“よそ者”たちが移住先で叶える夢 一度訪れた旅人が移住者になる 温泉街・温泉津の不思議な引力
旅するシェフたちが温泉津をリピートし
それを出迎えるのまちの人たち

最初に〈旅するキッチン〉に参加した越出水月さん。地元農家から仕入れた食材で得意の中東料理を提供。
第一号に〈旅するキッチン〉のシェフとして〈WATOWA〉に来てくれたのは、
関東在住で、中東料理を提供してくれた越出水月(こしで・みづき)さんでした。
彼女は、温泉津での暮らしを毎日楽しみながら、
地元の農家さんや漁師さんとも仲良くなり、
野菜を採りに行ったり、漁師さんと船に乗って自分でイカを釣ってきたり。
そして、ランチとディナーの間の休憩時間には温泉に浸かったり。
2番目のシェフとして入ってくれた
関東在住のエドワード・ヘイムスさんはスパイスカレーを提供してくれました。

カメラマン、ミュージシャン、そしてフードディレクターの顔をもつエドワード・ヘイムスさん(写真右)も温泉津で料理をふるまった。
その後もデンマーク料理、メキシカン料理、京料理と、
いろいろなシェフが〈WATOWA〉にやってきました。
地元の人は「中東料理なんて生まれて初めて食べたわ!」と楽しんでくださり、
県内外からは温泉津に来たこともないお客さんも
〈WATOWA〉を目指して温泉津を訪ねてくれるようになったのです。

日本海に面して海の幸も豊富な温泉津。料理人にとって新鮮な地元食材との出合いも魅力。
また、地元の方々とシェフたちの関係性も生まれ、
地元の方の「また温泉津に帰ってきてね」という声に、
シェフたちが何度も〈WATOWA〉のキッチンでの営業をリピートしてくれて、
半年以上キッチンの営業予約が取れないほど、
都会ではできない田舎での生活を楽しみながら営業をしてくださいました。
1か月近く営業してくれるシェフは、もうまちの一員のように
「あ! 帰って来たの? 待ってたわよ~! おかえりなさい!」と、
まちの人たちが、通りのあちらこちらから手を振って出迎えています。
いつの間にか、シェフたちも一緒に「温泉津を盛り上げていくぞ」と、
一緒にまちのことを考えてくれる存在になっていったのです。
温泉津にやってきたシェフがそのまま移住!
「中の人」と「外の人」に築かれた信頼関係
世田谷でメキシカンとテキーラのお店を営んでいた高橋了さんは、
2021年から〈WATOWA〉での合計7回の営業を経て、
2023年に温泉津に移住してきました。
そして、チーズケーキとご飯のお店〈色~shiki~〉と
ハンバーガーショップと地ビール工場〈BOONIES DINER〉の2軒を
2023年にオープンしました。

〈旅するキッチン〉をきっかけに温泉津に移住した高橋了さん。
高橋さんはコロナ真っ只中の2021年8月、
東京ではお店もなかなか開けられない時期に、
「面白そうだから行ってみるか!」と初めて温泉津にやってきて、
このまちに入った瞬間に特別な感情になったそうです。
コロナ真っ只中であっても、営業を重ねるたびに、
世田谷ナンバーの車に乗ってきている自分たちを避けることなく
むしろ「おかえり!」と、待っていてくれる地元の方々に心を動かされたそう。
移住してきた了さんは手つかずの自然のなかで、
子どもにかえったように楽しんでいます。
遠くまで透き通った美しい海で遊び、魚を獲ってきたり、
高校生に連れられて夜中にカブトムシを探しに行ったり、
温泉津温泉の激熱の温泉に浸かるのが病みつきになったり——。

〈旅するキッチン〉を利用するシェフたちは、自ら率先して地元の食材を利用し地元の方々との関係を深めていっている。
〈WATOWA〉のキッチンは、料理しているのは「外の人」、
シェフを応援しに食べに来てくれる人は「中の人」と、
たまたま温泉津に観光でやってきた「外の人」。
そんな人たちがいつの間にか仲良くなり、
「外の人(シェフ)」が温泉津のいいところを観光客に紹介し、
「中の人(地元の人)」が「外の人(観光客)」をもてなすような
関係性が生まれていったのです。
そして、「夢があるんだ」「何かに挑戦してみたい」「温泉津に移住したい」。
そんな人を見つけたらとことん話を聞き、手伝えることがないか真剣に考えます。
空き家を紹介したり、まちのキーパーソンとつないだり、
「困ったことがあればすぐにでも駆けつけるから」と、
私が温泉津に来たときに地元の人たちから助けてもらったように、
私も自分事のように彼らのチャレンジを応援し続けています。