モデル・KIKIの旅コラム
「たった数時間でカゴいっぱいになった
菅平高原のきのこ狩り」

さまざまなクリエイターによる旅のリレーコラム連載。
第1回は、モデルのKIKIさんが
昨年、長野県の菅平高原に、きのこ狩りに訪れた話。
きのこは食べられるかどうかの判断が難しいですが
採れたてのおいしさには目を見張るものがあったようです。

最初はわからなかったけれど、だんだんときのこの場所がわかってくる

昨年の今ごろ、きのこ狩りに誘われて長野の菅平高原に行ってきた。
声をかけてくれたのは東京でレストランを営むKさんご夫妻。
毎年その時季のきのこ狩りは、ご夫妻にとっては恒例行事でもあり、
実際に採れたきのこは自分たちで食べるのはもちろん、
レストランでも料理をして出しているのだそう。
採り方はもちろん、美味しくきのこを料理することについても
豊富な知識を持っているのは確実である。

以前、別の知人に誘われてきのこ狩りに行ったことがある。
その人はきのこに関する知識は抜群だったけれど、きのこ愛が過剰で、
「多少毒があってもすごくおいしいきのこがあり、
われわれきのこ好きはお腹を壊すのを覚悟で食べる」と口走っていた。

その晩キャンプをして、
すばらしい料理の腕を振舞ってくれたのはうれしかったのだけれど、
あとでお腹が痛くなるのではないかと気が気でなかった。
実際お腹を壊すことはなかったものの、
この人ときのこ狩りはもう行くまい、と心に決めたのだった。

菅平でのきのこ狩りのメンバーはKさんご夫妻と、夫と飼い犬(柴犬・雌)。
わたしはというと当時妊娠7か月のお腹で、
狩るというよりみんなの後をついてまわるばかりだったけれど、
久々に自然のなかで過ごす時間が心地よかった。

秋晴れ。菅平と聞くと、それまではスキー場のイメージが強かったけれど、
牧場があったり、グラウンドがあったり。
高原というだけあって、空だけでなく、すべてが広々としている気持ちのいい場所だ。
陸上やラグビーの夏の合宿地としても有名らしい。

未舗装の林道が始まる手前で車を停めて、ここからすぐですから、とついていくと、
3分も歩かないうちにKさんは道端に屈みこんで
「あったあった!」と指をさして教えてくれた。
初めのうちは、そんなふうに「ここですよー」と教えてもらっても、
じっと目を凝らさないと見つけることができなかった。
けれど、だんだんと慣れてくると、
わたしのような素人でもきのこがありそうな場所がわかってくるからおもしろい。

針葉樹林の足元、土に埋もれた倒木など、
きのこの種類によって生える場所の特徴があるとのこと。
Kさんは歩みを森の奥に進めながら、次々に多種多様なきのこの存在を教えてくれた。

ハナイグチ、アミタケ、ハタケシメジ、オオツガダケ。

ぱっと見は同じに見えるのだけれど、
こっちは大丈夫、あっちは毒があって食べられないと、
隣同士に生えているものでも違うそうだ。傘を裏返して傷つけると違いがわかる。
一方は傷をつけたところが青紫色に変わり、もう一方は白色のまま。
素人判断では青紫に変色する方がまずそうだけれど、
そちらが正解で食べられるきのこだという。

色が変わるけど食べられるとか、毒があるけどおいしいなど。
きのこはやっぱり判断が難しい。
それでも2、3時間で持っていた大きめのカゴが、きのこでいっぱいになった。
車まで戻る道すがら、Kさんがそれぞれのきのこが、どんな料理に合うか教えてくれた。
このきのこはシンプルにきのこ汁、このきのこはオイルで炒めてパスタに。

おいしそうだなぁと、皿に乗ったきのこ料理を思い描きながら、
ふと妊娠中に食べて大丈夫なのだろうか、と一瞬不安がよぎった。
おいしそうなものほど、危ない。これまでのきのこの法則は当てはまらないだろうか。

家に戻ってから、教えてもらった通りに処理をして、
まずは簡単そうなきのこ汁をつくってみたら、味見の段階からそのうまみに虜になって、
不安だった気持ちはあっという間にどこかへ飛んでいってしまった。
これを食べないなんて、ありえない。むしろ栄養になる。
その晩、ふだん以上に箸は進んで大満足の食卓だった。

ちなみに、おともした柴犬は、きのこにはまったく無関心で、栗のイガに夢中の一日だった。
匂いを頼りにきのこを見つけて
ご主人様に知らせてくれる「きのこ犬」もいるらしいのだけど、
うちの子はまったく向いてないらしい。

writer profile

KIKI
キキ●東京都出身。モデル。武蔵野美術大学造形学部建築学科卒。雑誌をはじめ広告、テレビ出演、映画などで活躍。エッセイなどの執筆も手がけ、旅や登山をテーマにしたフォトエッセイ『美しい山を旅して』(平凡社)など多数の著書がある。ドイツのカメラブランド〈ライカ〉の会報誌であるライカスタイルマガジンにて撮りおろしの写真とエッセイを担当。近年では自身の写真展『PRISMA』シリーズを発表、また芸術祭に作家・審査員として参加するなど多方面で活動している。月刊文芸誌『小説幻冬』(幻冬舎)にて書評連載中。現在、山梨県の〈南アルプス市芦安山岳館〉にてフォトエッセイ展「日常は麓に置いて」が開催中。

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