閉校した校舎がまた明るくなった!
MAYA MAXXがつくった
クマのAmiちゃん
できるかわからないから、やってみましょうよ!
地域で3年前に閉校になった旧美流渡(みると)中学校の活用を、
昨年からさまざまなかたちで行ってきた。
なかでも美流渡在住の画家・MAYA MAXXさんは、
今年は年3回の『みんなとMAYA MAXX展』を実施し、
子どもと絵を描くワークショップなども精力的に開催してきた。
さらにもうひとつ、校舎に立体物を設置するプロジェクトも立ち上げた。

みんなとMAYA MAXX展会場にて。(撮影:佐々木育弥)
以前からMAYAさんは、グラウンドに大きなクマの像を立てたいという構想を持っていた。
その高さは10メートル以上。もし実際に行うことになれば、
重機を使った大がかりな作業が必要になるのではないかと想像された。

クマの全身像をグラウンドの中央に設置したいとMAYAさんが描いた初期スケッチ。
資金的にも技術的にも未知数で、すぐに具体化するのは難しかった。
そんなあるとき、MAYAさんと話していて、
「まずはできる範囲から始めてみてはどうか」ということとなった。
クマの全身をつくるのは難しくても、顔だけならなんとかなるんじゃないか。
「『スタイロフォーム』を重ねて立方体をつくって、それを削っていこう!」
MAYAさんはそう語った。
プランは、校舎の玄関口にある庇(ひさし)の上にクマの顔を設置すること。
「スタイロフォーム」とは商品名で、正式な名称は押出発泡ポリスチレン。
住宅の断熱材として使用されている。
発泡スチロールより加工も簡単で丈夫なので、
大きな立体をつくるのにも向いているのではないかとMAYAさん。
早速、市内にある建築資材会社で入手することにした。

32枚の「スタイロフォーム」。
「スタイロフォーム」の規格サイズは180×90センチ。
厚さはいろいろあるが10センチのものを選んだ。
それを18枚重ね、2列分用意すると立方体となる。
この立方体をノコギリやカッターなどで削っていき球体をつくっていくこととなった。
春からワークショップのかたちにして参加者を公募することにした。
「ワークショップの前に、模型をつくったりしないんですか?」
私がたずねると、
「うん、大丈夫。頭のなかではイメージができてるから」
とMAYAさん。いきなり本番に入ることとなった。
プロジェクト名は〈ビッグベアプロジェクト〉。
活動日は第2、第4木曜。
参加を呼びかけるチラシにMAYAさんはこんなメッセージを添えた。
これ、作るのは大変かも? と思います
でも、出来たらめちゃ可愛い! と思います
大変だから、やってみたいです
出来るかわからないから、やってみましょうよ!
力を貸してください〜!

ワークショップというと、事前に失敗がないように準備するものという固定観念があったが、
「出来るかわからないから、やってみましょうよ!」という呼びかけが、
何ともMAYAさんらしいと思った。
自分自身にとっても未知のことにトライするという、ワクワク感がそこには感じられた。
球体を削り出すのは大変! 試行錯誤を繰り返して
4月14日、ワークショップが始まった。
MAYAさんは立方体をどのように削りたいかをスケッチ。
それをもとに参加者たちは「スタイロフォーム」を削っていった。

どんなクマの顔にしたいのかスケッチ。

ワークショップ初日の様子。これから頑張るぞ! とポーズ。
削る作業は思いのほか、難航した。
想像していたよりも、ぐっと奥まで削っていかないと
球体には見えないということがわかってきた。
そこでパーツに分解して印をつけてそれぞれをカット。
それを組み上げて微調整をすることにした。
2か月ほどかけて、ようやく球体ができあがった。
この頃、ワークショップに参加していたメンバーが、だんだんとレギュラー化。
来られる日に集まって、できるだけ進める体制となっていった。
そのなかでチーフとなったのは、
札幌在住でプロダクトデザインや設計などの仕事をしている遠藤亜未さん。
校舎の活用プロジェクトに興味を持ってくれたひとりで、
以前には家電のデザインモデルの制作や鋳造用の木型制作の仕事をしたことがあったそう。

札幌から美流渡までは車で1時間30分。遠方にもかかわらず遠藤さんは毎週のように制作を進めた。(撮影:佐々木育弥)
MAYAさんの構想をどうしたら実現できるか毎回真剣に考えてくれたことが、
前へと進む大きな原動力となった。
このほか岩見沢在住で、MAYAさんの作品のファンであった
吉田有希さん、木村あづささんらも参加。
6月下旬には耳と鼻のおおよそのかたちがつくられ、
かたちをなめらかにするなど微調整が行われた。

