下田で暮らし始めて変化した
子育てと仕事のバランス、
そして新たな気づき

移住の夢はある程度叶ったけれど…

伊豆下田に移住して1年余りが経った津留崎さん一家。
フォトグラファーの妻・徹花さんは
新たなライフワークともいえる趣味に目覚め、
子どもと過ごす時間も増えて、暮らしにも変化が。
一方で相変わらず、これでいいの? と不安に感じることもあるようです。

田んぼに畑も。わが家の夏

田はいよいよ夏真っ盛りです。
祭りの準備も始まり、夕暮れになると
笛や太鼓を練習している音が聞こえてきます。
車の往来もしだいに増え始め、まちや海が観光客でにぎわい始めました。

わが家も夏一色。
近くの海へ出かけ、カニを探したり海水浴を楽しんだりしています。

近くの海へ出かけ、カニを探したり海水浴を楽しんだりしています。

下田の海で見つけたカニ

5月に植えたわが家の田んぼですが、その後、稲は順調に育っています。
最初は赤ん坊のように弱々しく、
雨が降るたびに「大丈夫かな?」と心配していましたが、
みるみるうちにたくましくなりました。

5月に植えたわが家の田んぼ

田んぼに行くたびに、「すごいね~、すごいね~」
という言葉が漏れてしまうほど、その成長ぶりには心動かされます。
子どもの成長を見守るような温かい気持ちになるなんて、
米づくりを始めるまでは想像もしていませんでした。

5月に植えたわが家の田んぼ

夫が仕事の合間に田んぼを見に行き、雑草を抜いたり芝を刈ったり。
時間的にも体力的にもなかなか大変そうですが、
泥の感覚や自然の中で作業をする心地よさもあるようです。
「なんかさ、土に入ると自然と一体になるよね。
人にとって必要なことなんだよね」と夫。

生えてくる雑草は「田車」という道具を使って除草

農薬を使わないで育ててみたい、ということで、生えてくる雑草は「田車」という道具を使って除草しています。昔は馴染みのあった田車ですが、いまでは珍しいようです。

自宅の庭で、ほんの少しだけ野菜も育て始めました。
といっても、家庭菜園程度。
いつかカゴいっぱいの野菜を収穫してみたいという夢を抱いていますが、
まだまだ先になりそうです。

家庭菜園を始めました。畑で遊ぶ娘

自宅の庭で、ほんの少しだけ野菜も育て始めました

「バジルある? しそある?」と、
ご近所さんや友人が分けてくれるのは、葉っぱだけでなく株ごと。
たくさんいただいたので、専用のハーブガーデンもつくりました。
朝起きてから様子を見に行くのが、毎日の楽しみです。
移住して1年、ようやく少しずつ土いじりができるようになってきました。

友人にいただいたバジル

友人にいただいたバジルが元気いっぱい。葉がどんどん増えていくので、ペーストにしてストックしました。サンドウィッチやパスタに大活躍。

この日はバジルペーストと卵のサンドウィッチ

東京で暮らしているときは夫と昼ごはんを食べるのは休日だけでしたが、いまはほとんど一緒に食べています。で、この日はバジルペーストと卵のサンドウィッチ。

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趣味や子どもと過ごす時間が増えて

田んぼや畑、パンを焼くことなど、
下田で暮らし始めてから趣味が増えています。
そして最近またひとつ、新しい趣味ができました。
それは野菜を撮影することです。

農産物直売所で買ったかぼちゃ

下田で暮らす魅力のひとつとは、農産物直売所の存在です。
この直売所は、私にとっては栄養補給の場所。
並んでいる野菜がとにかく瑞々しく生命力にあふれていて、
眺めているうちに自分も力がみなぎってくるのです。

下田にはたくさんの生産者さんがいて、
朝採ったばかりの野菜を直売所に卸しています。
つまり、ついさっきまで土とつながっていた、
まだ呼吸をしている野菜と出会えるのです。

かぼちゃを切ると水分が湧き上がってきたり、
ジャガイモの袋は吐息で曇っている。
そうした姿を目にすると、
「野菜も生きているんだな~、ひとつの命なんだな~」と気づかされます。
大げさかもしれませんが、ちょっと涙が出そうになるような感動です。

呼吸してるんだね、じゃがいも

呼吸してるんだね、じゃがいも。

そうした野菜を撮影するというのが、
私の新たなライフワークとなっています。
東京に住んでいたときには経験したことのない感覚です。

胡瓜だって、それぞれ形が違って個性がある

胡瓜だって、それぞれ形が違って個性がある。

胡瓜の表面を凝視すると、白い粉のようなもので覆われています

胡瓜の表面を凝視すると、白い粉のようなもので覆われています。これは、ブルームといい、水分の蒸発を防ぎ、病気などから身を守るために胡瓜自らが発する物質なのだそう。愛おしい。

