写真でまちが楽しくなる。
写真家MOTOKOさんが語る
〈ローカルフォト〉の力
地域でプロジェクトを続ける
写真家との対談
伊豆下田に家族で移住したフォトグラファーの津留崎徹花さん。
下田で撮影した写真を展示する写真展を開き、
写真家のMOTOKOさんを迎えてトークイベントを開催。
そのMOTOKOさんが各地で展開するプロジェクト
〈ローカルフォト〉とは。
各地で活動する写真家
MOTOKOさんとのトーク
9つの美しい海水浴場に囲まれた下田。
今年の夏も家族連れや学生など、
多くの観光客でにぎわっていました。
飲食店や旅館業に携わる友人たちはこの時期になると猛烈に忙しく、
「9月になったら飲もうね!」というのが合い言葉となっています。

わが家から徒歩で行ける外浦海岸。夏の時期だけ海上滑り台が設置され、子どもたちに大人気でした。最初は怖がっていた娘も、夏の終わりには楽しめるように。
そんな夏の繁忙期もあと少しで終わり、という8月の下旬。
写真家のMOTOKOさんを東京からお招きし、
「ローカルフォト」をテーマにトークイベントを行いました
(開催までのいきさつは、こちらをどうぞ)。

会場は写真展を開催させていただいていた〈Table TOMATO〉さん。
MOTOKOさんは〈ローカルフォト〉というプロジェクトを
全国で立ち上げている方です。ローカルフォトとは、
写真を用いて全国のまちを元気にしようという活動。
MOTOKOさんはこれまで、日本全国18か所で
この活動を展開してきました。
香川県の小豆島では、2013年に〈小豆島カメラ〉を立ち上げています。
小豆島に住む女性7人が、日常の暮らしのなかで
魅力的に感じたものを撮影し発信。
小豆島カメラの活躍もあり、小豆島への移住者は
年々増える傾向にあるそうです。

〈小豆島カメラ〉のメンバー。いわゆる景勝地の写真というのではなく、ふとした瞬間に出会った風景や、そこで暮らす人の何気ないシーンをとらえています。そうした写真を見れば、誰もが小豆島を訪れたくなります。
MOTOKOさんは下田でも
〈下田写真部〉というプロジェクトを立ち上げています。
1年間下田に通いつめ、部員たちを指導をしたそうです。

年に1度開催される「TRIP SHOT CONTEST」では、写真部が参加者と一緒にまちを巡り、下田の魅力に触れてもらうという活動をしています。
そんな下田と縁の深いMOTOKOさんと、
下田に移住して2年目となる私の対談。
司会は〈Table tomato〉店主の山田真由美さんが
引き受けてくれました。
当日は「ローカルフォト・写真でまちが楽しくなる」と題して
お話をしたのち、参加者のみなさんとの懇親会という流れ。
今回はその様子をお伝えします。

MOTOKOさんの話を真剣に聞く私と山田さん、そして夫。(撮影:宝田麻理子[下田写真部])
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“わくわく”がイノベーションを起こす
今回の対談はほとんど事前打ち合わせなし、台本なし、
スタート時間30分前に集まってのぶっつけ本番でした。
けれど、さすがは日本の各地で
トークイベントを行ってきたMOTOKOさん。
会話のキャッチボールのなかでしだいに流れをつくり、
印象的な言葉の数々を残してくれました。

撮影:宝田麻理子(下田写真部)
MOTOKOさんはもともとミュージシャンや
CDジャケットの撮影するなど、都市部で活躍されていた写真家です。
けれど、しだいに都市部で働くことに限界を感じ、
地方で自分にできることはないか考え始めたのだといいます。
そうして2006年から地方での活動を開始しました。

MOTOKOさんの作品『田園ドリーム』より。
滋賀県の長浜で撮影したMOTOKOさんの作品『田園ドリーム』。
その作品をつくることになったきっかけは、
都会ではなく地方に魅力を感じたことだといいます。
すばらしい日本の原風景や、その自然と共に生きる人たちを
見つめたいという思い。
そうして通い続けるうちに、すばらしいものづくりをする
20代の農家さんと出会います。
1次産業を担っている若い世代は、どんな思いで生きているのだろうか。
心惹かれるままに、撮影し続けたのが
『田園ドリーム』というかたちとなったのです。

MOTOKOさんの作品『田園ドリーム』より。
『田園ドリーム』が話題を呼んだあと、
自身が写真を撮影するだけではなく、
地方に住むいろんな方にそれを教えていきたいと考えたMOTOKOさん。
それがローカルフォトの始まりでした。

