連載
posted:2015.3.10 from:東京都 genre:ものづくり
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
プロダクトをつくる、場をつくる、伝統をつなぐシステムをつくる…。
今シーズン貝印 × colocalのチームが訪ねるのは、これからの時代の「つくる」を実践する人々や現場。
日本国内、あるいはときに海外の、作り手たちを訪ねていきます。
editor profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
photographer
Suzu(Fresco)
スズ●フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。
http://fresco-style.com/blog/
前編:マシンメイドのジュエリーブランド INSTANT JEWEL前編 はこちら
ものづくりにおいて、伝統工芸や職人は注目されやすい。
しかし実際に身の回りは、たくさんの工業製品に囲まれている。
それらは当たり前すぎて認識されにくいが、
日本が工業化を推し進めてきた過程において、必ず技術や職人の蓄積がある。
しかし、伝統技術の後継者不足と同様に、
工業界もまた、製造拠点が海外に流失しているのだ。これを失うのはもったいない。
工業的なアプローチでかわいいアクセサリーをつくっているのが、
インスタントジュエルだ。
プラスチック素材を中心にして、マシンメイド=機械でつくられている。
デザインを担当しているのは、
インテリアプロダクトなどを中心に手がけている大友 学(stagio inc.)さんだ。
「普段の仕事のなかで、なくなっていく工場もたくさん見ています。
“違うものをつくればいいのに”と思うのですが、
工場にとってはもちろんそんな簡単な話ではありません。
だから私たちのような存在が、
“ほら、違うものつくれるじゃん”という例を示していきたい」
そんな思いから、インスタントジュエルが生まれた。
工場の職人たちは、つくり手として認識されにくく、日の目を見ることが少ない。
しかし自分たちがつくっているものが、「インスタントジュエル」という存在として、
“かわいい”という価値観で買われていくようになる。
「日々、“レイコンマ”の世界で戦っているすばらしい職人さんたちです。
そんな職人さんの工場という現場感と若い女の子たちという、
一番遠い存在をガチャーンとくっつけてみたらどうなるか。
工場の職人さんたちも喜ぶと思ったんですよね」
普段、工場でつくっている製品と、このインスタントジュエルとの製造過程自体に、
それほど大きな違いはないだろう。
しかしアウトプットが異なれば、まったく違う反応がみられる。
それが付加価値であり、それを可能にするのがデザインの力だ。
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インスタントジュエルのプラスチック商品のほとんどを製造しているのが、
大阪にあるツルミプラという成形メーカー。
普段は、主に医療機器や自動車の部品を製造している。
「数が多く出るものは、やはり海外生産に移ってきています。
だからうちでは、極端にいえば、発注1個でもつくります。
これからは“まずはやってやろう”というチャレンジ精神がないといけません」
と応えてくれたのは、ツルミプラ営業部次長の青木大志さん。
「いつもは図面がすでにあって、それに対して応えるという作業ですが、
インスタントジュエルに関しては、初期段階から関わらせていただきました。
初めてデザイン画を見たときは、“うわ、こんなのできるやろか”と不安でしたよ(笑)」
インスタントジュエルのプラスチック製品は、射出成形でつくられている。
それには金型が必要だ。
これをつくり、どのような製造過程にしていくかが、工場に蓄積されてきた技。
「シンプルなかたちであっても、金型に樹脂を流し込んで製品を取り出そうとしたら、
それなりの決まりがあります」と青木さん。
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「金型を上と下で開いて立体物ができるわけですが、
それだけだと、首などのような形状だと引っかかって抜けないことがあります。
その場合は上下ではなく、左右で抜けばいいですよね。
そういった作業の、さらにすごく複雑なことをやっています。
“コレを右に抜いて、こっちをスライドさせながら抜いて”と。
それらすべてを計算して金型をつくっているんです。もちろん効率や生産性も考えながら」
と大友さんも言う。
金型づくりには、素材である樹脂の特性も加味しなければならない。
プラスチック樹脂にも、種類がある。
アクリル、ABS、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート……。
身の回りの商品をよく見てみると、
同じプラスチックでも、いろいろな素材が使われていることがわかる。
それらは汎用プラスチック、エンジニアプラスチック(エンプラ)、
スーパーエンジニアプラスチック(スーパーエンプラ)などの特性にも分けられる。
ツルミプラでは、難易度の高いスーパーエンプラの成形まで対応できるという。
大友さんがプラスチックの素材を選ぶときに考えるのは、「機能性が第一義」という。
「たとえばPLAMOという商品は、最終的にレーザーでカットします。
耐熱温度が低いから、端面がキレイに、つやっと仕上がるのがアクリル。
また透明度が高いから、こういったキラキラ形状ならアクリルしかないと」
以下、大友さんによる、ちょっと専門的な樹脂解説。
「〈1 KNOT〉は2色成形という製法。
ポリプロピレンとエラストマーというやわらかい樹脂を、金型内で融着しています。
違う樹脂同士の密着度合いや発色、弾性などを考慮して選びます」
「〈CHAIN-CHAIN〉も不透明色はABS、
透明色はポリカーボネートの2種類の樹脂で構成されています。
ABSは広く使われる一般的な樹脂で、熱のかかる製品でなければ、
不透明なものはABSを用いることが多いです。
原料価格も汎用樹脂だけあってこなれています」
「一方、透明色のほうはPMMA(アクリル)、PS(ポリスチレン)、
PP(ポリプロピレン)、PC(ポリカーボネート)などが挙げられますが、
透明度があっても硬度に問題があったり、
透明といっても白っぽかったり、青っぽかったりとそれぞれに個性があります。
今回は、押し広げたり、すり合わせたりして、取り付け/取り外しするので、
ある程度の強度が必要。
小さいものもあるし、PMMAだとちょっと不安なので、PCにしました」
プラスチック樹脂は、太古からあるものではなく、
青木さんいわく「樹脂なんてたかが100年あるかないか」。
たしかに木や石、金属に比べても、それほど歴史があるわけではない。
だからこそ、まだまだ技術が発展する余地がある。
「伝統工芸の一子相伝のような技は、もちろん技巧としてはすばらしいです。
でも工業のジャンルでも、これまでにそれこそ何万人・何十万人というひとが
関わってきているんです。その技術の蓄積は膨大なはずです」
同じマシンメイドなのに、日本のものづくりがすばらしいといわれるのはなぜだろう。
マシンメイドの裏側には、たくさんの職人の物語があるのだ。
「当たり前のことを、当たり前のように“きちっと”できるのが日本人。
そういう小さなことが積み重なって、ひとつの製品になっていると思います。
それが日本人のクオリティの高さ」という青木さん。
「同じものを、均質に、間違えなくたくさんつくる。
きちんとつくるってすごく大変ですよね。そしてそのクオリティを達成したあとに、
維持することも難しい。日本の製造業は、高次元なことを当たり前にやっています。
それで破綻をきたさないという責任感も強いです」
こうしたクオリティと、斬新なアイデアや高いデザイン性がかみ合えば、
まだまだ日本の製造業は死なず。
それこそ、小さなジュエリーからロケットまでつくれる技術を持っているのだ。
それならば、これからはインスタントジュエルのように、
高らかにマシンメイドを謳ってもいいのではないか。
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