趣味というのかライフワークというのか。
そういうことに時間を使えるようになったのは、
仕事に費やす時間が減ったからです。
つまり仕事が減ったということ。

東京の撮影に出かけるのは月に1、2回。
そのほか下田近辺での撮影が時々。
その程度の仕事量なので、娘が小学校から帰宅するときには
「お帰り~」と出迎えられるわけです。
そして、おやつを食べて宿題を一緒にやる。

娘が描いた野菜の絵

おかしなハナシですが、「私って、まるで母親みたい……」と
不思議な気分になることがあります。
だって、少し前まではバタバタと毎日撮影に出かけ、
保育園のお迎えギリギリに駆け込んでいたのです。
あの頃といまとでは、あまりにも生活スタイルが違う。

娘が学校から帰ってきたあと、海水浴にだって行けちゃいます

娘が学校から帰ってきたあと、海水浴にだって行けちゃいます。平日、近所の海で娘と戯れるなんて、最高に贅沢です。

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これでいいの? という不安も

そんなに生活が激変、収入が激減して食べていけるのかというと、
いまのところ貯金を崩さずに生活できています。
夜な夜な飲み歩いていた外食費が抑えられた分、
意外なことに無理なく暮らせている。

夫が仕事の帰り道に山水を汲んできてくれます

夫が仕事の帰り道に山水を汲んできてくれます(無料です)。これがすごくおいしい! 清らかで雑味のない水。最近購入したソーダーマシーンで炭酸水をつくり、夜はウイスキーを垂らして晩酌。おいしいし安いし、最高です。

毎日、晩酌だってしてますよ。
都会に住んでいたときは無意識にお金を使っていたけれど、
田舎で暮らし始めたら使いすぎない生活に案外すんなりシフトできました。

夫は水汲み場で顔を洗ったり、汗を拭いたりしています

夫は水汲み場で顔を洗ったり、汗を拭いたりしています。山から流れてくる水はとても冷たくて、「いや~、最高に気持ちいいね!」だそうです。

山水

移住の目的のひとつだった
「働く時間を減らし、生活費を減らし、家族と過ごす時間を増やす」
という点においては、成功したとも言えます。

けれども、相変わらず不安にもなります。
この連載でもたびたび書いてきましたが、働き方、仕事というものへの迷い。
「四十にして惑わず」と言いますが、私はいまでもときどき惑います。

ライフワークとか趣味とか言ってないで、
もっと働かなくちゃならないんじゃないか。
もっと上を目指さなきゃいけないんじゃないか、
このままでいいのか自分! と。

下田に咲くひまわり

そんなある日、下田で民宿を営む女将さんと電話で話していました。
女将さんは友人のお母さんでもあり、
移住して以来、何かとお世話になっている方。
久しぶりだったので、最近はどうしてる? 落ちついた? 
などと聞かれ、田んぼを始めたことなど近況を報告。

「目の前のことに精一杯で、いまの状態でいいのかわかりません」

と私が話すと、

「田んぼと畑を少しやれたら、それだけで十分じゃない。
なんもかんも始めたら全部中途半端になるし、
忙しいとせっかくのやりたいことでも楽しめなくなるよ」と。

娘と過ごす時間が増えたのはうれしいけれど、
その分収入は激減しましたと私が笑うと、

「お金なんて10年後にいくらでも稼げるから大丈夫! 
子どもはいまだけだよ。とにかく家族を第一に考えて」

休日に弁当持参で田んぼランチ

休日に弁当持参で田んぼランチ。

カメラマンとしてこんなことを告白するのもどうかと思いますが、
最近写真を撮ることが純粋に楽しいと感じています。

「写真を撮れるって、こんなに楽しいんだっけ?」と思う瞬間があるのです。
それはきっと、「忙しいとせっかくのやりたいことでも楽しめなくなるよ」
という女将さんの言葉の意味。

夫が作業しているあいだに、娘は友だちと一緒にオタマジャクシや蛙を捕まえて遊んでいます

夫が作業しているあいだに、娘は友だちと一緒にオタマジャクシや蛙を捕まえて遊んでいます。

働き方の正解はいまだにわかりません。
けれど、自分に少し余白ができたことで、
好きなことを純粋に楽しめるようになったのかもしれない。

娘が手を離れるまでは、きっと家族でゆっくりじっくり過ごせばいいんだ。
そうして、五十にして天命を知れたらいいな。
そう考えると、この先の人生がまた楽しみです。

text & photograph

津留崎徹花 Tetsuka Tsurusaki
つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。料理・人物写真を中心に活動。移住先を探した末、伊豆下田で家族3人で暮らし始める。自身のコロカルでの連載『美味しいアルバム』では執筆も担当。

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