MOTOKOさんの作品『田園ドリーム』より。
「写真というのはいいアクションにつながるんですよね。
被写体や写真を見た人に行動を起こさせたり、
前向きな方向に向かわせることができる。
それが写真のマジックだと思うんです」

天草納屋で出荷作業をする海女さんたち。

「はんば海苔」を型に流し込む海女さん。

須崎地区の「須崎津島神社例大祭」。
「写真というのは、技術よりも
わくわくしたエネルギーが大事なんですよね。
津留崎さんがわくわくして撮ったこの写真も、
きっと下田の方々に自信を持たせたり何か行動を起こさせると思います。
わくわくというのはイノベーションを起こせるんですよ」

朝から貝の漁に出たあと、持参したお弁当を食べる漁師さん一家。
「今回こうしてみなさんが集まったのも、
写真というきかっけによる行動のひとつですよね」
たしかに、今回集まってくださった参加者の方々は、
写真、写真展、写真家に関する対談のいずれかに
興味を持って来てくれた方々。
それも写真によるイノベーションなのです。

子どもたちも絵を描いたり走り回って楽しんでいた会場。「都内のギャラリーだったらこれはないよな~、すごい豊かですよね」とMOTOKOさん。

天草を干場まで運ぶ軽トラック。
「よそものだからこそ、地元の人が気づかない
忘れられたダイヤモンドを発見できる。
てつかさんはそれをやってくれると思ったんですよね」
MOTOKOさんはそれを「シビックプライド」という言葉で表現します。
本当はすばらしいんだけど、お金などの基準によって
価値がないとされたものが現代社会にはある。
もう一度その価値に気づいてもらうことで、
地域が元気になるといいます。
「被写体の方に自分たちがすばらしいってこと、
つまりシビックプライドに気づいてもらう。
『私たちってこんなにすてきだったのね』
『俺たちこんなにかっこよかったんだぜ』って気づくだけで、
みんな輝いてくるんですよね」

わかめ漁をする須崎地区の漁師さん。
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私の役割は“酵母菌”……?
正直なところ、いままで「地域のために自分ができること」なんて
大それたことは考えていませんでした。
ただ漁師さんや海女さんの姿に惹かれ、
わくわくしながら撮影していただけ。
けれど、自分が好きで向き合っていることで、
もし誰かを元気にすることができるのだとしたら。
そんな幸せなことはないのです。

今年の春、雑誌『クロワッサン』にて下田の海藻について取材させてもらいました。撮影させていただいた海女さんに雑誌を渡しにいくと、みなさんで回し見しながらとても喜んでくれました。

この日は店主の山田さんが、下田の海藻にちなんだ料理を振る舞ってくれました。わが家のお米で炊いたひじきごはん。(撮影:宝田麻理子[下田写真部])
この日、もうひとつ印象的だったのは参加者のみなさん。
ほとんどの方がいままで話したことのない初対面同士です。
けれど、同じテーブルを囲むうちにお互いに興味を持ち、
しだいにつながりができていきました。
その穏やかで温かいエネルギーが生れたことは、
私にとってとてもうれしいできごとでした。
MOTOKOさんより、後日こんな感想をいただきました。
「津留崎さんの写真を堪能したあと、
被写体の方々が採ってきてくれた食べ物をいただく。
みんなで“ありがとう”と感謝して
“おいしいね”と言い合うことで最高に幸せになれる。
そんなかつては当たり前だったことを、もう一度再開することで
何かが変わっていくのかな? と思ったりしました」


漁師さんからの差し入れ。お父様が釣った鰹だそうで、臭みがまったくなく旨みの凝縮。いままでで食べた鰹の刺身で一番おいしかった!

海女さんからいただいたじゃがいもで、煮っ転がしをつくって持参しました。「この写真のお母さんがつくったじゃがいもです」という説明を聞いて、みなさんひと味もふた味もおいしく感じられたようです。

須崎で採れた天草を使ったところてんと、天草の漁もするという須崎の漁師さん。
MOTOKOさんが対談のなかでこう話してくれました。
「津留崎さんは酵母菌なんですよね。
もともとまちにはいい土壌があるんだけれど、
何かが滞ったときに酵母菌を入れなくちゃならない。
何年かに一度、酵母菌をボンッて入れる必要があるんです」
MOTOKOさんと対談したあと、自分が酵母菌だというイメージを
頭の中で膨らませてみました。
もし私が酵母菌だとしたら、
周囲をどんなふうに醸すことができるのだろうか。

ふとした瞬間をすかさず切り取るMOTOKOさん。遠路お越しいただき、本当にありがとうございました!

会場の隅で私を見守る娘。仕事場によくつき合ってくれる娘よ、ありがとう。