連載
posted:2012.4.4 from:福井県福井市 genre:活性化と創生
〈 この連載・企画は… 〉
コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。
writer profile
Maki Takahashi
高橋マキ
たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/
credit
撮影:合田慎二
山崎亮さんと一緒に訪れるまちは、早くも3か所目。
ここからは、古いビルを地産地消カフェとスクーリング空間として再生させた、
福井市のフラット・プロジェクトについてうかがいます(全4回)。
山崎
うわぁ、いただきます!
カツ丼食べながら対談って、なんだか新しいですね(笑)。
……うん、おいしい!
藤田
どうぞ、どうぞ。
福井名物のひとつ、「ヨーロッパ軒総本舗」のソースカツ丼です。
それはそうと、せっかく取り上げていただくフラットビルがちょうど改装中で、
ホントにすみません。
山崎
いえいえ、そんないきさつも含めて、
おはなしが聞けたらいいなって思ったんですよ。
ところで、ここはどういう場所なんですか?
内田
わたしが代表をつとめるデザイン企画チーム「HUDGE」の事務所です。
出水
この場所から、ぼくらのフラット・プロジェクトが生まれたんですよ。
山崎
え? 始まりはここなんですか?
内田
窓の外に、福井を象徴する足羽山と足羽川があって、
片町という繁華街もすぐそばで。
そんなロケーションと物件に惚れてうちの事務所が入居したんです。
そうしたら、ご覧のようにワンフロア3部屋も取れるし、
ひとつをフリースペースとして利用して、
スクーリング・パッド(*)のような学びの場にできれば最高だなって。
山崎
なるほど。それが、さっき見せてもらった大きな部屋だ。
内田
ええ。でも、実際入居してみると、仕事優先で手が回らず、
ご覧の通りの倉庫状態ですよ(笑)。
出水
そんなときに、すぐ近くで今のフラットビルが売りに出たんです。
* スクーリング・パッド:デザイン、レストラン、映画、農業というテーマを掲げた4つの学部からなる、起業・独立・転職・スキルアップのための専門スクール。廃校を利用した「世田谷ものづくり学校(IID)」を拠点にしている。http://www.schooling-pad.jp/
山崎
藤田さんは公務員、出水さんは建築家、内田さんはデザイナー。
そもそも、この3人がコミュニティをつくることになった
きっかけを教えてください。
藤田
わたしが所属している
デザインセンター(公益財団法人ふくい産業支援センターのデザイン振興部)で、
黒崎輝男さん(IDEE、流石創造集団、スクーリング・パッド、自由大学等設立)を
お招きして、オープンセミナーをやったんです。
内田
もう、5〜6年前になるのかな。
出水
そのときに、スクーリング・パッドや
「IID 世田谷ものづくり学校」のはなしを聞いたらもう……。
藤田
ぼくら、すっかりハートを打ち抜かれてしまったわけですよ。
山崎
おお。具体的には、どの部分に?
出水
ぼくの場合、廃墟好きが原点なんです。
廃校や活用されていない古い建築物を、コミュニティ施設として再生できたら
どんなに素敵だろうって、自分でもずっと考えていたんです。
山崎
黒崎さんに出会う前から、夢があったんですね。
出水
そうですね。30歳ぐらいのころですかね。ちょうど、mixiがはやり出して、
思いのままに熱く日記を書き綴ったりしていました。
山崎
僕と出水さんは同い年だから……8年ぐらい前かな。
出水
それで、お役所に企画を持って行ったりするんですけど、
耐震性や経営上の問題がクリアできず、
どうしてもはじめの一歩が踏み出せずにいたんです。
山崎
その建築のプログラムが、公共的だったのはなぜなんですか?
出水
2年ほどカフェをやっていたこともあって、いろんな世代、
いろんな背景をもつひとたちが集まる場所で起こる化学反応みたいなことが、
もっと大きな規模で実現できれば、純粋におもしろいなって。
内田
健ちゃんのそんな熱いはなしを聞きながら、
じぶんもまた、クリエイターとのコミュニケーションを欲していたんですよね。
そうこうしているうちに、黒崎さんとの出会いをきっかけに、
3人の中でなにかが音を立てるように動き出しちゃって。
藤田
ぼくが思わず「じゃあ、あのビル買うよ」って言っちゃったんですよ。
山崎
えっ……?!
(……to be continued!)
information
FLAT
福井市呉服町にある古いビルを、ワークショップにより多くの人の創造力と行動力で再生したプロジェクト。1Fは「フラットキッチン」という名の地産地消カフェ、2Fはスクーリング空間、屋上には庭園を設け、このビルを拠点にふつうの価値観をクリエイティブな発想で転換し、よみがえった場所で生き方と学び方の再定義を行う。
住所:福井県福井市順化2-16-14
TEL:0776-97-5004
profile
SHIGEHARU FUJITA
藤田茂治
1972年福井県福井市生まれ。1996年近畿大学大学院修士課程修了。ボタ山と自然が美しい福岡県飯塚市でクラフトを中心としたプロダクトデザインを学ぶ。その後、デザインスタジオに一瞬所属。1998年からデザインの研究職として福井県職員となり、デザイン振興全般、農林水産品の販路開拓等の職務に就く。現在、公益財団法人ふくい産業支援センターデザイン振興部勤務。
profile
KENDAI DEMIZU
出水建大
1973年福井県福井市生まれ。海外での生活の経験や、田舎ならではの自然の中での遊びから今の地元福井の建築のあり方を模索中。2006年に建築会社、㈱建大工房設立。2010年6月、リアルに人が繋がれるコミュニケーションカフェ「FLATkitchen」オープン。まちなかの廃墟となった建築を再生させ、そこでのコミュニケーションを通じて、まちと人の可能性を引き出していきたい。
profile
HIROKI UCHIDA
内田裕規
1976年生まれ。越前和紙の里・旧今立町の月尾谷で育つ。広告や宣伝に関わるさまざまなアートディレクションをする傍ら、FLATの立ち上げに参加。主にスクーリングやイベントの企画広報を担当。株式會社ヒュージ代表。http://www.hudge.jp/
profile
RYO YAMAZAKI
山崎 亮
1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。
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