写真でめぐる、道東の魅力! 森と海、そして土地のぬくもり。 写真家・在本彌生の旅の記録。
雄大な自然に遭遇するところ
“道東”とは、北海道の東部エリアのこと。
太古の自然が息づく日本でも数少ない場所です。
野生動物や原生植物など
見たこともないかたちや色に驚かされます。
ブルーにきらめく不思議な湖や世界自然遺産の知床半島、
まるで異国のような絶景が広がる、根室の岬。
そして、十勝の肥沃な土地で育まれたおいしいものも。
取材の移動距離はおおよそ1200キロ。
道東の旅で出合ったあれこれを、写真家・在本彌生が切り撮ります。
1 森と湖とアイヌ文化

深い森の奥にあらわれた湖〈オンネトー〉。

阿寒湖アイヌコタンにいると、
突然アオサギが来て闊歩し始めた。

アイヌ古式舞踊の踊り手のひとり、篠田マナさん。

アイヌ古式舞踊のひとつ、
『黒髪の踊り(フッタレチュイ)』



手仕事の美しさに惹かれてしまった
アイヌの木彫りの髪飾り。

夕食後、アイヌコタンを再び訪れてみた。

ほろ酔いの私たちに、東京から嫁いだときの
思い出話やアイヌ文化についてやさしく教えてくれた
〈クロユリ屋〉の中川祐子さん。

朝、車を知床へ走らせる。

霧が立ちこめることが多い摩周湖だが、
この日は快晴。

川湯摩周踏切にて。

神の子池の水の美しさに心を奪われ、
しばし立ち止まる。
自然のなかに、想像を超える驚きがある。
それが北海道の魅力です。神の子池を見たときは、これ以上ない透き通った青を見て、ふっと異世界にワープしました。
美しい水をたたえる阿寒湖、摩周湖などの
ミステリアスな湖でも出合いました。
自然が、ありのままの姿で、迫力をもって目の前に広がります。
自分のなんとちっぽけなことか。
そんな豊かな自然の中で生きてきたアイヌの人々の手仕事には、
どこか力が宿っているに違いありません。
一度、センの木でつくられた手彫りのブレスレットを見て触れたら、
私、それが気になって仕方がなくなってしまったのです。
刻まれた絵柄は、植物や眼を表していると聞き、
お守り代わりに手に入れることにしました。
有機的な造形は心地よく、ほとんど毎日身につけています。
この旅で見たアイヌの人々の歌や踊りも、
動物、火、など、自然の要素が盛り込まれていて、
自然を敬う民であることがよくわかります。
阿寒湖を訪れたことで、
アイヌの人々が育んで伝えてきた文化をもっと知りたくなりました。
[ff_assignvar name="nexttext" value="車は、そのまま知床半島へ"]
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2 知床の山と海

オホーツク海が見えてきた。ずっと海岸線を走る。


まだ早いかと半信半疑で行ってみた
遠音別川の河口付近。サケやカラフトマスが
遡上する姿に感動。

知床五湖へ行く途中、
プユニ岬からオホーツク階を望む。


知床五湖を歩く。
二湖から望む知床連山が美しかった。

360度、海・山・湖と雄大な景色に囲まれ、
高架木道を歩くのはとても壮快。

夕日がオホーツク海に沈んでゆく。

ホテルの近くに咲いていたクリマユリ。

知床グランドホテル北こぶしのバーで。

翌朝、ホテルの部屋からも見えたウトロ港の漁。
1日のはじまり。

知床峠へ車を走らせる途中、
車も気にせず草を食むエゾジカ。

知床峠。

道の駅 知床・らうすで出合った宝石のような
色をしていた羅臼町の名産、ぼたんえび。
知床の地を訪れてみたい、
そう長い間思っていました。東京に住む私からはとても遠いところですが、昔から歌にも歌われるように、なんとも旅情を誘う響き、最果ての地のイメージです。
車を走らせていると道路での動物との遭遇率が非常に高く、
はじめのうちは「わ、鹿だ!」「キタキツネが歩いてる!」
といちいち驚いていましたが、
そのうち路地で猫に合うような確率で彼らと出合いました。
そうすると更なる発見を求めて、
どれだけ立派な角の鹿を見つけるか重要になってきました。
あの角の、自由にして規則的な造形の美しさというのは本当に特別です。
この上なく立派な角を持ったエゾシカが
堂々と道路脇で草を食んでいるのを見たときは、
いつまででもこのエゾシカを撮影していたい気持ちになりました。
そんなわけにもいかないので旅路をすすめ、
サケが川で流れに逆らいながら遡上するところを見て感激したり、
熊に気をつけながら知床五湖の高架木道を歩いたり、
流氷に乗った熊を象った氷の浮かんだウイスキーをなめたりしました。
[ff_assignvar name="nexttext" value="中標津で取材後、最東端のまち根室へ"]
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3 時空を超える、根室の自然

根室を走っていると、道路に昆布が落ちていました。さらに走ると、昆布盛という駅に遭遇。
近くで昆布漁をしているのではと、海岸を探して車を走らせます。

道路にまた昆布が落ちています。きっと近いはず。

見つけました。浜松の海岸で出合った昆布拾い。重い昆布をかつぎトラックへ。商品となるまでには、
この後約40以上の工程があるそう。手間ひまかけて私たちの食卓へと来ていることを学びます。

