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“つながるひろがる東北応援の輪プロジェクト”
Amo estas Bluaトートバッグ

TOHOKU2020
vol.013

posted:2013.2.28  from:宮城県気仙沼市  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  2011年3月11日の東日本大震災によって見舞われた東北地方の被害からの復興は、まだ時間を要します。
東北の人々の取り組みや、全国で起きている支援の動きを、コロカルでは長期にわたり、お伝えしていきます。

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SHOE PRESs

仙台を拠点に東北の観光ガイドブックや情報誌を制作している編集プロダクション。東日本大震災以降は、取材で何度も訪れた沿岸部の一助にと「つながるひろがる東北応援の輪プロジェクト」をスタートさせ、明るく元気な被災地支援を展開する。「Amo estas Blua トートバッグ」も、そのプロジェクトの中から誕生した。
http://www.shoepress.com/

気仙沼の港町を心の片隅に感じて。

いまだ瓦礫の残る気仙沼の港町から車で10分ほど走ると、
帆布バッグ工房「MAST帆布 KESEN-NUMA」に辿り着いた。
ガラス戸の向こうでは職人さんたちがミシンを操るのが見える。
「遠いところをわざわざ来てくれて。風が強くて寒かったでしょう」
笑顔で出迎えてくれたのは、店主の宍戸正利さん。
陽だまりが暖かな店内には色とりどりの帆布バッグや小物が並び、
時おりひょっこりとお客さまが訪ねてくるなど、和やかなムードが漂う。

トートバッグの試作品第1号を手にその特徴を話す宍戸さん(2012年7月)。

この工房でつくられているのが、『Amo estas Blua トートバッグ』。
上質な帆布の白生地に青のボーダー刺繍が鮮やかに映える、
一泊二日の小旅行にも対応できるお洒落なトートバッグだ。
デザインは作家でアーティストの小林エリカさん、
グラフィックデザイナーの田部井美奈さん、写真家の野川かさねさん、
イラストレーターの前田ひさえさんの4人による
東京のクリエイティブユニット「kvina(クビーナ)」が手がけた。

「Amo estas Blua(アーモ エスタス ブルーア)」は、
宮沢賢治も愛したエスペラント語で「恋は水色」を意味する。
気仙沼では、朝6時になると港町一帯に防災スピーカーから
「恋は水色」のメロディが響き渡る。
それは、気仙沼の人々にとって忘れがたい原風景でもある。

気仙沼港近くの市街地。更地につくられた慰霊のための広場「風の広場 グラウンドゼロ」。

『Amo estas Blua トートバッグ』は、
“つながるひろがる東北応援の輪プロジェクト”から生まれた。
仙台の編集プロダクション「シュープレス」が震災後から続けている活動だ。
当初は、被災地の情報発信や義援金・復興支援金の募金活動などを中心に行っていたが、
数々の活動を通して行き着いたのは、被害の少なかった東北の中心都市から
被災地を経済的に盛り上げていく仕組みの必要性だった。
そこで、世の中にない新たな商品を生み出して東北の魅力を発信することで、
「東北を旅して、東北のものを買ってもらう」仕組みをつくり、
被災地の経済を活性化する一助になればと思い至った。

シュープレスとクビーナが出合ったのは、2011年4月のこと。
“つながるひろがる東北応援の輪プロジェクト”の主旨に共鳴した、
シュープレスのスタッフの友人であった東京の編集者・高橋亜弥子さんが、
シュープレスと、クビーナとを結んだ。 
世の中にない商品を東北から生み出すことは、小さな「希望」を生み出すこと。
大好きな東北を応援し続けたい。
その思いはクビーナの感性によってより洗練され、
エスペラント語で「東北が好き」を意味する、
“Mi amas TOHOKU(ミアーマストーホク)”のグッズ販売へとつながっていった。
活動に賛同した全国の雑貨店にてグッズの販売を始めると好評を博し、
徐々に雑誌などでも取り上げられるように。売上げの一部は、
義援金として日本赤十字社や被災3県などに送る活動を続けた。

仙台から東京へ、支援の輪は着実に広がりをみせ始めていた。

“Mi amas TOHOKU”(ボーダーこけし、ステッカー、エコバッグ)のグッズ。売上げの一部を被災地への義援金・復興支援金として寄付している。

2012年5月、“Mi amas TOHOKU”第2弾となる、
「海辺の町へ」と題された新たなプロジェクトが始動した。
震災で甚大な被害を受け、1年経っても未だ復興の進まぬ東北沿岸部。
取材で幾度となく足を運び多くの人にお世話になったこの地域の人々とつながって、
長く支援していく方法はないか——。

「あの日のことを忘れず、沿岸部のまちとつながって、心に『海辺のまち』を感じていたい」
こうした思いから『Amo estas Blua トートバッグ』のコンセプトが生まれた。
しかし、かたちにするのは容易ではなかった。まず、バッグをつくる店が見つからない。
そんな時、シュープレスの板元義和さんは、ふらりと立ち寄った、
「気仙沼鹿折 復興マルシェ」で「MAST帆布 KESEN-NUMA」の帆布バッグと偶然出会った。
丁寧な仕事ぶりに一条の光を見た思いで後日、企画書とデザイン画を持って工房を訪れた。

