパクトのある看板建築で1920年に創業したワイシャツ専門店を保存し、まちに開いていく。

こちらも中村さんのプロジェクト『私たちは、顔のYシャツ』。インパクトのある看板建築で1920年に創業したワイシャツ専門店を保存し、まちに開いていく。

そういう意味では、優美堂そのものがZを体現しているという。
ボロボロの状態でシャッターが閉まったまま何年も経っていた優美堂は、
中村さんの思いと多くの人の力で蘇った。

「Zはその次にくるA、“愛”とか“明るさ”とも言えるけど、次を内在させているんです。
都市が新陳代謝をしていくなかで、ちょっとしたゴミや石ころのように見えるけれど、
それらは次なる大きな可能性を確実に持っている。
文化的な意味で考えると、Zを考えることは、それぞれの生き方や
それぞれの多様な価値観を受け止めるとともに、次の東京を、
次の僕らの生き方を考えるうえで、大事な切り口なんじゃないかと思います」

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