デザイナー・皆川明と
〈ミナ ペルホネン〉が考える、
都市とローカルの関係性

「好き」「うれしい」「幸せ」と思う状況をつくる

既存の農業の構造では実行や継続が困難な在来種・固定種の野菜を育てる農家。
皆川さんのなかでその姿は、既存のファッション界の構造のなかで
経営が困難に陥っている、まちの産業の姿と重なるという。

生産者の思いと生業を成立させたい――
その思いの出発点は、東京・八王子の繊維工場との関係性だった。
ミナ ペルホネンの前身である〈ミナ〉を八王子で立ち上げた当時は
バブル経済が崩壊し、ファッション界は海外に生産拠点を移し始めた時代。
皆川さんは仕事が激減していくまちの工場の現状を間近に見ていた。

「海外で大量に安くつくり、売れ残れば捨てたりセールしたりする。
いまや年間膨大な量の服が捨てられています。
そういう大きなサイクルとは真逆の方法論でも成立することを
世の中に対して表現できたら、何か意味を持てるんじゃないか。
そんなことを、ブランドを始めた頃からよく考えていました」

「真逆の方法論」のアプローチのひとつは、
まちの工場の経営を維持させるために彼らに仕事を依頼することだった。
ブランドはそのためにも工場の特徴を考慮したデザインをクリエーションしていく。

実際にミナ ペルホネンはこれまで、
〈有限会社大原織物〉(東京都八王子市)、
〈株式会社神奈川レース〉(神奈川県愛甲郡愛川町)、
〈西田染工株式会社〉(京都府京都市)、
〈株式会社マルナカ〉(埼玉県飯能市)などに
テキスタイルづくりを依頼してきた。

「いまは、繊維を加工するまちの工場だけでなく、繊維の産地も相当難しい状況です。
現在、原料はほぼ輸入で、国産はゼロと言ってもいい。
だけど例えばコットンなら浜松など、産地は日本各地にあるんです。
そうした産地ごとの特性をできるだけ残したい。
そういう工場や産地を守るための環境を整え、
その価値を伝えるところまでを含めて、『デザイン』だと思うんです」

もうひとつのアプローチは、持続させることだ。
例えば長く愛用したくなるような魅力的なものをつくる。
たとえその価格が10倍になっても、10年以上使い続けるものになるなら
1年あたりの金額としては同等以下となる。

すると、手間や時間をかける分、必然的にある程度の価格になる職人仕事も、
世の中に長く存続できるのではないか。
またそうすれば、製品の極端な安さを実現するために
大変な思いをしている人たちだって減らせるかもしれない。

「『短時間だけ使って、あとはまた買えばいい』
と思われないものづくりがあると思うんです。
一番の近道は、人が『好き』『うれしい』『幸せ』と思う状況をつくること。
そのものが魅力的なら捨てずに大事にしたいと思うし、人も集まる。
そうやって人の幸福感を持続・循環させるのも、デザインの役割だと思います」

売り上げや利益という指標ではなく、決して数値化されることのない
「幸福感」を追求することは、現代の資本主義が目指すものとは明らかに異なる。
つい先日まで経営の最前線に身を置いていた皆川さんは、
現代の企業や資本主義のあり方を指して
「成長だけを前提とするのは現実と合っていない」と指摘する。

「単に経済的な成長を目指すと、その過程で過剰な競争や格差を生み、
人の幸福感のバランスを崩す可能性が大きくなります。
大切なのは資本と理性のバランスです。
占有率を意味する“シェア”ではなく、分かち合う意味の“シェア”の精神を持ち、
他者の幸福も自身の幸福も両方とも満たすのが、
理想的な資本主義ではないでしょうか」

ひとりの満足ではなく、できるだけ多くの人々の幸福が満たされ、
長く長く続いていくこと。そのヒントはローカルにある――。

皆川さんとミナ ペルホネンの取り組みには、
その確信と手ごたえがあるように感じられてならない。

creator profile

Akira Minagawa 
皆川明

みながわ・あきら●1967年東京都生まれ。1995年に〈minä perhonen(ミナ ペルホネン)〉 の前身である〈minä(ミナ)〉を設立。ハンドドローイングを主とする手作業の図案によるテキスタイルデザインを中心に、衣服をはじめ、家具や器、店舗や宿の空間ディレクションなど、日常に寄り添うデザイン活動を行っている。2019~2020年に東京都現代美術館で開催された展覧会『ミナ ペルホネン/皆川明 つづく』が、2022年の春に福岡県、夏に青森県で開催される。

https://www.mina-perhonen.jp

information

北アルプス国際芸術祭2021-2022

アート会期:2021年10月2日(土)~11月21日(日)

開催地:長野県大町市

Web:北アルプス国際芸術祭2020-2021

writer profile

岡澤浩太郎 Kotaro Okazawa
おかざわ・こうたろう●1977年生まれ。編集者、ブックレーベル・八燿堂主宰。『スタジオ・ボイス』編集部などを経て2009年よりフリー。19年、東京から長野に移住。興味=藝術の起源、森との生活。個人の仕事=『murmur magazine for men』、芸術祭のガイドブックなどの編集、『花椿』などへの寄稿。趣味=ボルダリング(V5/1級)。

photographer profile

木寺紀雄 Norio Kidera
きでら・のりお●写真家。神奈川県横須賀市出身。役所勤務、スタジオマンを経て、ホンマタカシ氏に師事。2001年独立しフリーとなる。雑誌広告、CMなどで活動中。

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