作家・せきしろの旅コラム 「郷愁を誘う、冬晴れの富山吟行」

真珠コーナー

ついに目的地である〈真珠コーナー〉に到着した。〈真珠コーナー〉といっても真珠だけ売っているわけではなく、その他にも商品はある。むしろその「その他」の方が多い。そしてその「その他」は大量なのである。80年代前後のファンシーショップで目にしていたような商品と鉱物と貝殻が同居している。とにかく嫌いなものが何もない空間だ。
お土産を見始めると、これいいなとかあれが欲しいなとなる。自分用のものを選びつつ、やがて「これはあの人にあげよう」となる。いつも何人かの顔が浮かぶ。お店の人に買い物かご代わりのトレイを貸していただき、目についたものを入れていく。迷って入れなかったものを、二周目で入れていく。
渡したい人に渡せるか。あるいは渡せないものだらけになるか。

魚津水族館

帰りは富山地方鉄道の西魚津駅まで歩くことにする。日が暮れ始め雪で白い山々がさらにくっきりとしている。この景色を見て「いよいよ冬か」と思う時と「もう冬だ」と思う時と「まだ冬か」と思う時と「もうすぐ春だ」と思う時があるのだろう。
この初めて歩く長閑な道が、誰かにとっては生活に根付いた道であり、思い出の道であろう。そんなことも考える。周りの音はほとんどなく、自分が歩く音だけが聞こえる。雪の上の誰かの足跡は自分とは別の方へ向かっている。観覧車は徐々に遠くなり、私のような旅行者にひとりだけ会って、会釈する。

西魚津駅は無人駅だった。ホームで電車を待つ。
あとは魚津でお酒が飲めるところを探すだけである。そこで明日はどこに行くのか決めるのだ。

西魚津駅

知らない足跡夕闇へ向かう
渡せなかったお土産見えないところへ

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せきしろ

1970年北海道訓子府町生まれ。作家、自由律俳句俳人。主な著書に『去年ルノアールで』『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』『たとえる技術』『バスは北を進む』『放哉の本を読まずに孤独』、自由律俳句集『そんな言葉があることを忘れていた』、『蕎麦湯が来ない』など。東北各地を歩きながら、自由律俳句を生み出していく旅番組『又吉・せきしろのなにもしない散歩』(BSよしもと)に出演中。

Web:せきしろ公式サイトスーパー西富

Instagram:@sekishiro2

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せきしろ Sekishiro

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