連載
posted:2014.9.30 from:滋賀県高島市・近江八幡市 genre:ものづくり
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
プロダクトをつくる、場をつくる、伝統をつなぐシステムをつくる…。
今シーズン貝印 × colocalのチームが訪ねるのは、これからの時代の「つくる」を実践する人々や現場。
日本国内、あるいはときに海外の、作り手たちを訪ねていきます。
editor profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
photographer
Suzu(Fresco)
スズ
フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。https://fresco-style.com/blog/
前編:鹿肉をカレーとして活用する滋賀県のCoCo壱番屋の取り組み。「滋賀県の獣害利用」前編 はこちら
滋賀県の真ん中に悠々と水を湛える関西の水がめ、琵琶湖。
ここには50以上もの魚種が生息し、豊かな生態系を形成している。
そのなかには、もともと日本にはいなかったブラックバスやブルーギルという外来魚も
同じく生息している。これが琵琶湖の生態系を崩しているとされている。
もともとは昭和初期に国の政策で、
食用や釣り用としてアメリカから持ち帰って放流し、日本に広まったもの。
繁殖力が強く、魚食性のブラックバスは、どんどん全国に増えていった。
2000年頃から、滋賀県ではブラックバス駆除を強化している。
ブラックバスの駆除のための漁を行うのは、もちろん琵琶湖の漁師だ。
年間約300トンものブラックバスが駆除されてきた。
琵琶湖の生態系を取り戻すために、漁師は奮闘している。
滋賀県高島市の若手漁師、中村清作さんは3代続く漁師一家で育ち、
日々、両親とともに琵琶湖の魚に向きあっている。
父親の代からブラックバス漁にも積極的に取り組み始めた。
たとえばあるダム湖にブラックバスが増えてきたとなれば、
中村さんに相談がきて技術提供をしたり、サンプル提供の依頼がきたりと、
その腕に信頼が置かれている漁師だ。
中村さんの「刺網漁」を見せてもらった。まずは網を湖に広げていく。
その網に“刺さる”ようにかかった魚を、丁寧に手で取り外していく。
秋からがブラックバス漁の最盛期だ。
年内は毎日のようにブラックバス漁にでるという。
もちろん自然相手の漁なので、獲れる日もあれば獲れない日もある。
「去年は少なかったです。補助金が余ったので、返金しました」という中村さん。
去年は年間約150トンに減少した。
しかしこれは「順調にブラックバスが減ってきている」と捉えることもできる。
Page 2
ブラックバスの駆除は、県からの要請で行われているので、
獲った量によって補助金が出される。しかしそれほど大きな額にはなるわけではない。
「滋賀県の漁協ではブラックバスは魚としては認められていません。
つまり獲れたブラックバスは、魚としては値段がつかず、
駆除対象の外来魚としてしか値段が付きません。
偶然獲れたとしても、やはり駆除の対象になります」
もちろん個別ルートで売ることは物理的には可能だ。
しかしブラックバスの料理を食べたことがあるだろうか?
一般的にはブラックバスはまだまだ食用として扱われていない。
需要がないので、売り先もほとんどないのだ。
では駆除されたブラックバスはどうなっているのだろうか。
県では、駆除したブラックバスをすべて肥料化している。
業者に運ばれ、圧搾して油をとる。これが魚油。
そして残りの身や骨などは乾燥して粉砕し、魚粉にする。
この売り上げはわずかではあるが、県の駆除予算を助けることになる。
この季節、琵琶湖ではモロコやビワマスが獲れる。
それらは当たり前だが魚として売ることができる。
しかしそれでも中村さんはブラックバスを獲り続ける。
中村さんのように若い漁師にとっては未来への投資ともいえるだろう。
これから先ずっと、琵琶湖を守り、ともに生活していくためなのだ。
あるとき中村さんからブラックバス駆除の現状を聞いた大阪の料理研究家、堀田裕介さん。
「駆除のために漁をしているというのが、なんだか健全ではないような気がしたんです。
きっと漁師なら、獲った魚は食べてもらいたいという
気持ちがあるのではないか」と思った。
一般的には、ブラックバスを“食べる”、しかも“おいしい”というイメージは少ないだろう。
しかし堀田さんは、子どもの頃からキャンプが好きで、
ブラックバスを釣って食べたこともあるという。だからその味も知っていた。
「きちんと料理すればおいしい食材なんです。せっかくの命なので、きちんと食べたい」
と感じた堀田さんは、「ビワスズキを食べる会」を立ち上げた。
ブラックバスはスズキ目。
琵琶湖にいるスズキの仲間ということで、「ビワスズキ」と命名した。
ブラックバスの“くさい、おいしくない”というイメージを払拭するために、改名したのだ。
「試食会やトークショーなどを企画したら、
これまでこの問題を知らなかった人も振り向いてくれるのではないかと思ったんです」
とイベントなどで数々の料理を振る舞っている。
いろいろな世代やジャンルを巻き込んで、ソーシャルな活動にしている。
そうすることで「食材として認めてもらう」という目的だ。
Page 3
ブラックバス料理のコツを教えてもらった。
「うろこのぬめりがにおうので、たわしなどでよく洗いましょう。
うろこを取ったあとも、通常よりしっかりと洗います。
その作業をしたまな板でそのまま調理すると、においが移ってしまうので要注意。
あとは下処理でしっかり脱水することも大切です」
一番適した料理は何か聞くと、「洋食です」と返ってきた。
「フリットや揚げもの。フィッシュ&チップスなど最高ですね。
本来はクセのない魚なので食べやすいです」
ブラックバスをシンプルに味わえるように、シンプルなソテーをつくってくれた。
味付けは塩のみ。白身の魚でも、身が締まっていて、しっかりとした歯ごたえ。
琵琶湖のブラックバス、まったく臭くない!
「僕は料理人なので、“ブラックバスはおいしい”と知ってもらって、
生活者が食べたいと思える魚になればいいと思います」
この思いには「獲った魚を食べてもらえないのは、
漁師としてうれしいことではありません」と、中村さんも同調する。
「駆除ではありますが、有効活用する必要はあると思います。
今は税金で駆除している状況です。
食用などの道が開ければ、税金に頼らないで済むようになるかもしれません」
堀田さんのイベント以外にも、地元のカフェなどにブラックバスを卸すなど、
食用としての有効活用も模索している。
しかし現状では、外来魚の放流や飼育はもちろん、生きたままの運搬も禁止されている。
法律上、“食用の魚”としてみられていない。
まずはブラックバスが食べてもおいしい魚であると認識してもらうこと。
特に「琵琶湖の北のほうは水がきれいなので、臭みも少ない」と中村さん。
おいしいという民意が、現状を少しずつ変えていくかもしれない。
一度はブラックバス料理、お試しあれ。
information
中村水産
住所:滋賀県高島市マキノ町海津2461
TEL:0740-28-0214
profile
堀田裕介
information
NPO法人 百菜劇場
Feature 特集記事&おすすめ記事
Tags この記事のタグ