ついに鼻と耳が!
校舎の庇の上に、ついにクマの顔が現れる!
7月に入り、いよいよ校舎の庇に、クマの顔を設置することになった。
パーツに分解して2階の窓から運び入れ、それらを組み立て、
「スタイロフォーム」の境目にできた溝をパテで埋めていった。
その後、新聞紙で全体をくるみ、FRPで表面を固める作業を行った。
このプロジェクトを始めた当初は、どのように塗装をしていくのかは具体的でなかったが、
MAYAさんの活動をいつも応援してくれていた友人のネットワークにより、
FRPの制作に詳しい野々村泰弘さんと巡り会うことができた。
溶剤と溶剤を混ぜて、それが固まらないうちに塗装をしていくという作業は、
揮発性の強い匂いもあって、体力を著しく消耗するものだった。

最終段階。油性ペンキで赤く塗る。
数多くの工程を踏んでクマの顔はFRPで固められ、
雨に当たっても変化しない堅牢な立体になった。
最後の仕上げの段階になって、赤くペンキを塗っているときにMAYAさんは、
「FRPの作業は本当にキツかった。ペンキを塗るのは本当に楽しい作業だね!」
そんなふうに語りながら、笑顔で色を塗っていった。

目を描くMAYAさん。
その数日後、校舎でひとり作業するMAYAさんの姿があった。
あとは目を描くだけという段階となり、一刻も早く完成させたいと、
晴れ間を見つけて制作を行っていた。
完成したのは9月2日。校舎で開催された秋の『みんなとMAYA MAXX展』でお披露目できた。

約半年かかって完成!!!!(撮影:佐々木育弥)
MAYA MAXXとみんなでつくったみなさんへの贈り物
「名前はAmiちゃんっていうんだ」
名前は、このプロジェクトのチーフとなった遠藤亜未さんからとられた。
そしてMAYAさんはAmiちゃんの制作について、展覧会場にこんな言葉を掲示した。
Amiちゃん
学校の入り口にみんなを笑顔で迎える赤いクマがいたらいいな〜と思って
ビッグベアプロジェクトを始めました。
10センチのスタイロフォームを重ねて180センチの立方体を作り、
それをノコギリで削って球状にしました。大変でした。
電動の道具は基本的に役に立たず、最終的にはほぼ手鋸で削り上げました。
削っても削っても道は遠く、、、いつまでも出来ないのでは? と挫けそうになりました。
でもいつも来て手伝ってくれる仲間がいました。
いなかったら出来ませんでした。仲間がいたから出来ました。
やっと削り上がって球体になったのを見た時、
その仲間のひとりの名前をつけようと思いました。Amiちゃんです。
そのあと新聞紙を木工ボンドで貼り付けて張り子状態にして、FRP加工をして、
油性ペンキを塗って、顔を描いて完成しました。
絵を描くことはたったひとりでやるしかない孤独な時間です。
その半面のような仲間がいてみんなで協力してやる作業は、
みんなでみんなの為に贈り物を作るような喜びがあります。
Amiちゃんは来てくださった皆さんをお迎えする皆さんへの贈り物です。
先日「モリタン」さんの冷凍倉庫に描いたHOPEくんはやって来た希望に喜ぶ赤いクマです。
岩見沢の方々への「モリタン」さんとMAYA MAXXからの贈り物です。
HOPEくんがドラえもんだとしたらAmiちゃんはドラミちゃんですかね?
2つともMAYA MAXXとみんなで作った皆さんへの贈り物=ギフトです。
HOPEは希望、Amiはフランス語で友達と言う意味です。
つけようと思った仲間の名前が友達って意味なんて、なんて素晴らしい!
この経験から私が描いたり作ったりするものはすべて贈り物なのだ、と学びました。
私はずっと皆さんへの贈り物を描いたり作ったりしていたのでした。
それが分かってほんとうにここに来て良かったと思いました。

食品加工メーカー「モリタン」の冷凍倉庫に描かれたHOPEくん。(撮影:佐々木育弥)
MAYAさんがこの夏、食品加工メーカーの冷凍倉庫に描いた
直径9メートルの赤いクマの制作過程は、この連載でもリポートした。
名前はHOPEくん。
そして対になるのが、今回のAmiちゃんだという。
世界では戦争が起こり、感染症の拡大がありと、閉塞感が溢れているが、
だからこそ、クマの笑顔を見て、少しでも明るい気持ちになってもらえたら。
そんなMAYAさんの想いからどちらも生まれたものだ。
このプロジェクトを進めているあるとき、
「行き当たりばったりだけど、必ず最後はうまくいきますね」と、
思わず言ってしまったことがある。
なぜ、必ずといっていいほど素敵な作品ができるのか、
そのわけについてあらためて考えてみると、それは単に運がいいのではなくて、
私利私欲を超えたところに気持ちがあるからではないかと思った。
Amiちゃんは、私の仕事場の窓からも見える。
朝、目が合うとそれだけでいいことが起こりそうな予感がしてくる。
そして、何よりこの閉校した校舎が昨年よりも一段と晴々しく感じられることがうれしい。

教室から見えるAmiちゃんのうしろ姿。(撮影:佐々木育弥)
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