自宅を工房に改装して制作している「MAST帆布 KESEN-NUMA」。

海辺のまちへ。いくつもの出会いが復興へとつながっていく。

当時のことを宍戸さんは振り返る。
「こういう依頼は初めてだったので、最初は戸惑いました。
けどね、デザインもカッコよかったし、コンセプトも面白かった。
なにより新しい試みにワクワクしたんです。だから、やってみようと思いました。
相手がかばんのことを知らなくても私は知ってますから。そういう意味で不安はなかった」
おおらかに笑う宍戸さんだが、震災の折に店を流失。
1年かけて自宅隣の倉庫を改造し、2011年3月に新たな工房で再スタートを切ったばかりだった。

震災前「MAST帆布 KESEN-NUMA」があったエースポート周辺(2013年2月)。

宍戸さんは、父が創業した船のカバーなどを扱う「菅原シート店」に長く従事。
小さいころからミシンと生地に囲まれた環境で育ち、ものづくりが好きだった。
ほどなく独立した宍戸さんは、
2009年6月、港に近い場所にミシン1台と生地台ひとつを持ち込み、
「MAST帆布」を開業。ひとりでコツコツと帆布バッグをつくり始めた。
やがて帆布バッグの店は評判を呼び、テレビの取材なども訪れてくるように。
だが、確かな手ごたえを感じ始めていた矢先、津波が店を襲った。

「その日はテレビの取材が入ってました。
タレントさんのオリジナルキーケースをつくっていて、
1時間ほどで取りに来るという話でしたから、
地震が起きた後も待ってないといけないかなと思い、しばらく残っていたんです。
まちは消防車のサイレンと、道路の亀裂から溢れる水の音しかしない。
それ以外はシンと静まり返っていたことを今でもよく覚えています」

気仙沼の鹿折地区は特に被害の大きかった地域。この通りを抜け宍戸さんは店から自宅へ戻った。

30分近く店にいただろうか。しだいに不安になってきた宍戸さんは避難を開始。
まず、両親の店を訪れ、ふたりが避難したことを確認したあと自宅へ戻った。
余震が続くなか、何も情報を持たぬまま店へ片付けに行こうとした宍戸さんが目にしたものは、
鹿折小学校まで流失してきた瓦礫で塞がれた道路と炎で真っ赤に染まる鹿折のまちだった。

ああ、店はもうないんだ。宍戸さんは来た道を引き返した。

被災後、1か月ほどで宍戸さんは倉庫を片づけはじめた。
とにかく、仕事がしたかったのだ。
だが、結局実際に仕事を再開できるまでには準備期間を含め、1年もの歳月を要した。
ようやく仕事を再開した宍戸さんに舞い込んできたのが、
『Amo estas Blua トートバッグ』づくりだった。
それは、ひとりでバッグをつくり続けていた宍戸さんにとって、
誰かと何かを始める、初めての試みだった。

東京の編集者・高橋亜弥子さん、シュープレスの本間さんと念入りにトートバックの打ち合わせをする宍戸さん(2012年7月)。

『Amo estas Blua トートバッグ』は、8月に京都で行われた東北復興応援のイベント、
「Mi amas TOHOKU 東北が好き—kvina×SHOE PRESsの東北案内」
でのお披露目が決まっていた。
「いいものをつくりたい」という目的はひとつだったが、
互いの意見を尊重しこだわるほどに時間は過ぎていく。
生地選びから難航し、本体を製作し始めたのがすでに7月。
8月のイベント開催が近づくなか、クリアしなければならないことがあった。
デザイン画では青のボーダー部分は、当初「染め」ることになっていた。
だが、「Amo estas Blua」の文字部分は青い刺繍を施すことが決定しており、
「染め」では刺繍糸と同じ風合いは出ず、全体のバランスがどうしても悪くなる。

ひとつひとつ手作業で丁寧に制作するのが、MAST帆布の基本。

皆が考えあぐねていたとき、宍戸さんが提案した。
同じ色の刺繍糸でボーダー部分のみを別の布に刺繍し、バッグ本体に取り付ければいい。
果たして、刺繍を入れたバッグとそうでないものの仕上がりは一目瞭然だった。
寸分違わぬ青い横縞は美しい光沢を見せ、「Amo estas Blua」の文字を引き立てている。
誰もが職人の施したプロフェッショナルな仕事ぶりに感服した。
こうして出発日ギリギリに完成した『Amo estas Blua トートバッグ』第一号は、
宍戸さん自身の手で梱包され、シュープレスとクビーナ、MAST帆布、
それに関わるすべての人々の希望を乗せて、
京都行きの最終電車でイベントの会場へと旅立っていった。

Amo estas Blua トートバッグは、シュープレスのホームページで購入可能。

「やっぱりうれしかったですよ。誰かと何かをつくるって楽しいですからね。
そりゃ、大変なこともあるでしょう。
でも、ひとつひとつクリアしていけば、必ずできますから」

“ひとつひとつクリアしていけば、必ずできる”。
宍戸さんの言葉は深く、東北沿岸部の復興への兆しを感じる力強さを感じた。
仙台—東京—気仙沼、そして京都へ——。
“Mi amas TOHOKU=東北が好き”という素直な気持ちをまっすぐに謳った、
“つながるひろがる東北応援の輪プロジェクト”は、
新たな出会いをつなげ、全国へと広がっていく。

「MAST帆布 KESEN-NUMA」のスタッフのみなさん。

information


map

MAST帆布 KESEN-NUMA

住所 宮城県気仙沼市西中才275
電話 0226-29-5566
http://masthanp-kesennuma.com/
※「Amo estas Blua トートバッグ」
2012年夏より販売をスタートシュープレスのHPにて購入可能。
http://www.shoepress.com/archives/2355

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kvina
クビーナ

作家、デザイナー、写真家、イラストレーターの女性4人が集まったクリエイティブユニット。
http://librodekvina.com/

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