道中に食べていきなとおいしい昆布を家から持ってきてくれました。土地のあたたかさに触れた旅のひとコマ。

続いて、根室の知人たちに教えてもらった
落石岬灯台へ。

絶壁と太平洋。

北欧やアイルランドに来たかのような
景観に圧倒されます。

ハマナス。

そのまま近くの森を散策。


根室市の中心街へ戻り、魚信へ。

最後に訪れたのは、春国岱(しゅんくにたい)。
ドキドキするような真っ赤なアッケシソウが。

この風景のなかをひたすら歩く。

1時間以上歩いて出合えた、念願のクジラの骨。
北海道の根室で会った知人に、
春国岱(しゅんくにたい)という湿地帯で、クジラの骨を見つけられると聞いた。海で死んだクジラが、流れ着いて浜に上がる。鳥たちや動物たちに肉を食べられ、骨だけがそこに残るのだという。
私は浜に佇むクジラの骨を思った。
春国岱に立ち寄る予定はなかったのに、
クジラの骨のことを考えるといてもたってもいられなくなった。
どうしてもこの眼で見て、写真に収めたかった。
無理を承知で、同行していた編集者に翌日の予定の大幅変更を懇願し、
クジラの骨を目指し湿原を歩くことにした。
右手は灰色波立った海、左手には数千年かけてつくり上げられた湿原と林、
そんななかを歩いていると、
いつの時代のどこの場所にいるのかわからない感じ。
遠近感が狂い、時空がよじれるような不思議な感覚が、
脳みその内側から溢れ出てくる。
ごま粒のような小さな虫にあちこち刺されながら、
ひたすら続く海岸に沿って砂浜を進んだ。
クジラの骨のだいたいの在処は聞いてきていたので、
そろそろあるはず、と期待を膨らませながら、
行く手に白っぽいものを見つけては歩み寄る。
しかし、それは打ち上げられた流木や貝殻だった。
それを何度も繰り返しながら1時間近く歩いて、とうとう砂浜が途切れた。
もう時間切れだから引き返そう、そう促され、悔しい気持ちが残る。
見落としたはずはないと思いつつ、
歩いてきた浜をもう一度見直しながら引き返すことになった。
私は納得がいかなかった。
巨大なクジラの骨は、高波にさらわれ根こそぎ浜から消えたのか、
急速に風化したのか。かけらにも出合えない自分の不運を嘆いて、
一杯やるしかないのか……。
私は来た道をもう一度丁寧に、点検しながら歩く。
骨には見切りをつけて、湿原の野鳥や草花を見て帰ろうと、
編集者は奥まった林に近い草原の道を歩いた。
半分も過ぎたあたりで、呼び声が聞こえた。
「骨、あったー!」
彼女は海沿いの浜から50メートルも内側にはいった、
小い道からこっちに向かって手を振っている。
一瞬冗談かと思ったが、確信を持って手招きをしている。
駆けてゆくと、確かにクジラの骨が、草っ原にどっかりと並んでいた。
公園の遊具のようで拍子抜けした。
この世界に生まれ落ちたところと、消えるところが違っても問題はない。
大きな命が死んだ後、その身を遍く生き物たちに振り撒いて、
すっかりなくなり骨になる。そしていつか
その美しい彫刻のような白い骨さえも風化されていく。
そんな終わり方、この上なく綺麗ではないか。
巨体からほんの一部残された、それでもかなり大きな骨の連なりを、
しばらく私はじっくりと眺め、そして3枚シャッターを切った。
「どこを探していたんだよ」
クジラの骨は、ちっぽけな私を嗤っていた。
[ff_assignvar name="nexttext" value="根室から弟子屈まで戻り、十勝エリアへ"]
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4 十勝のめぐみ

旅の終盤、根室から十勝を目指し、弟子屈で1泊。

朝から賑わっていた〈窪内農場〉の直売所。訪れたときはとうきびが旬。元気なお母さんたちに癒されました。

農場の四代目、窪内英和さんは若干26歳。父の働く姿に農家を継ぐことを決意。
「自分の代で終わりにできない。農業は大変は大変だけですよ。でもやりがいもある」と、
突然の私たちの訪問にも丁寧に話してくれ、胸がジーンとなりました。

途中、足寄町で看板につられ、山のなかに入っていくと阿部養蜂場が。北海道らしいシナのはちみつを購入。

更別村のかっこう料理店へ。

地元の野菜を使った絶品料理に舌鼓。

続いて、上士幌町へと北上。
前にはじゃがいもを乗せたトラックが。

大雪山の麓、糠平温泉中村屋へ。こちらは夕食後のデザート。

朝の光が美しかった。

中村屋を切り盛りするご家族のみなさん。
あたたかいおもてなしに癒されました。

ふたたび中札内村へ戻り。

小さな野花が可憐に咲く六花の森へ。


帯広空港近くの牧場にて、最後の撮影。
おいしいものにたくさん出合える北海道。
そのなかでも気候に恵まれた十勝で味わうものは、自然の力をたっぷりと取り込んで、つくり手が手塩にかけて育てた宝は、格別の味です。
それがそのまま身体に取り込まれ、舌も心も満たされる、
ささやかにして貴重な幸せです。
目に入る景色、色も優しく、丁寧に調理されたお料理の素晴らしさから、
素材の味がダイレクトに伝わるふかした芋や、
ゆでたトウモロコシの素直なおいしさまで、
どれもこれも口にする度に「おいしい!」と
平凡だけど素直な感想を思わずいってしまう、そんなものばかりです。
土地の人々はそれを自然に受け止め、静かに表現しています。
十勝で見た野の花の可憐な美しさ、
樹々の中を歩く気持ちよさ、喜びは、
自分の町に戻ってきても忘れられません。
自然と土地の人々の力に感謝の気持ちを抱きました。
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