コピーライター・日下慶太の旅コラム
「新聞配達員として、
道を切り開くおばあちゃん」
おばあちゃん配達員の話
取材をしていて特に印象的だったのが光岡さんというおばあさんの配達員だった。
前情報として、豆腐をつくってから新聞配達をしているとのことだった。
このネタがおもしろいということで、
複数いた配達員の候補から光岡さんを選び、取材に向かった。

中国山地の農村。赤い石州瓦が美しい。
江津市の山間の一軒家に行くと玄関に光岡さんがいた。
「あんたが取材にきたのかね」と光岡さんは猫を抱えながら、怪訝な表情で我々を迎えた。
普通、じゃあ中にどうぞと、居間などに通してもらって取材が始まるが、
家に入れてもらえる気配がない。そのまま立ち話をして取材を進める。
毎日のスケジュール、新聞配達で気をつけていることなどを尋ねる。
1時に起きて、4時に配達にでかけて、6時に帰ってくる。
豆腐のことは趣味でつくっているものだからと、語りたがらない。
豆腐づくりの現場を見せてもらおうとしたが、片づいていないからと見せてくれない。
これは困った。豆腐のネタが使えない。
何かほかにネタになりそうなことはないかと、質問を重ねる。
しかし、これといって興味を引くようなものがない。
なんでもいいから糸口を探そうと、
「とりあえず、配達ルートを見せてください」と光岡さんと一緒に現地を回ることにした。

車で配達ルートを回る。左が光岡さん。
一緒に仕事をしているアートディレクターの布野さんが運転し、
光岡さんが助手席に座って道案内をする。私は後部座席に座った。
川沿いの道を行く。ここは水害が多いので、道から少し高いところに家がある。
車を道に止め、階段を昇るのはひと苦労なので、
だいたいの家が階段の下にポストを置いている。
しかし、なかには坂を登って家の玄関にあるポストまで
新聞を届けなくてはいけないところがいくつかある。
「ここが、いちばん大変だがぁ」と光岡さんは言った。
車を止めると急な上り坂があった。
光岡さんは車で待ち、私たちはポストまで歩いて行くことにした。
舗装はところどころ崩れていて、油断をすると足を挫いてしまいそうだ。
舗装がなくなると、獣道のようになり、歩くこと5分。
ようやく石州瓦の家が見えてきた。
すべての階段を登り切ったところにポストがあった。

急な坂道を登ると現れた民家。
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