動物の命をいただくということ。 移住前の洗礼にも感じられた 出来事について
お試し暮らし直前の、
象徴的な出来事とは?
移住先を探し、三重県津市美杉町で
お試し暮らしをすることになった津留崎家。
仮住まいの物件も見つかり、
いよいよ家主さんとの顔合わせのために現地へ向かいます。
そこで待っていたのは、友人一家が大切に飼っていた動物の死。
今回は、暮らしのすぐそばにある、命の営みについて。
大切に飼っていた動物の死
急遽、東京を離れられなくなってしまった妻を残し、
娘とふたり、仮住まいの物件確認、家主さんとの顔合わせのために
三重県美杉へと出発しました。
家主さんと会う約束の前日に美杉に到着し、
その夜はこの連載でもおなじみの美杉で仲良くさせていただいている友人、
沓沢家(連載4回目で詳しく紹介)にお世話になる予定です。
美杉で始まる暮らしに、期待に胸を膨らませ車を走らせます。
到着するとわが家の娘と仲良くしてくれている沓沢家の長女が、
待っていてくれていたのか迎えに来てくれました。

山羊のシロもお出迎え。木々も紅葉しすっかり秋模様。積んである薪がこれからやってくる冬を感じさせます。
そして、開口一番、「チャチャが死んじゃった」と。
チャチャはもともとは田んぼの除草のために飼い始めた鴨だったそうですが、
沓沢家の一員ともいえるほどにその暮らしに溶け込んでいました。
そうか、死んでしまったのか……。
家族に愛されていたチャチャの死。
自分も子どもの頃から犬、猫からインコまでいろいろと飼っていて、
その死の際は本当に悲しかったのをよく覚えています。
特に、冷たくなってしまったその感触はいまでも忘れられません。
でも、子どもにとってはその身近な動物の死はとてもよい経験ともいえます。
わが家では動物を飼っていないので、
娘にとってはたびたび訪れている沓沢家の動物たちが、
もっとも近い存在の動物です。

愛くるしい鳴き声を上げながら小屋と田んぼを往復する姿がなんとも微笑ましかったチャチャ。
身近な動物の死を経験したことのない娘は
事態がよく飲み込めず何がなんだかよくわからない様子。
家にいた沓沢夫妻に挨拶を済ませ、チャチャについて聞いたところ、
その2日ほど前、店が終わり戻ってきたら、
怪我をしていて死んでしまっていたというのです。

同じく沓沢家の一員、レトリバーのユウと。犬と鴨ってこんなに仲良くなれるものなのかと驚くくらいに仲が良かったふたり。チャチャ死んじゃったねとユウに話しかけたときのなんとも寂しげな表情が忘れられません。(撮影:津留崎徹花)
そして、その日の夜ごはんの話に。
「今日は鍋だよ。鴨鍋……」
そうなのです。
どんなにかわいがっていても、死んでしまえば「肉」になるのです。
例えば、かわいがっていたペットの大部分がそうされるように、
土に埋めてお墓をつくっても実際にはその「肉」は
土の中の虫や微生物に食べられる。それが、命の営みというものです。
そのような土に埋める行為とは違うかたちですが、
その肉を食し、食した者の血となり肉となる。
それも、命の営みというものです。
供養の仕方としては究極なのかもしれませんが、事が終わったいまは、
愛あってこその行為だったんだと感じています。

料理人の沓沢家のご主人、敬さんによって丁寧にさばかれたチャチャ。娘ふたり、硬直……。
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印象的な映画のシーンのように、
命をいただく
このとき、僕はある映画の印象的なシーンを思い出していました。
半年ほど前に観た、新潟の雪深い村に移り住んだ人々と
地元の人々の暮らしを描いたドキュメンタリー映画
『風の波紋』でのこんなシーンです。
みんなで育てた山羊をしめ、捌き、その山羊との思い出話をしながら、
おいしさに感謝しながら、涙しながら、その肉をいただく。
映画『風の波紋』。暮らしとそれを成り立たせる命について考えさせてくれる映画です。
まさに『風の波紋』のそのシーンのように
みんなでチャチャの思い出話をしながらおいしくいただきました。
半年前にそのシーンに感銘を受けていたときには、
同じような体験を半年後の自分がするとは思ってもいませんでした。
人生はなかなかに味わい深い。

田んぼの草取りに、ユウとの散歩に、よく動き回っていたチャチャのお肉はしまっていてとてもおいしかったです。一生忘れることのできない味です。沓沢家のみんなと僕と娘の血となり肉となりました。

「亡骸を食べ物に変えたとき、料理する人はすごいなあ、といままでに感じことのない次元で思った」と奥さまの佐知子さん。
東京で暮らしてきたいままでの人生では、
肉はどこかの誰かがしめて捌いたモノをスーパーで買う「商品」でした。
でも、田舎で暮らそうと決めた僕は、そこから脱していかないと
いけないんだと、チャチャの肉を味わいながら考えていました。
娘にとって、そして自分にとっても、
それまで名前で呼んでいた動物を食べるのは初めてのことです。
チャチャに近づいて名前を呼ぶのが精一杯で
怖がって触ることすらできなかった娘でしたが、
この命の営みを目の当たりにして何を感じたのでしょうか。

「敬ちゃんと毛をむしりながらいろいろな思い出が浮んできたよ。一番きれいな青緑の飾り羽を1枚もらい、工房に飾っています。首は土にそっと埋めました」と佐知子さん。(撮影:沓沢佐知子)
このように都会では感じることが少なくなった、
命の営みが間近にあるのが田舎で暮らすということなのかもしれません。

今回の出来事を通し、あらためて沓沢家の生きる強さを感じました。震災を機に東北より移り住んできたときには荒れ放題だったというこの土地や古民家を、自分たちの手でここまでの空間にしたことからもその強さは感じていたつもりでしたが……。自分ももっと強くなりたい、沓沢家にはそんな刺激を毎度もらっています。
そんな田舎で暮らし始めよう、そして、その暮らしの舞台となる物件を
借り始めようという前夜にこのような出来事があったことに、
少なからず必然性を感じてしまいます。
この出来事は、僕に田舎で暮らすことの奥深さを教えてくれました。
人として生きていくうえでの大切なことを考えさせてくれました。

次の朝、沓沢家の住む地域の山の神様にお参りしました。ユウは何を言ったわけでもないのですが、鳥居の手前でぴったりと止まって待っていました。人間と暮らす動物と自然の動物の境界がそこにあるのかもしれません。
父と娘のはじめてのふたり旅、深いところからのスタートとなりました。
次回はいよいよ、仮住まい物件の確認、家主さんとの顔合わせです。
information
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日本料理 朔
住所:三重県津市美杉町八知3541
営業時間:11:30~16:00(11:30~と13:15~の2回)
定休日:水曜・木曜・金曜
*各回6名まで、完全予約制、4300円(税込)のおまかせコース

