ミュージシャン・DJみそしると
MCごはんの旅コラム
「富山のハレとケ、
さらに異国情緒たっぷりのグルメ旅」
さまざまなクリエイターによる旅のリレーコラム連載。
第23回は、ミュージシャンの「DJみそしるとMCごはん」さんです。
名前のとおりくいしんぼうな彼女による富山の旅。
食文化の3つの側面を発見し、その虜になったようです。
見事な「食レポ」は、読むだけでお腹が減ってきます。
富山の海の幸から、庶民の味まで
富山で「A面」「B面」「隠しトラック」とも呼べるような料理に出合った、
想定外のグルメ旅。わたしは富山の虜になった。
2021年12月初め。夫が仕事で北陸に行くと聞き、仕事とはいえうらやましい!
私も未開の地でいい思いがしたい! と、
持ち前の“隣の芝が青く見えすぎる症候群”が発動し、
仕事の翌日、富山で合流して旅行することになった。
旅行が決まったものの、2日前になってもノープランだった。
原田マハさんの『フーテンのマハ』という旅エッセイを読んでから、
行き当たりばったり旅に憧れていたのだ。
しかし、夫に「旅の食べ物は任せたよ」と言われハッとする。
マハさんと違って自分は旅慣れていない。ぼんやりしたまま旅が終わるのが想像できた。
冬の富山といえば、氷見の寒ブリ。食べるなら今が絶好のチャンス!
それに気づいた途端、急に富山に呼ばれている気がした。
インスタで「#氷見」を見まくると、
ブリ尽くしのコース料理が食べられる〈ひみ浜〉という店を発見。
その日の店の投稿を見ると、ブリの仕入れがあり、
我々が富山にいる日に新規予約を受け付けるという。その場で電話すると予約が取れた。
いいブリがなければ、予約していてもキャンセルになる貴重な席だ。
目的がひとつ明確になると、宿や新幹線の時間もすぐに決まった。
氷見の寒ブリがわたしを突き動かす。
圧倒されて沈黙してしまうほどの寒ブリフルコース!
夫とは、高岡駅で合流した。高岡市は藤子・F・不二雄先生の故郷。
〈高岡市 藤子・F・不二雄ふるさとギャラリー〉で原画を堪能したあと、
小矢部市にある温泉で身を清め、目的の店に着いたのは17時だった。

好きなアーティストのライブ前みたいな気持ちで、寒ブリの登場を待つ。
刺身が運ばれてくると、1枚の大きさに目を見張った。見慣れたサイズの3倍近くある。
白から薄桃色の霜降りグラデーション、血合いは奥ゆかしい紅色だ。
甘めの醤油にくぐらせて口いっぱいに頬張る。こりっとした繊維を断ち切ると、
豊潤な脂身が舌の上にとろけ出した。
思わず全神経を口の中に集中させる。

2品目は塩焼き。落ち葉のようにカラッと焼かれた皮と身を割ると、
驚くほどの水分が閉じ込められていた。
まるで焼き物の顔をした蒸し料理だった。

定番料理が次々にわたしを裏切る。3品目は、血合いでつくられたブリ大根。
甘辛い煮汁と味の濃い血合いがよく合う。
ブリを知り尽くす人の料理だ。

圧倒されて黙り込むわたしの前に運ばれてきたのは、ラスボス、ぶりしゃぶ。
刺身でもおいしい切り身を、琥珀色の出汁に沈めること……………5秒。
この集中力、ゾーンかよ。
ポン酢醤油と大根おろしで食べれば、その濃淡にノックアウト。
できるだけ長く味わっていたくて、漏れる鼻息すら惜しい。

脂がのったブリをしこたま食べたのに、不思議と胃は重くない。
むしろ「もっとうまいものをよこせ」と覚醒していた。
そんな好タイミングで運ばれてきたのが、キンキンの冷水で締められた氷見うどん。
生醤油で食べると、ほてった体に心地良い。
結局、氷見うどんを3回もおかわりして店を出た。
以上が、富山の「A面」グルメだ。

氷見から砺波へ。B面から隠しトラックへ
氷見市は、藤子不二雄A先生の故郷でもある。
翌日、〈氷見市潮風ギャラリー〉に飾られたA先生の作品や
商店街のキャラクター像を見て回ると、あっという間に昼になった。
凍えた体で向かう先は、田んぼと民家の間にある〈紋食堂〉。
お目当てはラーメン。富山といえば富山ブラックが有名だが、ここの売りは豚骨ベース。

餡かけほどのとろみがある白濁スープが、ちぢれ麺によく絡む。
〈天下一品〉のスープと遠からず。びっくりしたのは、メンマの甘いこと!
いなり寿司やみたらし団子のような味つけで後を引く。
富山の練り製品、赤巻きがナルトの代役。
スープをほとんど飲み干し、身体の芯から温まった。
寒さが厳しい富山の冬には、なくてはならない存在なのだろう。
地元民に愛される味=「B面」グルメとの出会いも、旅の一興だ。

残すはあと1食。夕食に備え、砺波市の山間にある温泉施設で過ごす。
体の内も外もすっかり富山色だ。
旅のフィナーレは、パキスタンカレー。
もう一歩富山に踏み込んだ「隠しトラック」的グルメだ。
射水市には在日パキスタン人のコミュニティがあり、
彼らに向けた本格的なパキスタン料理が食べられる。
私たちが行った〈ザイカ・カレーハウス〉という店は、
看板やメニューは一応日本語表記だが、店員に日本語が通じない。
メニューを指差して注文する。
頼んだのは、マトンのほうれん草カレー、チキントマトカレー、
2種類のナン、ビリヤニ。
ふたりにしては頼みすぎたが、次にいつ来られるかわからない。悔いは残したくない。

運ばれてきた料理は、一切、日本人好みになっていない味だった。
ビリヤニはスパイスと酸味が効いて、骨ごとぶった斬られた鶏肉がゴロゴロ入っている。
カレーはどろりと濃厚。マトンの主張が強い。
デフォルトでサラダとマンゴージュースがつく。
パキスタンにいるような錯覚に陥る。
会計時、お釣りが400円のところ1000円返そうとしてくるので、
ジェスチャーで400円でいいのだと伝え、
伝わったのか諦めたのかわからない曖昧な微笑みと正しい釣り銭を受け取り、
帰路についた。
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DJみそしるとMCごはん
「おいしいものは人類の奇跡だ!」をモットーに、トラック、リリック、アートワーク、Music Videoなどを自ら制作し、料理と音楽の新たな楽しみ方を提案する、くいしんぼうヒップホッパー。まぎらわしい名前だけど、ひとり。Eテレにて放送されている、“音楽×料理”番組『ごちそんぐDJ』にレギュラー出演中。好奇心の赴くまま、ジャンルを自由に横断するさまは、くいしんぼうの面目躍如。
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