音楽家・蓮沼執太の旅コラム
「現代まで使用されている
江戸時代のキネティックアート」
さまざまなクリエイターによる旅のリレーコラム連載。
第4回は、音楽家の蓮沼執太さんが
香川県の〈金毘羅山〉を訪れた話。
四国駆け足旅の一貫として登った金毘羅山ですが
現地で知った歌舞伎舞台の仕組みには、とても驚いたようです。
「海」と「山」を意識させる金毘羅山
去年の冬、香川県西部に位置する琴平山、通称〈金毘羅山〉へ行ってきました。
この旅ではまず、新幹線で東京駅から岡山駅へ向かい、
そこからはレンタカーで、四国を駆け足で回ろうという2泊3日の計画です。
旅の目的は、
有名無名を問わず四国のモダニズム建築を観に行くこと、
予約した〈イサム・ノグチ庭園美術館〉への訪問、
気になっていた陶器を買いに窯元を訪れる、
さまざまな種類の温泉に入る
など、リサーチと楽しみを詰め込んだ、わりと“旅”の定番のようなものでした。
今振り返ると、四国周辺をレンタカーで3日間、
倉敷、尾道、道後、琴平、丸亀、鳴門、高松と回って、
再び岡山に戻ってくるルートは
かなりかっ飛ばすような、勢いある道中のようにも思えます。

この日は、晴れ間にプカプカと白い雲が浮かぶ天気の良い日。
車を走らせていると、
丸みを帯びたみどり色とつち色の台形が、地面とくっついた山が見えてきました。
これが琴平山。この辺りの山はひとつひとつが独立していて、
山脈のような連なりを感じさせない、まさに「山」が存在している印象でした。
旅中盤の宿泊先として選んだのが金毘羅山の麓。
この「こんぴらさん」という言葉の響きは知っていたけれど、
「こんぴらさん」についての前知識はありません。
予定よりも早く琴平山に到着し、宿泊先へ。
まだ日も暮れていなかったので、
知らない土地「こんぴらさん」をちょっと知りたいと思いました。
表参道を歩かず、
宿の裏から裏道を歩く気分で、中心に向かって歩いて行きました。

脇道から入るかたちで〈金刀比羅宮〉に向かうと、
すぐに目に入ってきたのがなんと歌舞伎座。
〈旧金毘羅大芝居 金丸座〉という舞台場です。
案内のおじさんの解説によると、現存する日本最古の芝居小屋で、
しかも今なお現役と知り、驚いてしまいました。
舞台や客席だけでなく、劇場の裏側や地下まで見学させていただきました。
そこには、なんと、手動で動かす木の舞台装置がドスン!と鎮座しており、
本番では人間の力のみで舞台装置が動き出すという、
なんともアナログなシステムに思わぬ感銘を受けてしまいました。

熱心に細かく観ている人間が珍しいのか、
そのおじさんからも親切に声をかけていただいて、
いろいろと知ることができました。
江戸時代のキネティック・アートが舞台空間として現在につながっている
素晴らしい場所でした。
「やっぱり知らない土地は楽しいなぁ」なんて思っていると、
少し日も暮れ出したのでやや急ぎ足で
脇道から金刀比羅宮へ向かう石段の表参道に入りました。

日中のにぎわいが落ち着き始めた時間帯、
どこかいわゆる観光地的な風情のあるお店が参道に立ち並んでいます。
登っていくにつれ、その背中に、琴平のまちが現れてきました。
緑も多い土地にポツポツと住宅地が広がり、
その先には「山」という文字のような形をした山が現れます。
ここは、海の神様を祀った金比羅山の総本宮だそう。
1368段という長く続く石段の参道を上がっていくと「海」の神様に近づきつつ、
背景には「山」を意識させる景色が広がる場所。

夕刻ということもあって、
いよいよ人の気配も無くなり静かになった奥社で耳を澄ましてみる。
ひたすら石段を上がったこともあり、本宮の近くは眼下に山や家々をのぞむ良い展望。
辺りの景色がよく見える場所に行き、眺める。
そこから見える山のラインを左から右に目でなぞってみる。
金毘羅山が持っているたくさんの時間、
車で渡った瀬戸の「海」をイメージしながら、目の前の「山」を見つめる。
この土地に少し触れることができたな、と感じた瞬間でした。
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